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男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #22

性を「一生かかわるもの」として捉える視点 〜包括的な教育解説シリーズ(7)〜

 

カテゴリー:SRHR・女性医療

様々な年代の子どものイラスト

子どもが安心して成長するためには、知識だけでなく「人との関わり方」を学ぶ機会が欠かせません。とくに思春期は、友人関係・恋愛・SNS利用などが一気に広がり、うれしい経験もあれば、誤解やトラブル、傷つくことも起こりやすい時期です。そして、反抗期が重なってくる時期にもなります。

だからこそ家庭では、「正解」を教え込むよりも、気持ちの尊重・安全を守る・相談できる関係性などを日常の中で育むことが、将来のリスク予防にもつながるはずです。

本シリーズ記事では、今の時代に求められる包括的な性教育について、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに分かりやすく解説していきます。

(編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます)

本ガイダンスには、8つのキーコンセプトが含まれ、いずれも思春期に学び、考えるべきものになっています。

今回は、「キーコンセプト7:セクシュアリティと性的行動」です。

どのような内容か

子どもが性に関する情報へ触れる入り口は、学校だけではありません。
友だちとの会話、SNS、動画、マンガ、広告など、日常の中に無数にあります。

だからこそ家庭では、「性=危ないもの・汚いもの」と扱うのではなく、尊厳や同意、安全という視点を持ちながら、子どもが自分を守れる考え方と行動を育てることが重要になります。

スマートホンを見つめる女子高生

キーコンセプト7は、大きく2つの内容で構成されます。

1. 一つ目は「セックス」「セクシュアリティ」「生涯にわたる性」といった概念を整理し、性を「その人のあり方」として理解する土台をつくります。
2. 二つ目は「性的行動」や「性的反応(からだの反応)」について、誤解や不安を減らしつつ、同意・境界線・安全な意思決定につなげるものです。

保護者の方々に意識していただきたいのは、セクシュアリティや性的反応について「正常/異常」を家庭が判定しようとしないこと、です。
思春期には、からだ体の変化と一緒に、関心や感情の揺れも起こります。ここで大人が「恥ずかしいもの」というイメージを持たせたり「話すと怒られる」と思わせたりしてしまうと、子どもはこっそり情報を集め、いつの間にか誤情報に包まれやすくなってしまいます。


ご家庭にもっと最も大切にしていただきたいものは、「安全に話せる場所」の確保です。
その上で、重要となる3つの土台をぜひ作ってください。

① 自分と相手の尊厳を守る
② 同意と境界線を大切にする
③ 困ったら助けを求める

この3点が、性に関して考えたり話したり相談したりする上でとても大切になります。

「HELP」の看板を掲げる女性
Photo:PIXTA

①「その人らしさ」としての性

ガイダンスでは、セックスとセクシュアリティを含む概念を整理し、性を「生涯にわたるもの」として捉える視点が示されています。 
ここで保護者が押さえておきたいのは、セクシュアリティが「思春期だけの話ではない」という点です。

性は、恋愛や性行動だけを指すのではなく、自分のからだをどう感じるか、誰かとどう関わるか、安心や尊重をどう築くか、といった広い分野に関連します
なので、家庭での会話も「話してはダメ」で終わらせず、「あなたの気持ちとからだは大切なものだよ」「相手も同じだよね」という方向へつなげることが重要です。


また、子どもは成長の途中で、自分の気持ちや関心を言語化しようとします。そのとき大人がすべきなのは、詮索(せんさく)でも誘導でもなく、本人の言葉を尊重してあげること、そして安全を守ってあげることです。

もし子どもが「こういう話を友だちとした」と言ったら、まず「話してくれてありがとう」と返す
もし子どもが「自分はよく分かんない」と言ったら、「分からない時期があっていいんだよ」と伝える
もし子どもが「からかわれた・笑われた」と言ったら、まずそれは嫌だったよね・つらかったね」と受け止める

こうした対応は、お子さんの自己理解を支えつつ、差別やからかい、暴力につながる可能性を小さくするはずです。

家庭は「親の価値観を押しつける場所」ではなく「子どもの尊厳が守られる場所」になれるはずですし、そうした場所がお子さんにとって存在していることは非常に大きな意味を持ちます。

つないだ手のイラスト
Photo:PIXTA

【家庭でできること】

・性に関する話題で笑ったり茶化したりせず、落ち着いたトーンで返す
・「答え合わせ」ではなく「心理的な安全性」を優先する(何でも詮索しない・結論を押し付けない)
・からかいや侮蔑する言葉を家庭内で許さず、「人を傷つける言葉は使わない」ことをお互いが守る

