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「ホットフラッシュ」はなぜ起こる? 対処法はあるの? 産婦人科医が解説

突然、顔や首まわりがカーッと熱くなり、汗が止まらなくなる…更年期症状の典型例として知られる「ホットフラッシュ」。「更年期とどう関係しているの?」「私にも起こるの?」と疑問に思われる方も多いかもしれません。本記事では、ホットフラッシュの基礎知識から、更年期との関係や症状が出たときの対処法まで、わかりやすく解説していきます。

ホットフラッシュとは?

ホットフラッシュとは、突然、上半身(特に顔、首、胸)に強い熱感を感じ、その後に発汗を伴う症状のことです。多くの場合、数秒から数分間続き、動悸や息切れを伴うこともあります。また、熱感の後に寒気を感じる方もいます。

 

更年期障害とは何が違うの?

「ホットフラッシュ」と「更年期障害」は密接に関連していますが、同じものではありません。


「更年期症状」とは、更年期(閉経前後5年の約10年間と定義されています)に起こる様々な心身の不調の総称のこと、「更年期障害」はそれが日常生活に支障をきたしているものを意味しています。


更年期症状の主な症状には以下のようなものがあります。

 

    •    ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)
    •    発汗(特に夜間)
    •    不眠
    •    イライラ、不安、抑うつ
    •    疲労感
    •    頭痛
    •    関節痛、筋肉痛
    •    膣の乾燥 など。

 

一方、「ホットフラッシュ」は、更年期症状の代表的な症状の一つであり、のぼせ、ほてり、発汗といった特定の症状を指します。つまり、ホットフラッシュは更年期症状の一部であり、更年期障害はホットフラッシュを含むより広い概念なのです。
 

ホットフラッシュは代表的な症状ではあるものの、更年期の症状は数百あると言われるほど多様で、これがあれば更年期障害、といえるような特徴的な症状はありません。

 

女性 更年期 ホッとフラッシュ 暑い
photo:PIXTA

 

ホットフラッシュが起こる原因は?

ホットフラッシュの主な原因は、大きく分けて以下の2つがあります。

 

原因01. 女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少

更年期にみられるホットフラッシュは、女性ホルモンであるエストロゲンの分泌が急激に減少することが背景にあります。閉経に伴って卵巣の機能が低下し、エストロゲンの分泌量が現象することで様々な症状が起こるのです。エストロゲンは卵巣から分泌されるホルモンで、女性の生殖機能を支えるだけでなく、体温調節、骨や血管、脳の働きなどにも大きく影響しています。

 

エストロゲンの急激な減少が引き起こすもの

エストロゲンが減少すると、体温調節やホルモン分泌を司る部分である脳の視床下部の機能に影響を与えます。その結果、体温調節がうまくいかなくなり、急に体が熱く感じたり、汗をたくさんかいたりするわけです。
さらにエストロゲンの低下は、心身のバランスを保つ自律神経系や感情面にも影響を及ぼすため、ほてり以外にもめまい、頭痛、不安感などの症状にもつながることがあります。

 

原因02. 自律神経の乱れ

自律神経は、呼吸や心拍、体温調節などを無意識にコントロールしている神経です。ストレスや睡眠不足、過度なダイエット、生活リズムの乱れなどによって、自律神経が乱れるとホルモンバランスが乱れ、体温調整の機能がうまく働かなくなります。その結果として、ホットフラッシュに似たほてりや発汗といった症状が起こることがあります。

 

・更年期以外の世代でも、強いストレスや生活習慣の乱れが重なると、一時的にエストロゲンの分泌量が低下したり、自律神経が敏感になることがあります。

 

原因03. 一部の薬剤による影響(降圧薬など)

ホットフラッシュは、女性ホルモンの変化や自律神経の乱れ以外にも、服用している薬の影響で起こる場合があります。特に、一部の降圧薬(高血圧の治療薬)や血管拡張作用のある薬剤では、顔のほてりや皮膚の紅潮といった症状が副作用として現れることがあります。


ただ、これらの薬剤によって起こる「ほてり」は、更年期にともなうホットフラッシュと似た症状ですが、原因が異なるため、治療の方針も異なります。もし薬を飲み始めてからホットフラッシュのような症状が出てきた場合には、自己判断せず、必ず処方医や薬剤師に相談しましょう。薬を中止したり変更する際には、医師の判断が必要です。

 

代表的な薬剤の例:

 •    カルシウム拮抗薬(Ca拮抗薬 例:アムロジピン、ニフェジピンなど)


血管を拡げて血圧を下げる薬ですが、その作用によって顔の血管も広がり、ほてりを感じることがあります。  

 

 •    硝酸薬(例:ニトログリセリンなど)


狭心症などの治療に使われる薬で、血管拡張による頭痛やほてりが副作用として知られています。  

 

 •    一部の抗がん剤  (例:タモキシフェンなど)

乳がん治療で使用されるホルモン抑制薬は、閉経に似たホルモン状態を人工的に作るため、ホットフラッシュのような症状が現れることがあります。

 

ホットフラッシュの対処法は?

