「あるある」じゃ済まされない⁉ 本当にあった産婦人科でのトンデモ話 #11
初めての妊娠・出産で心を折られた、助産師・看護師・保健師からのトリプルアタック
初めての妊娠出産。初めての育児。思うようにならない怒涛の毎日を乗り切る中で、助産師、看護師、保健師の言葉に、心を折られてきた。今回体験談を寄せてくれたミハルさんはそう話す。
現在40代のミハルさん(仮名)が、はじめて出産をしたのは、今から20年と少し前のこと。ミハルさんは、小柄で華奢なシルエット、穏やかで周りの人を和ませる、優しい印象の女性だ。だから大人しそうで、「反論しなさそう」「何を言っても許されそう」と、思われてしまうかもしれない(実際は全くそんなことないのだが)。そのせいか、マルチ商法活動する知人に、ロックオンされた経験もある。
そんなミハルさんが出産の場として選んだのは、市立病院だった。初産は時間がかかるものだが、ミハルさんも同様の経緯をたどった。
完璧な自力排便を要求され、そのうえ体型いじり⁉
助産師による、信じがたい暴言
「丸一日陣痛に苦しんで、ヘトヘトでしたね。朝、入院してから分娩台に向かえることになったのは翌日の昼です。は~、やっと産める……と思っていたら、おかっぱメガネの助産師さんに、『トイレで排便しておいて』と指示されました」(ミハルさん)
最近では少なくなってきているようだが、「分娩前の排便管理(時に強制的な浣腸も含む)」が一般的だった時代だ。当時は衛生面や産道確保のために必須とされていた。しかしその後、WHO(世界保健機関)などの研究により、「ルーチン(定型的)な浣腸が、お産の進みや感染率を改善するわけではない」という結果が示された。これを受け、医学的に必要がない限り一律に行う施設は減った。
しかし「分娩前の排便が当たり前」だった時代だからと言って、便意もないのに「出しておけ」と言われても、平常時でもなかなか難しいのでは……(母乳に関してもだが、こうした無茶ぶりは産婦人科周りで多いように思える)。
「病院の指示ですからね。私も自分なりに頑張って、出したつもりでした。でも、全部出し切るのは難しく、少し残便があったようなんですよ。そのため分娩中に、便が出てしまったようでした」
分娩台で便が出ることもまた、ごくごくごく普通の話である。その場合は何事もなかったように速やかに清掃するのが普通の対応だと思うのだが、その助産師はこう言った。
「便を出しといてねって言いましたよね……。ちゃんと……出したーー⁉」
(だんだんと声のボリュームが大きくなる)
ミハルさんの話を聞いていた筆者は、失礼ながら『鬼滅の刃』の無残様のパワハラ会議(ご存じない方はお暇でしたら検索を…)が脳内に浮かんでしまった。そ、そんなことを言われてもおぉ……。
便を完璧に出せていたかどうか、陣痛でそれどころではないので、受け答えできなかったミハルさん。すると助産師は、さらなる小言で詰めてきた。数ある中で一番ひどかったのは、体型への揶揄(やゆ)った。分娩台で大きく足を広げている股の間を両手で指差し、円を描くようなジェスチャーでこう言ったという。

「はー。まあ、この辺りがたっぷりだからねえ」
「なかなか子宮口が開かなかった原因が、太りすぎだからだと言わんばかりでした」
肥満と陣痛は関係ないとはいえないが、冒頭でも触れたとおり、ミハルさんは一般より細いくらいの体型である。妊娠で多少増えても、「肉付きがたっぷり」と言われるほどではない。
「確かに、いままでにないような肉の付き方はしていました。特にお腹周りとおしりとふとももは。だから実は気にしていて、股に肉がついた…と言われて、正直相当傷つきました。陣痛で苦しみ、反論できないような状況で、いじわるな小言。子どもが成人した今でも、おかっぱ&丸メガネの女性を見るたびに思い出してしまい、未だに腹がたちます」
わざわざ羞恥心を抱かせるようなことを言うのは、陰湿さしか感じられない。
お産でトラウマを負った場合、最近では「周産期メンタルヘルス外来」といったものがある。しかし、当時はまだほぼ存在していなかったし、もしそのような窓口があったとしても、虫歯ですら、なかなか病院へ行かれないという声も常に聞こえてくるのが現状だ。子どもを抱えた母親が自分のケアをするハードルは果てしなく高かっただろう。。
入院期間も、小言の石礫。「言い方ぁ……」と白目になる凍った空気の病室
腹立たしい気持ちを抱えつつも出産は無事に終わり、母子ともに健康で、ミハルさんは退院までの日々を過ごすことになった。
「入院中の赤ちゃんのお世話は、おむつ替えと授乳のあと、体重を測って用紙に書き込み記録をつけるというシステムでした。疲れ果ててはいましたが、赤ちゃんに必要なことだからとなんとか頑張っていましたが、記録をチェックしに来る看護師がこれまたキツくって」
その日はお世話が終わった直後で、たまたま記入が済んでいないタイミングだった。未記入の用紙を見て、鋭い言葉が飛んでくる。

