夫婦 子ども 赤子 育児

crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #07

公的な支援制度でパパの育児参加を国が応援 一方ママからの「相談」にはまだまだ課題

前回は産後うつについて、母親を孤立させることのないように家庭内での調整の必要性について書きましたが、とはいえ各家庭ごとに事情が異なり、家庭内だけで完結するのは難しいことも多いと思います。今回は現在ある公的なサポート制度について、主にママのためにあるものとパパの育児参加を社会で後押しするものについてお話しします。

 

ママのための公的サポート制度

乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)

乳児家庭全戸訪問事業、通称「こんにちは赤ちゃん事業」は、生後4か月までの乳児を持つ全ての家庭を対象に、市町村が実施する訪問事業です。保健師や助産師が自宅を訪問し、母親や家庭の育児状況を確認しながら、悩みや不安を聞き、必要な情報提供を行います。
 

母親や乳児の心身の健康状態を確認し、必要に応じて継続的な支援につなげることを目的としています。自治体により訪問時期は異なりますが、一般的には出生後28日以降から生後4か月までに行われます。訪問は、保健師、助産師、愛育班員、母子保健推進員など、子育てに理解のあるスタッフが担当し、母親が孤立しないようサポートを提供します。

 

一時保育・ヘルパーなど自治体の支援

自治体ごとに異なりますが、一時保育や育児ヘルパーの派遣、子育て支援拠点での育児相談など、様々な支援サービスがあります。たとえば、産後の体調不良や精神的負担が大きい場合、一時保育を無料で利用できる場合もあります。自治体によっては、育児ヘルパーの派遣を希望者が自由に依頼できる制度も整っています。また、緊急時に対応できる「ファミリーサポートセンター(ファミサポ)」や「ママカフェ」のような交流拠点もあります。
 
これらの制度により、産後うつのハイリスクとなる方をピックアップし、継続的な支援につなげたり、一時保育やヘルパーなどで実際の育児の負担を減らして休息してもらうというコンセプトです。


しかし、実際には機能していないこともあるとの声がSNSには溢れています。まず、全戸訪問では、EPDS(エジンバラ産後うつ病自己質問票)や赤ちゃんへの気持ち問診票(愛着を調べるもの)をハイリスク抽出のために答えさせているところが多いと思いますが、「こう答えたらハイリスクになるんだろうな」というのが回答者からもわかってしまうので、支援を積極的に求める気持ちがない人は、問題を抱えていないかのように回答できてしまいます。実際そのように回答したとの声も散見されました。
 
SNSで一番多かった声が、「相談したが意味がなかった」というもの。「眠れなくて辛い」と訴えても「産後のママは眠れなくても大丈夫なようにできているから(これは私も言われました。疲れているのは幻ということか?と余計に絶望)」「赤ちゃんと一緒に寝よう(それで十分眠れていたら相談しない)」と言われたり、「息抜きしてね」「頼れる人に頼ってね」という身のないことを言われて終わった、というようなエピソードが無数に投稿されています。


実際のところ、相談を受けても、一時保育や産後ケア施設には限りがあり(そのためか、さまざまな条件をつけてハードルを上げている自治体もあるようです)、相談者の悩みを根本的に解決する術がないのだと推測されますが、中には(どの職種でもあることですが)保健師や助産師の個人の資質により不適切な対応をされる例もあるようです。眠れない、疲れているという悩みは、話を聞いてもらう、相談する、ということではなく睡眠や休息でしか解決できないので、相談に乗って終わりではなく、その先の受け皿をもっと充実させる必要性を強く感じました。また、寝不足で疲れ切っている状態では預け先を探したり、手続きをするだけでも非常に負担が大きいので、(それこそケアマネのように)スムーズに繋いでくれる人がいるといいのかなと思います。(受け皿が先決ですが)

 

パパの育児参加を後押しする制度

パパが積極的に育児参加できるための制度は、年々充実してきています。

父親 子ども 赤子 育児
photo:PIXTA

 

産後パパ育休(雇用保険加入者が対象)

    ◦   子の出生後8週間以内に最大4週間取得可能。分割取得も可能。
    ◦    申請は事前に会社に申し出が必要です。
    ◦    給付は雇用保険から支給され、賃金の67%(180日目まで)、その後50%支給。

 

育児休業(雇用保険加入者が対象)

    ◦    子が1歳になるまで(保育所に入れない場合は最長2歳まで延長可能)。
    ◦    賃金67%(180日目まで)、その後50%支給。
    ◦    雇用保険から育児休業給付金として支給され、非課税です。

 

出生後休業支援給付金(雇用保険加入者が対象)

    ◦    両親が育休を取得し、それぞれが14日以上の休業を取得することが条件。
    ◦    両親ともに賃金の最大80%が支給されます。

 

パパ・ママ育休プラス

    ◦    両親が共に育児休業を取得する場合、育休期間を子が1歳2か月になるまで延長可能。
    ◦    両親がそれぞれ育休を取得することが条件。
    ◦    両親のうち、どちらか一方は最大で2か月追加取得可能。

 

育休や看護休暇中の社会保障と給与・ボーナス

育児休業中は社会保険料(健康保険・厚生年金保険・国民年金保険)が免除され、給付金は非課税です。また、将来の年金額に影響はありません。ボーナスは会社の規定により支給される場合があります。賃金の最大80%が支給され、社会保険料を支払う必要がないため、一般的な給与の場合はほとんど手取りが減らないと試算されています。ボーナス分は減る可能性がありますが、両親とも育休を取得した場合でも当面のお金に困るということではないように設計されています。
 
これらの制度は、雇用保険に加入している労働者が対象のため、個人事業主や自営業の方など雇用保険に加入していない方は利用できないので、対象から外れる人も少なくないと思います。

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001461102.pdf

 

こちらの制度は雇用保険に入っていなくても利用できますが、基本は無給です。

 

子の看護休暇

    ◦    小学校3年生修了までの子どもを養育する労働者は非正規でも可
年間5日(2人以上で10日)。
    ◦    時間単位でも取得可能で、仕事と両立しやすい。
    ◦    無給が原則で、給付金はありませんが、企業の就業規則によって有給となる場合もあります。

 

パパの育児参加を後押しする公の制度は年々充実してきています。父親を家庭に返そうという強いメッセージを感じます。ですが、複雑でわかりやすいとは言えず、勤務先の風土によっては休業しづらいところもまだまだ多いです。一人一人が取得していくことで、次の人が取りやすくなるので、初めから諦めずに取得を検討していただきたいです。

 

育児を一人で担うのが当たり前の時代はすでに終わっています。パパの積極的な関与は、母親の精神的負担を軽減し、誰よりも赤ちゃんにとって大きなメリットです。そのために活用できる制度は活用していただき、少しでも多くコミットするパパが増えると日本の明るい未来につながると思います。

 

【参考文献】

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/kosodate12/01.html
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158500.html?utm_source=chatgpt.com

 

 

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