ホットフラッシュへの対処は、大きく「医療的アプローチ」と、「生活習慣の見直し」の2つがあります。実際のところ、更年期症状としてのホットフラッシュは、セルフケアで解消することは難しいため、一度専門医に相談してみることをおすすめしたいです。


症状の程度や頻度、個々の体調などに合わせて治療法を相談できます。

 

対処法01.医療的アプローチ(投薬など)

ホットフラッシュの症状が強く、日常生活に支障が出る場合は、医療機関で相談することをおすすめします。血液検査でホルモンの状態をチェックし、更年期に伴うエストロゲン不足がみられる場合は、ホルモン補充療法がファーストチョイスとなります。


具体的なアプローチとしては以下があります。

 

ホルモン補充療法(HRT)

・ホルモン補充療法とは?

減少した女性ホルモン(エストロゲン)を外から補う治療法です。内服薬(のみ薬)や貼付薬(皮膚に貼るタイプ)、塗り薬(ジェルタイプ)などの形で行われます。ホットフラッシュをはじめとする更年期症状の緩和に有効とされています。また、不眠や気分の落ち込みなど、ホットフラッシュ以外の更年期症状にも改善が期待できます。 

 

非ホルモン系の薬(抗うつ薬など)

・抗うつ薬や漢方以外の選択肢


エストロゲンを用いない治療として、抗うつ薬の一種である「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」や「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)」がホットフラッシュの頻度や強度を軽減することがあると報告されています。


気分の落ち込み・意欲の低下・イライラ・情緒が不安定・不眠などを伴う場合の選択肢として使用されます。
これらはあくまでも更年期うつなどを伴う場合や、HRTが使用できない場合の選択肢として検討されますので、医師と十分に相談しながら進めましょう。 

 

漢方薬

・漢方薬とは?  

漢方薬は天然の材料となる植物や鉱物などの複数の生薬を組み合わせた薬で、東洋医学の概念に基づいて処方されます。更年期障害に対する漢方薬としては「当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)」「加味逍遙散(かみしょうようさん)」「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」などが代表的です。
ただし、一人ひとりの体質や症状に合わせた処方が必要になるため、婦人科で相談し他の症状なども踏まえて医師に処方を相談しましょう。

 

聴診器 健康診断 結果
photo:PIXTA

 

対処法02. 生活習慣の見直し

1 適度な運動

ウォーキングやストレッチなどの軽い運動は、自律神経のバランスを整えたり、ストレス解消に役立ちます。激しい運動は苦手でも、少し体を動かすだけでも血行改善や気分転換につながります。

 

2 十分な睡眠

質の良い睡眠はホルモンバランスや自律神経の安定に必須です。寝る前のスマホやパソコン使用を控え、リラックスできる環境を整えましょう。 

 

3 ストレスマネジメント

ストレスでイライラが続くと自律神経が乱れ、ほてりや大量発汗が起こりやすくなります。趣味の時間を作る、カウンセリングを受ける、友人や家族に話を聞いてもらうなど、上手にストレスを発散しましょう。

 

4 カフェインやアルコールの摂取を控えめに

コーヒーやお酒はほどほどにするのがおすすめです。カフェインやアルコールは体を刺激し、のぼせ感や発汗を強める可能性があります。 

 

ホットフラッシュが頻発する場合は?

日常生活に支障が出る場合は病院へ

ホットフラッシュの頻度や強さが増してきたり、ほかの症状(動悸、不眠、イライラなど)が重なって「家事や仕事が続けられない」「外出を控えるほどつらい」と感じる場合は、更年期障害や女性の健康を専門に扱う婦人科を受診しましょう。


医師に詳しく症状を伝え、必要があれば血液検査などでホルモン値をチェックすることで、より適切な治療方針が立てられます。ホルモン補充療法や漢方薬をはじめ、薬剤や治療法の選択肢は多岐にわたりますが、それぞれに注意した方が良い合併症や既往もあるため、医師と相談して自分に合った選択肢を選びましょう。

 

受診時に伝えてほしいポイント

1 ほてり・発汗の具体的な様子(1日に何回くらい、どの時間帯に多いか)

2 ほかに困っている症状(めまい、イライラ、不眠、動悸など)があるか  
3 生活習慣やストレスの状況  

4 妊娠の可能性、既往症(過去の病気)や現在の持病の有無  

5 他で治療中の病気、使用中の薬やサプリメントの有無

 

これらの情報をあらかじめ書き出しておくと、医師に正しく伝えやすくなります。

 

おわりに

ホットフラッシュは、更年期を中心に起こりやすい症状ですが、ストレスや生活リズムの乱れなどが原因で、若い世代でも起こることがあります。急にカーッと熱くなり、汗がドッと出る症状は、体力的にも精神的にも負担が大きいものです。「気のせい」「年だから仕方ない」と我慢し続けるのではなく、まずは生活習慣を見直し、改善が難しい場合は遠慮なく婦人科などを受診してください。


ホットフラッシュを軽減する方法は、ホルモン補充療法から漢方まで多様に存在し、個々の体質や状況に合わせて選ぶことが可能です。症状やリスクを含め、医師に相談しながら、あなたに合った対処法を見つけていきましょう。ホットフラッシュだけでなく、心身の健康と快適な更年期ライフにつながるはずです。

 

【参考文献】
今日の臨床サポート 更年期の不定愁訴
日本産婦人科医会HP 更年期障害
産科と婦人科 増刊号2019 新時代のホルモン療法マニュアル 診断と治療社 
くすりのしおり by 一般社団法人くすりの適正使用協議会

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

院長

宋美玄先生

産婦人科

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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