crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #50
卵子凍結って、結局どうなの?
カテゴリー:妊活
先日このような報道がありました。
卵子凍結助成金、まず18〜35歳対象に最大20万円 こども家庭庁公表
こども家庭庁が、2026年度中に始める卵子凍結費用助成のモデル事業について、原則18〜35歳の未婚女性を対象に、自治体指定の医療機関での卵子凍結に最大20万円を支援すると発表したとのことです。
事業では、講習会の受講や検査・診察、凍結後10年程度の追跡調査への参加が求められ、卵子凍結に関するデータを集めて今後の制度設計につなげるとのことです。
東京都の助成、こども家庭庁のモデル事業、海外制度から考える
若い世代の方で、卵子凍結を自分ごととして考えている方が増えているようです。ライフパートナーが決まっていなかったり、仕事や生活で、結婚や妊娠のタイミングがなかなか見えなかったりして、近々の出産は現実的ではない。でも、将来子どもを持つ可能性は残したい。卵子凍結はそう考える方にフィットする選択肢と言えます。
子どもを将来授かるための「保険」のようなイメージを持たれている卵子凍結ですが、まず適切に知っておいていただきたいのは、卵子凍結は将来の妊娠・出産を保証するものではない、ということです。
卵子凍結は、まず排卵誘発をして卵を育て、採卵したのちに凍結保存します。将来その卵子を使う場合には、凍結した卵子を融解し、パートナーの精子と顕微授精をしたうえで、培養した胚を子宮へ移植します。通常の不妊治療は受精卵を凍結しますが、「卵子凍結」は未受精卵を凍結するもので、受精卵に比べて成績はやや劣ります。(ただし、技術は進んできているようです)

凍結した未受精卵を用いた生殖医療の成績は、採卵・凍結した年齢と、凍結できた卵子の数に大きく左右されるとされています。米国生殖医学会(ASRM)の2021年ガイドラインでは、1人の生児を得る確率を70%にするために必要な成熟卵子の数は、30〜34歳で14個、35〜37歳で15個、38〜40歳で26個と推定されています。凍結卵子1個あたりの生児獲得効率も、30歳未満で7.4%、30〜34歳で7.0%、35〜37歳で6.5%、38歳以上で5.2%と、年齢とともに低下する傾向が示されています。つまり、卵子凍結を検討するなら若いうちにした方が、成績がいいということが言えます。
実際に赤ちゃんを持てるかどうかは、採卵時の年齢、卵子の数、卵子の質、将来のパートナーの精子、胚移植時の年齢や健康状態など、さまざまな要因に左右されます。可能性を残せる技術ではありますが、期待しすぎないことも重要です。
東京都の制度は「個人の選択肢」を支えるもの
今回のこども家庭庁のモデル事業に先立って東京都では卵子凍結に対し公費助成が行われています。東京都の卵子凍結助成です。社会的な事情(プライベートや仕事)で卵子凍結を選択する人に対し、費用の一部を助成するというものです。
対象は都内在住の18歳から39歳までの女性で、卵子凍結を実施した年度は上限20万円、次年度以降は保管に関する調査に回答することで、1年ごとに一律2万円が助成されます。2025年度に凍結した場合、最大で26万円、2026年度の場合、最大で24万円の助成が受けられます。

crumii編集部にて、本文よりAIで生成
こども家庭庁のモデル事業について、報道では「18〜35歳の未婚女性に、1回最大20万円」といった部分が大きく取り上げられました。しかし、こども家庭庁の資料を見ると、東京都のように希望者に対し広く行う費用助成ではないようです。正式には、「卵子凍結による妊孕性温存等に係る課題検証のためのモデル事業」とされています。
資料によると、対象となるのは、
①良性卵巣腫瘍で卵巣手術予定の人
②ターナー症候群など遺伝性疾患で卵巣予備能低下がある人
③自己免疫疾患で卵巣予備能低下がある人
④過去の卵巣手術・放射線治療・抗がん剤治療などで卵巣予備能低下がある人
⑤特発性の早発卵巣不全または卵巣予備能低下がある人
⑥これらと比較可能な一定条件を満たす人
となっています。
(①~④は凍結時点で原則12歳以上43歳未満、⑤は12歳以上40歳未満が対象)
つまり、こども家庭庁の事業は主に医学的な理由がある方に向けたものであり、⑥の中に、条件によって「18〜35歳の未婚女性」が入るということのようです。
こう見ると、報道から受ける印象とずいぶん違ったコンセプトの事業であることがわかります。悪性腫瘍や遺伝性疾患などさまざまな医学的理由で、卵子が体から失われてしまう可能性のある人を支援するのが目的ですが、報道だけを見ると、「こども家庭庁が、税金で、妊娠の先送りを支援」というように受け取った人が多かったようです。(私もその1人でした)
卵子凍結という技術はもともと、医学的な理由で卵子が失われてしまう人を対象に、研究が進められてきたものです。こども家庭庁の事業は、本来的で、個人的にはぜひそういうところに国のお金を使ってほしいと思います。

一方、医学的理由ではない「社会的理由」による卵子凍結については、さまざまな議論があります。
そもそも卵子凍結は「魔法」や「保険」ではないのに、適切な情報提供が不足し、過大評価している人が多いことは問題だと思います。凍結した人のうち数%しか解凍して使っていません。凍結していてもパートナーができたら自然妊娠する人が多いことや、結局パートナーが見つからなければ使えない、などの理由により、凍結卵子は使われないままの場合がほとんどです。
個人的には、自費で行うのは自由だけれど、公費を使うにはコストパフォーマンスが悪すぎると考えています。実際にこの技術のおかげで生まれている赤ちゃんもいますが、絶対数から考えると、「少子化対策」というのは難しいです。
また、別の弊害として、女性の人生に対する自己責任論を激化させてしまうリスクがあると考えます。今でも、「生殖年齢に限りがあることを知っていたのに、若いうちに子どもを産まないのは自己責任」という論調が女性を責め立てている場面を見ますが、卵子凍結がカジュアルになれば「若いうちに卵子凍結をしておかなかったから子どもができなかった」と批判する人が現れることは容易に想像できます。

卵子凍結はあくまでも個人の選択で、するもしないも他人がとやかく言うことではない。
その認識を浸透させる必要があります。
私は現在50歳ですが、私が卵子凍結に適した年齢だった約20年前には、卵子凍結の技術はまだ実用化されていませんでした。35歳と39歳で運良く自然妊娠することができましたが、もしも自分がアラサーの時にこの技術が実用化されていたら、卵子凍結を選んでいたのではないかなと思います。
排卵誘発や採卵に費やす時間と体への負担、そして金銭面、とハードルの高い選択ではありますが、キャリア形成期と出産適齢期が重なってしまうという女性の体が持つハンデに抗うことのできるこの技術を、選べる時代になったことはとても喜ばしいと思います。
卵子凍結についてもできるだけフラットな情報を発信していきたいです。
<参考文献>
米国生殖医学会(ASRM)公式HP 卵子凍結(ドナー卵子IVFおよび計画的卵子凍結)に関するガイドライン
こども家庭庁HP 卵子凍結による妊孕性温存等に係る課題検証のためのモデル事業に関するQ&A(26.4.28発表資料)

















