
crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #09
大学病院でのお産、実習生の見学に応じないとだめですか?
プライベートなお産の場と、教育機関としての大学病院
今回の炎上ウォッチは度々炎上する、分娩時の立ち会いについてです。今回の発端は、すでに消えてしまっているようですが、医師(非産婦人科医)を名乗るアカウントが「大学病院でお産する人は実習生の見学を断った方がいい。ニヤニヤしたり茶化したりする不真面目な学生も多いから」という旨のXの投稿でした。それに対し、「不真面目な学生に出産に立ち会われるなんてありえない」という意見と、「大学病院は教育機関なので実習生の見学ありきで診療を受けてもらってるはずだ」「実習でお産に立ち会って産婦人科医を志す人もいる」という意見が入り乱れました。(実際は口調のキツいものも多く見られたようです)
大学病院での出産と、医学生や看護学生の実習というのは、昔からなかなか難しいテーマです。出産というのは非常にプライベートなことです。外陰部も含めてデリケートな部分を医療従事者に見せることになりますし、陣痛や産道を赤ちゃんが割って進む痛みに耐える姿は、平時の自分とは全然違うので、必要以上に多くの人に見られたいという人は少ないでしょう。(参考までにと言ってはなんですが、私の第二子出産時の分娩第一期と第二期の様子を載せます。仲間の助産師が複数ついてくれ、撮影してくれました)


一方、大学病院は医療機関と教育機関を兼ねています。患者さんは専門的な医療を受けることができるだけでなく、最先端な医療にかかる費用を大学側が研究費として持ち出すことすらありますが、性質上、医学生や看護学生の実習に協力していただくことがある旨の説明を受けていると思います。基本的に大学病院におかかりの方は、後進の医療者育成のために、原則ご理解をいただきたいと思います。
大学病院にかかる理由や背景は、人それぞれ
ただ、大学病院で出産をする方の中には、それ以外の選択肢がなかったという方も多くおられます。数ある病院の中から自分で大学病院を選んだ方と、合併症などで大学病院を紹介されたり、地域にその大学病院しかお産できる場所がないなどの理由で、大学病院で産むことになった方とは同じように考えられないのではないでしょうか。
その上で、私の感覚としては、受け入れていただけたら本当にありがたいけれど、後進の育成や実習が産婦人科を目指す動機になるかもしれないことなど、こちらの事情を前面に出してプレッシャーのような状態でお願いするのは違うように感じます。自由にお断りできる状態でお願いだけはさせてもらいたいですが。
進路はどうあれ、医師として、お産や女性医療の学びは必要
そして、多く見られた意見として「出産に立ち会って感動することで、産婦人科医を目指す人もいる。産婦人科医は不足しているので、立ち会いに協力してほしい」というものもありました。確かに実習で出産に立ち会うことがなければ、産婦人科という診療科へのイメージが湧きづらく、目指すきっかけが失われるというのは事実だと思います。しかし、これは実習の本質ではないと思います。臨床現場での実習は、将来どの診療科に進み、何を専門とするにしても、全ての診療科を回る必要があります。体の部位や診療科の範囲はそれぞれ完全に独立したものではありませんし、産婦人科以外の診療科の医師が妊娠・出産について何も見たことがないままでは女性が適切な医療を受けられなくなるでしょう。実習の本質は学びなので、感動するかどうかや産婦人科を志望するかどうかは枝葉でしかありません。
出産を含め、患者さんに大学病院での実習に協力していただくためには、抵抗感を少しでも少なくする必要があるのは言うまでもありません。その中でも出産は最もデリケートな部類に入ります。指導医による説明、学生の私語や態度などは、見られていない場所も含めて気をつけなくてはいけません。私は自分が学生の立場で実習させていただいたこともありますし、2つの大学病院で勤務し、学生や研修医を指導したこともあります。いずれも、指導が行われ、にやにやしたり茶化したりするような学生はいなかったですし、カーテンで仕切られて患者さんから見えないところや、患者さんが麻酔で眠っているようなところで、失礼なことや体に許可なく触るということを見聞きしたこともありません。
繰り返す産婦人科の炎上、必要な受診は遠ざけないで
SNSではことあるごとに産婦人科関連の話題が炎上し、火元に関わらず、産婦人科医療自体が炎上します。とても残念ですし、申し訳ない気持ちになることも多いです。どこの業種にも非常に質の低い人が存在するとはいえ、産婦人科診療は女性の最もプライベートに関わるものなので、非常に重大だと思います。ただ、大半の産婦人科医はまともで、患者さんのために邁進していることも知っていただきたいです。(質の低い医師を排除するというのは国ですら難しいことで、患者さんが安心してかかれるドクターを見つけてもらいたくて作ったのがこのメディアです。ドクターと繋がれるページは現在絶賛準備中です)
ですが、産婦人科について、ただ不信や嫌悪感を煽る投稿には疑問も感じます。特にそれが当事者からの告発ではなく、医療従事者からのものである場合です。女性が自分の体について知り、主体的に健康管理し、病気を予防してからだの自己決定権を行使していくためには、産婦人科という医療のプロバイダーに必要に応じてかかることが必要です。何の解決策もなく、婦人科の印象が悪くなり、結果的に医療から遠のいてしまうような投稿は、女性のためを考えたものとは思えません。
SNSでは色々なことが日々論争になりますが、多くの女性の健康に少しでもプラスになる発信について日々模索していきたいです。
宋美玄
丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。
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