②「無意識な反応」は同意ではない

ガイダンスでは、このパートで性的行動と性的反応についても扱います。

ここで生じやすい誤解が、「何かしら反応した=同意した」というものです。
たとえば、

・驚いたときにからだ身体が固まる
・怖いのに笑ってごまかす
・緊張で頭が真っ白になる

などの反応は、自分の意思とは無関係に起こり得ます。
そして、これらは「同意(OK)」とイコールではありませんよね。

NO means NOと書かれたキーボード
Photo:PIXTA

性的な場面でも、からだの反応は「自分の気持ち」と一致しないことがあります。だからこそ、家庭で伝えたい最重要ポイントは次の2つです。

1. 反応がある/なかっただけでは、同意のサインや証拠ではない
2. 同意は、自由に選択でき、はっきり示されるもので、いつでも撤回できる


なお、性的行動に関する話題は、保護者としては避けたい気持ちが強いかもしれません。
しかし、子どもが実際に困るのは「知識がない」こと以上に、「嫌なときの断り方が分からない」「困った際に相談できない」ことでしょう。そこで家庭では、性の話に限らず日常の中で、「断る・交渉する・助けを求める」などの練習を少しずつ積んでみましょう。

例えば、

「今日は無理」「それは嫌」「すぐにやめて」
「それは嫌だけど、これならいいよ」
「困ってる、助けて」

こうした気持ちや状況を言葉にできること。それが、子どもを守ってくれるはずです。

また、SNSやアダルトコンテンツ等の情報は、現実世界における対人関係や同意のあり方の認知を歪めることがあります。フィクション満載ですからね。
大切なのは、子どもがそうしたものを見たこと自体を叱るのではなく、「それって現実と違う部分があるよね」「相手の気持ちや同意はちゃんと書かれてたかな?」と一緒に考えてみる習慣を作ることです。

叱責(しっせき)で終わってしまうのではなく、対話をしながら自分の頭で考える機会を増やす方が、子どもは困った瞬間に相談しやすくなるでしょう。

本を読む女性のイラスト
Photo:PIXTA

【家庭でできること】

「何かの反応=同意、ではない」「同意は撤回できる」を繰り返し伝える
断り方のテンプレ表現を一緒に考える(場面別に作れると便利)
ネットで見た非現実的な内容は、何がおかしいのそうか一緒に確かめてみる

年齢別に伝えておくべき要素のまとめ

年齢別にどこまで話すかのイメージを再確認しておきましょう。

5〜8歳

・自分のからだや他者に興味を持つのは自然なこと
・触れ合いには相手に好意や愛情を示すものがある
・プライベートゾーン
・良いタッチと悪いタッチがある

9〜12歳

・セクシュアリティは人間の健康にかかわる一部である
・性的な感情にはさまざまなものがある
・性的刺激への反応は男女ともにあり自然なことである
・性行為や恋愛関係における決断は自分の将来に影響する

12〜15歳

・性的な気持ちや妄想、欲望は自然なものだが、全てを実行に移すべきものではない
・社会、文化、世代によって性的行動における迷信があり、適切な知識を持つことが重要である
・取引的な性行為や金銭・物品と性行為の交換は、自分の健康や幸福を損ねる危険性がある

15〜18歳以上

・セクシュアリティは複雑なもので、かつ幸福感を高める要素である
・性的行動を取る際は喜びを感じられるべきである
・意図しない妊娠や性感染症のリスクを低減する方法をきちんと考えるべきである

年齢はあくまでも目安で、実際はお子さんの発達状況や環境で前後します。
重要なのは、必要なタイミングで、短くても繰り返し伝える・考えてもらうことです。、をぜひ覚えておいてくださいね。

以上、包括的な性教育における「キーコンセプト7:セクシュアリティと性的行動」について知っておきたいポイントを紹介しました。

キーコンセプト7では、性を危険性だけで語るのではなく、子どもが自分と他者の尊厳を守りながら成長するための土台を整えることを扱っています。子どもが将来どんな選択をするにせよ、守られるべき軸は変わりません。
お子さんの尊厳を守りながら、将来の健康も守ってあげられるようにしたいですね。

ぜひ、本記事をご家庭や学校等でご活用いただければ嬉しいです。

*私のニュースレターでも性教育の参考になる記事を配信しています。ご興味があればぜひ読んでみてください。
思春期女子のマスターベーション 〜メリット・デメリットを医学的に徹底解説〜

 

この記事は、包括的な教育解説シリーズの第7回目です。

バックナンバーはこちら
「人間関係を学ぶこと」は性教育の土台 〜包括的な教育解説シリーズ(1)〜
価値観や権利とセクシュアリティを考える 〜包括的な教育解説シリーズ(2)〜
「ジェンダー」についてどう伝えていく? 〜包括的な教育解説シリーズ(3)〜
子どもを暴力から守るために家庭ができること 〜包括的な教育解説シリーズ(4)〜
性教育で子どもに伝えたい「スキル」とは 〜包括的な教育解説シリーズ(5)〜
からだと発達についてどう伝える? 〜包括的な教育解説シリーズ(6)〜

 

参考文献
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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