crumiiを応援する バナー

宋 美玄のニュースピックアップ #23

出産費用「無償化」は無料じゃない!本当に国民が求める制度になっている?

 

電卓で計算する妊婦

こちらのようなニュースが報道されました。


出産、保険適用で無償化へ 医療改革法案が衆院通過


政府は、正常分娩に全国一律の単価を設け、公的医療保険で全額賄う「出産費用の無償化」制度を新設するとのことです。「お祝い膳」などの付帯サービスは対象外で、帝王切開は従来通り保険適用の3割負担を基本に、別途の現金給付で負担を抑える方針とのことです。
2028年6月ごろまでに開始する見込みとのことです。

出産費用「無償化」でどうなる?新制度の実態と課題とは


こちらのニュースに対し、「無償化、やったね!」という声が多く寄せられていますが、まずお伝えしたいのは、出産にかかる費用がすべて「無料」になる制度ではない、ということです。
現在、正常分娩には健康保険が適用されず、全額自己負担となっています。

出産育児一時金が50万円もらえるため、出産費用が50万円以内だった人は「おつり」が出て、50万円以上の人ははみ出た分を自分で支払うという制度となっています。

様々な額のお金と日本地図
Photo:PIXTA

新しい制度では、正常分娩に全国一律の「基本単価」を設定し(厚労省の資料によると保険ではないみたいです。また、体制や役割などを評価した加算もあるようです)分娩費用の部分は、健保組合など医療保険者が医療機関に直接支払う形となります。

つまり、妊婦さんは立て替えなくていい形になります。また、別で金額は不明ですが「定額の現金給付」も作るそうです。

帝王切開の場合は、保険診療適用となっているため、通常通り3割負担分が生じます。そこに対しては、「定額の現金給付」を当てる想定となっているようです。

分かりにくさが漂うこの制度ですが、厚労省によると、「出産費用が年々上昇する中、現行の出産育児一時金は、支給額を引き上げても妊婦の負担軽減につながらないという課題があり、妊婦の経済的負担の軽減を図るには、給付方式の見直しが必要」ということが背景にあるようです。

出産育児一時金は2023年に42万円から50万円へ引き上げられましたが、出産費用も多くの産院が値上げしたため、結局妊婦の手元には残らなかった、ということを指しているのだと思います。  

「無償化=無料」じゃない!出産費用新制度が抱える問題点

さて、ここから問題点を指摘していきたいと思います。
「無償化」と表現されていますが、実態は「無料」にはなりません。自己負担がなくなるのはあくまで「分娩費用」の部分に限られます。個室代、差額ベッド代、お祝い膳、エステなど「アメニティなどのサービス」は自己負担として残り、「定額の現金給付」から支払うこととなります。

アメニティなどのサービスについては、「妊産婦が自身のニーズに応じたサービス(お祝い膳等)を、納得感を持って選択できるよう、施設が提供するサービスの内容・費用等に関する情報提供を義務付ける」としています。

「見える化」無痛分娩についても、現時点では明確な言及はありませんが、同様の可能性が高そうです。

スクリーンショット 2026-04-30 21.00.43.png
厚労省保険局の資料「健康保険法等の一部を改正する法律案について」より引用


これらをまとめますと、

◎経腟分娩の場合

標準的な「分娩費用」→「基本価格」を国が設定し、健保組合などが医療機関に直接支払う
プラスで「定額の現金給付」があり、アメニティ部分はそこから払う。

◎帝王切開の場合

手術にかかる医療費(保険適用)の3割負担部分とアメニティ部分は、「定額の現金給付」から払う。
別の切り口で見ると、

「分娩費用」 →国が払う
帝王切開など保険適用の3割負担、個室代、お祝い膳などのアメニティ部分 (おそらく無痛分娩も)
「定額の現金給付」から各自払うもの

となり、帝王切開の人の方が、負担が大きくなる可能性が高いようです。


「定額の現金給付」の金額にもよりますが、「出産に関わる費用の自己負担が無料になる」という制度ではなく、今よりも本当に妊婦の負担が軽くなるのか疑問です。「無償化」というから「無料」だと思った!とトラブルにならないように、国には広く丁寧に周知をお願いしたいです。


産院の側から見ても問題があります。
産院は出生率が激減していく中、採算を取って産院を存続していかなくてはいけません。現在のところ分娩は自費診療なので、価格を自由に設定することができます。分娩数が減ってきたり、物価や人件費が上がってきたりすれば、価格に反映することができます。(もちろんそれで妊婦から選ばれなくなるリスクはあります)

2023年に出産一時金を値上げしたのに、産院が値上げしたということが今回の微妙な制度の発端となっているようです。メディアなどで「便乗値上げ」「いたちごっこ」などと表現されていたり、政治家のSNSアカウントで「産院が勝手に値上げできないように保険適用にして値段を固定しよう」など投稿されているのを見ますが、産院も医師、助産師をはじめ多数の職種の人が日々働いていて、地域の出産を支えているのに、産科医療に従事する人に霞を食って生きていけと言わんばかりの扱いに、ストレスを溜めている産科医は多いです。

ちなみに、42万円から50万円に出産一時金を値上げした時はどういう試算だったのでしょうか?出生数から、出産一時金の合計金額(国の支出の合計)を推計してみましたが、2010年代よりもかなり減っていて、そりゃあ一時金の範囲内で周産期医療体制を維持するのは無理でしょう、と思ってしまいました。

出産育児一時金の推計年間給付額と出生数の推移グラフ
crumii編集部試算よりAIを使用して生成

分娩費用を全国一律の「基本単価」として固定した場合、分娩数が予想以上に減った場合でも価格調整をすることができず、そのまま売上減となります。ここ数年、出生数は推計より下ぶれることが当たり前になっていますが、そういった事態に国が柔軟に「基本単価」を調整するのか疑問です。(国の推計では2040年に74万人でしたが、2025年の実際の出生数は67万人でした)

「基本単価」や「定額の現金給付」がいくらに設定されるかで、この制度下で妊婦の経済負担が減るのか、産院が存続できるのか、大きく変わってくると思うのですが、2023年の分娩一時金の値上げが結果的に不十分で、産院の値上げに吸収されてしまい、「便乗値上げだ」と言われてプライシングの権利まで奪われることになってしまったので、産科医療側としては今回の制度にも警戒感を持つのが当然と思います。

2028年開始予定の出産費用無償化、
妊婦さんの負担は本当に減るのか

とにかく妊婦さんの負担が減らなければ制度改革の意味はないので、しっかり妊婦さんの手元に残るように試算して金額を設定してほしいです。

また、この制度を適用されたくない産院は、当面現行の「自由価格制で、出産一時金50万円」の制度を適用することもできるのだそうです。妊婦さんたちからすると産院によって制度が違うので、非常に複雑になってしまうのではと危惧します。

この「全国一律の基本価格」導入により、地域によっては産院の存続が難しくなるところがあるかもしれません。そうなれば、本当に誰のための制度なのかわからなくなります。日本が誇る「世界一安全なお産」を過去のものにしないためには、いまある周産期医療体制を当たり前と思わず、維持できる政策が必要です。

また、今後さらに産む人が減ってくることを想定し、計画的に集約化してほしいです。そのビジョンが全く見えてこないのに、価格を国が固定する政策だけが出てくるのは、不安と言わざるを得ません。

これからも産みたい人が、できるだけ安全に、体にも経済的にも負担が少なくなる制度になるよう、引き続き注視していきたいと思います。 

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

監修チームについて知る
crumiiを応援する バナー

シェアする