
医療マーケティングの基礎 #1
医療マーケティングってなに?広告との違いや必要性を解説
はじめに:"患者に選ばれる"時代の到来
かつて医療機関は"待っていれば患者が来る"時代でした。
しかし今は、情報があふれる時代。
患者はクリニックを探し、比較し、選ぶようになりました。
そのとき決め手になるのが「信頼」「わかりやすさ」「自分ごととしての共感」です。
こうした要素を意識的に設計していく活動こそが、"医療マーケティング"です。
医療マーケティングと広告の違い
「マーケティングって広告のこと?」という質問は、非常によく耳にします。
しかし実際には、マーケティングは広告よりもはるかに広く、戦略的な取り組みを指します。
違いを明確に理解することが大切です。
まず、広告の主な目的は「短期的な集客」です。
チラシや看板、Google広告などを活用し、今すぐ来院してもらうことを狙います。
一方、マーケティングの目的は「中長期的な関係構築」にあります。
単に患者を集めるのではなく、継続的に信頼を得て“かかりつけ化”してもらうことを目指します。
手法にも違いがあります。
広告は主に一方向的な情報発信にとどまりますが、マーケティングではコンセプト設計や患者動線の分析、LINEやSNSの活用など、患者との双方向コミュニケーションが重要になります。
また、投資効果の面でも違いが出ます。
広告は即効性がある一方で、持続的な効果は弱めです。
対してマーケティングは、成果が出るまでに時間がかかるものの、一度仕組みが整えば「資産」として長く機能し続けます。
広告は“打って終わり”になりがちですが、マーケティングは“仕組み化”や“導線設計”を通じて、患者と継続的な関係を築いていく活動なのです。
なぜ今、医療マーケティングが必要なのか?
1. 競合クリニックの増加と患者の選択肢の多様化
都市部では特に、同じ診療科のクリニックが徒歩圏内に複数存在します。その中から選ばれるには、"何を重視する患者なのか"を理解し、その人たちに響く情報発信が必要です。
2. 自費診療領域の拡大
美容皮膚科、AGA、NIPT、ピル処方など、自費診療では自由な価格設定とブランディングが可能です。ここでは、戦略的なマーケティングが収益を大きく左右します。
3. 患者の検索行動の変化
多くの患者は、来院前に「Googleで検索」「Instagramで雰囲気を確認」「口コミをチェック」します。つまり、来院前にほぼ意思決定が終わっているとも言えます。
4. スタッフ採用や院内の雰囲気改善にも効果
マーケティングは対患者だけでなく、採用ブランディングにも効果的です。「この院で働きたい」「理念に共感できる」と思ってもらえるかどうかも設計次第です。
医療広告ガイドラインとの関係性
「広告」と聞くと、医療広告ガイドラインの制約を不安に思う方も多いかもしれません。
ただし、ガイドラインはあくまで「患者を誤認させたり、過剰に誘導したりする表現」を禁止するものであり、すべての情報発信がNGというわけではありません。
適切な工夫をすれば、マーケティング的な取り組みも十分に可能です。
たとえば、治療のビフォーアフター写真については、原則として掲載できませんが、患者の声やインタビュー形式での体験談など、写真以外の方法で感想や変化を伝えることは許容されています(※ただし個別症例のように見える表現には注意が必要です)。
また、数値による成果の強調は、根拠やデータの出典が明確でない場合、誘引とみなされNGとなる可能性があります。しかし、公式統計や第三者機関のデータをもとにした「全体傾向」としての紹介であれば、一定の表現は認められます。
さらに、他院との比較は原則禁止されていますが、自院の取り組みや強みにフォーカスした表現、たとえば「当院では〇〇に力を入れています」「専門性を大切にしています」といった主観的なスタンスの紹介は問題ありません。
大切なのは、患者に誤解を与えず、安心して正しい判断ができるように情報を届ける姿勢です。
誠実なマーケティングは、むしろ患者との信頼関係の構築に大きく貢献するものといえるでしょう。
医療マーケティングの具体的な内容とは?
「マーケティング」と聞くと、専門的で難しそうな印象を受けるかもしれません。
しかし実際には、医療現場で日々行われている取り組みと密接に関係しています。
まず、重要なのはペルソナの設計です。これは「どんな患者さんに来てほしいのか」「どんな悩みを持っているのか」を具体的にイメージする作業で、ターゲット像を明確にすることで発信内容や導線設計がブレにくくなります。
次に、患者導線の設計があります。たとえば、ホームページやInstagram、LINE公式アカウントなどを、単体ではなく連携させることで、患者が自然に「認知 → 興味 → 予約 → 来院 → 再診」という流れをたどれるようになります。SNSだけで終わらせず、LINEでのリマインドや予約導線にスムーズにつなげる工夫が大切です。
また、コンテンツの発信も欠かせません。クリニックの考え方や雰囲気、医師の人柄が伝わるコラムや動画、Instagram投稿などは、患者にとっての「安心感」や「共感」につながります。特に医療のように専門性が高い分野では、言葉選びやトーン設計も信頼構築に直結します。
そして、再診率や定着率を高める施策も重要です。たとえば、LINEを使った来院後のフォローアップや、季節ごとの健康提案、再診時期のリマインドなどが効果的です。こうした取り組みは「一度きりの来院」で終わらせない関係性づくりに貢献します。
さらに、これらすべての活動をきちんと分析し、改善するプロセスも欠かせません。アクセス解析やSNSのエンゲージメント率、予約件数などの数値をもとに仮説を立て、施策のPDCAを回すことで、より高い効果が見込めるようになります。
このように、マーケティングを体系的に行うことで、単なる集客にとどまらず、患者から「ここに通いたい」と思ってもらえる“選ばれるクリニック”へと進化していくのです。
まとめ:患者と信頼関係を築くための戦略
医療マーケティングは単なる"集客手段"ではなく、患者にとって「ここに来てよかった」と思える体験を設計する活動です。
そしてそれは、結果として自然な口コミや紹介を生み、持続的な成長につながります。
マーケティングを知ることは、医療の価値を正しく届ける手段を持つこと。
患者との出会いを偶然ではなく"設計"する時代がきています。