「なにこれ! ちゃんと書かなくちゃダメじゃない!」
(いやだから今から書くところで……)
「このドライヤーもっっ!!!! 借りたらちゃんと返して!!!!」
(これから使うんですけど。)
「一人目の出産で精魂尽き果てていたので、心の中で毒づくだけで、何も言い返せなかったのが悔しくて。でも、近くでそれを見ていた若い看護師さんが、気の毒そうな顔をしてくれたのだけが、少しありがたかったです。『これから育児していくんだから、しっかりしなさいよ』と発破かけてくれてるのかな……と無理やり前向きにとらえようともしましたが、もう言い方が無理。いかにもめんどくさそうな、忙しいのにいちいち言わせるな!的なニュアンスが伝わってきて、心に突き刺さりました。あの態度は本当に信じられません」
そのほか何をするにも冷たく突き放すような物言いをされた。ただでさえ心身が不安定になる産後である。自信は枯渇し、気落ちする毎日で育児をすることとなった。
お次は保健師。普通に言えないのはなぜ⁉
さらなる”お叱り”は、自治体による3〜4カ月の健康診断でのことだった。事前に送られてきた育児に関するアンケートを提出し、順番を待って医師の検診がはじまった。すると、横に立っていた60代くらいに見える保健師が、突然声を荒げたのだ。
「ちょっとちょっとお母さ~ん、もうジュース飲ませてるの!???? ジュースは、飲ませなくてい・い・ん・で・す・よ!!!」
「隣に座っていた医師も驚くクソでかボイス。急にキレなくても……」
20年前は、育児の情報が大きく変化していった過渡期とも言える(常にそうではあるが)。当時の少し古い常識として、離乳食の前準備として生後2〜3カ月ころから、薄めた果汁をスプーンで与えるという一般常識があった※。筆者も親世代がそれがスタンダードだったので、そうしたエピソードはよく耳にしてきた。
※厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド」が2007年に改訂され、「離乳食開始前に果汁を与える必要はない」と明記された。これにより、現在の「離乳食は生後5〜6ヶ月から。それまでは母乳・ミルクだけで良い」という常識へ切り替わった。
「そこでも『はぁ……』と言うのが精一杯でした。何も言い返さずに悶々として帰ったのですが、今なら『ジュース飲ませたら死ぬんですかね?飲ませちゃダメではないんですよね?てかなんてそんなキレてるんですか?初めての子育てを手探りでやって、ただでさえ疲弊している人にそんなにストレス与えて産後うつにさせたいんですか?』って思い切り言えるのに。今思い出しても悔しいです」

助産師、看護師、次は保健師。現場では慢性的な人手不足や、過重労働などの事情もあるかもしれない。また、封建的な医局文化が影響している可能性もないとは言えないだろう。しかしミハルさんの状況を聞く限りでは、単なる不機嫌のまき散らしにしか思えない。正直、どんな場所にも変な人というのはいるものだが、地域の健康を支える場には、極力いてほしくないタイプである。
「出産前の検診などでは全くそんなことなかったのに、子どもを産んだとたんに、急に圧が強い人に出会う確率が跳ね上がるんです」
これらの理不尽な言動の根底には、「新米母は無知」「自分たちは教えてあげる立場」という専門職側の無意識の優位性、そして封建的な医局文化の残滓(ざんし)があったのかもしれない。それでも重要なのは、個人の不機嫌や過重労働といった事情が、心身ともに不安定な弱者に向けた暴言の言い訳にはなりえないという点だろう。もし過去を水に流し、自己責任論で片付けるような社会の圧力があったなら、それは被害者の痛みを軽視している。
ミハルさんの「正当な怒り」が、単なる個人の体験談ではなく、地域の健康を支えるべき医療・福祉の現場が孕む問題として受け取られるといいと思う。私たちは、こうした「暴言」を「当たり前」として受け入れる必要は全くない。傷ついたら、声をあげられる環境を目指すのが(もちろんあげなくてもいい)よりよい環境づくりにつながることと、信じよう。
余談だが、悩みを聞きだし徹底的に寄り添い、特定のサービスに囲い込む……という商売もたくさんあるのでは。それにも気を付けたい……。
参考文献:
山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru















