胎児超音波検査 超音波検査 NIPT検査

crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #12

臨床の現場から考える「無認証NIPT」の弊害と課題とは?

今回は前回の記事「意義のうすい検査に高額を払わせる無認証NIPTをいつまで放置するのか」の続編です。

 

前回は、無認証NIPT施設が乱立し、放置されてきた経緯について主にお話ししましたが、今回は実際にどのような問題点があるかについて具体的に述べたいとも思います。
また、前回と今回の記事は、生命倫理に関わる検査をお金儲けの材料としか見ていない無認証施設について問題提起するものです。地域によっては認証施設のアクセスが悪いなどの理由で、無認証施設で受けざるを得ない方など、さまざまな事情がある方もいらっしゃるかと思います。そういった方にもぜひ知っていただけるとメリットのある内容ですのでぜひお読みいただきたいです。
胎児超音波検査 超音波検査 NIPT検査

NIPTで陽性となっただけで確定診断がなされず中絶に至る例がある

NIPTは陰性的中率(陰性という結果だった場合に実際は病気ではない確率)はとても高いですが、陽性的中率(陽性という結果だった場合に実際に病気である確率)はそこまで高くありません。(年齢と疾患によります。20代のダウン症候群が陽性と出た場合、実際にダウン症候群の確率は約8割です)
認証施設では、羊水検査などの確定診断も含め、結果が出た後のフォロー体制もしっかりしていますし、陽性時の羊水検査の費用は妊婦さんの負担にならない施設も多いですが、無認証の場合は陽性の結果が出て路頭に迷う妊婦さんも多いです。
SNSでは無認証施設の医師と思われる人が「2回検査して陽性だったら羊水検査は要らない」などの不正確な投稿をしており、無認証施設で受けて偽陽性となった場合に中絶に至ったいる例の暗数が心配されます。

検査会社のクオリティが担保されていない

現在、ちゃんとした検査会社は認証施設からの検体のみ請け負う制度になっています。無認証施設の中には自家で検査施設を設けたり、海外に提出したりして、検査の精度がどこまで担保されているか不明のところもあります。

非常に妊娠早期から行われていて、妊婦さんが囲い込まれている

認証施設と契約している検査会社では9~10週から検査できるところがほとんどですが、無認証施設の中には6週からという非常に早期に検査できることを売りにしているところがあります。非常に早期に検査するNIPTにはエビデンスがなく、不正確な結果となれば妊婦さんにとっては重大です。

採血前に超音波検査を受けることができないため、NIPTに適していない妊婦さんも受けている

NIPTを希望される方でも、その時点で赤ちゃんをエコーでよく見ると大きな異常があったり、すでに発育が止まっていたりして、高額なNIPT検査を受けても費用が実質的に無駄になってしまう場合があります。実際、私のクリニックでは必ず採血の前に最新の機器で超音波検査を行っていますが(NIPT検査費用に込み)、その段階で検査を中止したり方針を変更したりする場合が一定数あります。無認証施設では胎児を見たこともない医師が担当する場合がほとんどなので、検査に適していない人を見つけることはできません。
胎児超音波検査 超音波検査 NIPT検査

意義の低い検査を行い、結果を適切に説明できていない

無認証施設では、性染色体も含めた全染色体検査や微小欠失症候群(染色体の小さい部分が欠失して起こるいくつかの症候群)などの認証施設では行っていない項目も検査しており、それを売りにしているところも多いようです。ですが、これらの検査は、精度が低く適切な結果が得られていない可能性があったり、もし高い精度だったとしても、症状や重症度については個人差があり、その程度については予測できません。赤ちゃんが産まれた場合、どの程度の健康上の問題があるか、将来を見通したりするのは難しいです。また、性染色体の検査は必ずしも「性別」が分かるものではなく、結果の解釈に専門知識を必要とする部分を多く含みます。

前回の記事でご紹介した「出生前検査を考えたら読む本」(毎日新聞取材班 新潮社刊)という書籍の中にも、通常の染色体とは異なる結果が出たものの適切に解釈できず、中絶に至りそうになったが、臨床遺伝専門医の診察を受け、心配のない結果であることを知ることができて無事に産まれたという例が紹介されていました。
あたかも洗いざらい病気が分かるかのようにwebサイトでは説明しながら、それぞれの疾患や結果についてほとんど知らない医師が担当している弊害は大きいです。

NIPTで全てが分かるように誤解させ、超音波検査を受ける機会を失う

NIPTで分かる先天疾患は、認証施設で検査する13,18トリソミーとダウン症候群に、無認証施設で見つかるかもしれないいくつかの珍しい病気を加えたとしても、先天疾患全体の2割程度ですが、「全染色体」や「染色体の微小な異常もわかる」と書かれたwebサイトを見て、もう出生前検査はこれを受ければ安心、と思う人も多いようです。その結果、出生前検査の中で最も重要な胎児超音波検査(妊婦健診で受ける通常超音波検査とは異なり、赤ちゃんを一人一人患者さんとして細かくチェックするもの)という検査があることを知ったり、受検する機会を失う人が多くいます。

 

このように、無認証NIPTにはさまざまな問題点があり、適切に結果を説明されなかったりフォローされずに中絶に至ってしまうケースがあることは非常に重大です。無認証施設で不安な結果が出た場合は、そこで諦めてしまわず、臨床遺伝専門医のいる適切な医療機関に相談することがとても大切です。
また、無認証施設でNIPTを受けたという方も胎児超音波検査を併せて受けていただきたいです。(当院にも無認証施設でNIPTを受けた方が胎児超音波検査を受けにきていただくことがよくあり、歓迎しています)
胎児超音波検査 超音波検査 NIPT検査

 

このように、無認証のNIPT施設は非常に問題が多いですが、法律に触れているわけではなく(日本の自由診療は他のジャンルのものもこのような感じに「無法地帯」なことが多いです)、現状で取り締まる方法は難しいです。
私が提案したいのは、認証施設も無認証施設も多くある東京で、もしも認証施設でNIPT検査を受けた人にのみ都から助成があれば、無認証施設を淘汰できるのではないかなということです。ただでさえ出生前検査に保険適応はなく、NIPTは高額な検査です。赤ちゃんの情報を知りたいという家族の願いに経済格差が現状の解消も含めて意味のあることではないでしょうか。卵子凍結や無痛分娩に助成をされている東京都ならそこまで実現可能性が低くはないのではないかと思います。

 

宋美玄

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

 

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宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

院長

宋美玄先生

産婦人科

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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