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「あるある」じゃ済まされない? 本当にあった産婦人科でのトンデモ話 #13

「何を考えているんだ」――「安静」の指示がスルーされた大学病院の理不尽な洗礼

 

大学病院の建物

「はあ⁉ ダメに決まってるでしょ(ため息)」
「管理入院になりますよ!?」

39歳で待望の妊娠・出産を迎えたコハルさん(仮名)。妊婦健診で、医師からきつく注意されるハメになったのは、情報の共有がほぼ行われていなかったことに原因があると思われる。組織側の不手際に振り回される、利用者の徒労感。これは医療の現場に限らない、大変よくあることである。それが妊娠・出産の現場ではどうなるのか、話を詳しく聞いていこう。

「安静必須」となった、早産リスクの高まり

コハルさん(仮名)が出産の場に選んだのは、都内の大学病院だった。年齢や体力不安から、「万が一の際もNICU(新生児集中治療室)があるから安心」という理由で、無痛分娩が可能な大学病院に予約を入れた。そして毎月妊婦健診に通うと、そこは常に大混雑していた。

「予約時間に行っても、何時間も待たされるのは当たり前でした。それ自体に不満はありませんが、待合室のソファが常に付き添いの男性で半分埋まっているのがなんかすごかったですね」

重いお腹を抱えて数時間立ち尽くすしかない待合室で、さらに追い打ちをかけたのが切迫早産の危険性を指摘されていたことだった。子宮頸管長※1が基準よりも短くなると、早産のリスクが高まるのだ。そのため、コハルさんは「極力安静にするように」と指導を受けていた。

「診察で指摘されてからは、ずっと経過観察。お腹が大きくなるにつれ、着々と短くなっていく数値を見るのが本当に怖かったですね。あと、安静にと言われているのに、何時間も立ちっぱなしで待つ矛盾……。精神的にも肉体的にも、そこそこつらかったです」

赤ちゃんの入った子宮の構成図

Photo:PIXTA

不安に駆られた彼女は、藁(わら)をも掴む思いで早産防止に定評のある「トコちゃんベルト」※2を購入。移動はすべてタクシーを使い、自宅では重力がかからないよう常に布団やソファに横たわっていたという。買い物はネットスーパー。重いゴミは、気心の知れた来客に運んでもらう。寝転んだままノートPCが使えるスタンドを導入し、仕事もすべてその姿勢でこなす――。

コハルさんは、医師の「安静」という指示を死守するため、文字通り必死の生活を送っていた。

※1:子宮の出口部分の長さのこと。赤ちゃんが外に出ないように支える「ストッパー」の役割を果たしており、ここが短くなると早産のリスクが高まる(編集部注)

※2:主に妊娠中の骨盤のサポートや腰痛緩和に用いられるベルト。早産予防への効果を示唆する報告も一部にあるが、現時点で明確な医学的根拠(エビデンス)として確立されているわけではない(編集部注)

そのタイミングで助産師からの「運動許可」

大学病院での定期健診では、診察前に助産師による問診と測定が行われるのがルーティンだった。コハルさんは、ひたすら横になり続ける生活による腰の痛みや、ひどいむくみを切実に訴えた。
すると、助産師は明るくこう言ったのだ。

「どんどん運動してくださいね~!」
それを聞いて(努力が実って切迫早産の危機は脱した!?)と胸躍ってしまったコハルさん。

「ネットで情報を漁っていたなかで、『一度短くなった頸管長が長くなるケースもある』と見ていたこともあり、あの地味で過酷な安静生活が報われたのだと早とちりしちゃったんですよね」

喜び勇んでその後の医師の診察に臨んだコハルさんは、確認のつもりでこう切り出した。
「運動してもいいって伺ったんですけど……!」
返ってきたのは、冒頭の激しい叱責(しっせき)だった。

「えええええ! そんなのダメに決まってるでしょ!!!!  そんなことをするなら即入院ですよ!!! 安静にって言ってますよね!? 安静の意味、わかる⁉」

「いや、助産師さんがそうおっしゃったので……」と、小声で言い訳をするのが精一杯だった。医師からは「安静とはトイレ以外横になることだ!」と冷たく突き放されたが、コハルさんは実際、その通りに過ごしてきたのだ。

(毎日これだけの混雑だもの、多少の連携不足は仕方ない……)
この時はまだ、そう自分を納得させようとしていた。

困った妊婦さん
Photo:PIXTA

意味をなさない「バースプラン」

次の違和感は、バースプランについてである。
健診時、助産師からは熱心に「どんなお産を希望するか」の聞き取りがあった。「標準的で安全なら何でもいい」と考えていたコハルさんだったが、あまりに丁寧に聞かれるため、「可能であれば胎盤を見てみたい」と希望を伝え、億劫(おっくう)だったが書類にもそう明記した

しかし、いざ出産が終わっても、胎盤を見せてくれる気配は微塵(みじん)もない。

「絶対見たいわけではないけど、一生に一度だし……と思って、タイミングを見て伝えてみたんですよね」

「あの、バースプランに胎盤を見たいと書いたのですが……」
「そうなんですね! では後で!」

そして実施されることはなかった。つらい体を引きずって受けた、時間をかけた丁寧な問診は何の意味があったのだろうかと、分娩台の上で虚しさを感じたと話す。形式的な問診は、「情報を共有するため」ではなく「制度上、実施したという記録を残すため」の作業に成り下がっているのだと言われても、仕方のない事態である。

不穏な心情を表すグレーの線

Photo:PIXTA

「安静」の指示を破りに来る病院スタッフたち

そして病室に移り、一週間弱の入院生活が始まった。コハルさんは産後、高血圧の症状が出たため、医師からは「とにかく横になって安静に」と指示されていた。入院中は、ミルク会社による調乳指導が予定されていたが、それも当然欠席せざるをえなかった。
授乳の寝不足と高血圧とで朦朧(もうろう)としながら横になっていると、何度も何度も声をかけられる。

「調乳講習の時間なのですが……」
そのたびに「医師から安静を指示されているので行けません」と説明した。しかし、3回目に起こされた時、ついに我慢の限界が訪れた。
「だから! 安静の指示が出てるから行かれないって何度も説明してるんですけど!!!」

怒りの心情を表すマーク

Photo:PIXTA

それぞれの立場の人が、それぞれの業務とノルマをこなそうとするあまり、当事者たちにしわ寄せがきている。

「ホスピタリティーを求めるならセレブ病院へ行け、と言われそうですけど、それ以前の問題じゃないですか? 横の連携、情報の共有ってないんですか? どんどん血圧が上がりそうでしたね」

その後コハルさんは血圧が下がらず、子どもの体重増加が順調でないこともあり、入院延長となったのであった。ひとつひとつは小さなことかもしれないが、妊娠出産の当事者に、理不尽な負荷がかかったのは確かである――。

 

山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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