「セクシュアルプレジャー」の話をしよう #12
「察してほしい」では伝わらない──セックスで「NO」を言うための3ステップ
痛くても我慢する、つらくても気持ちよさそうに振る舞う。好き好んでそんなセックスをしたい人はいませんよね。でも「NOを言うより、“フリ”をするほうが楽。相手も喜ぶし」という考えに陥ってしまう。
それほどまでに、NOを口にするハードルが高いからでしょう。
苦痛のあるセックスは、心身に悪影響を及ぼします。肉体的な痛さ、つらさはもちろんのこと、気持ちよくもなんともなく、ただ身体を使われるだけのような感覚。それでいて、相手からは“俺のために”喜ぶことを求められ、一方的なケアを提供する時間。
「これぐらいなんてことない」と思っていても、知らず知らずのうちに自分がすり減ります。そうして、「私にはNOを言う資格がない」など、自分のNOを自分で信じられなくなっていくのです。
「プレジャーが性の健康およびウェルビーイング(良好な状態・幸福・安寧)に寄与するためには、自己決定、同意、安全、プライバシー、自信、そして性的関係についてコミュニケーションしたり交渉したりする能力といった要素が重要となる」
これは、「世界性の健康学会」が2019年に発表した〈セクシュアルプレジャー宣言〉の一節です。同学会は、性の健康についての医療専門家、教育者、活動家などで構成されていて、当連載第1回でも紹介しました。
性的なコミュニケーションというと、「気持ちいい」を伝え合うものと思いがちですが、セックスには「気持ちよくない」「痛い」「それはイヤ」が必ずといっていいほどあります。
これは悪気がなくとも発生し、その場で解決すれば深刻な問題にはなりにくいものです。それゆえネガティブな感覚を共有し、話し合う、すなわち交渉する能力が欠かせないということです。
Photo:PIXTA
「相手を傷つけないNO」って、本当に必要?
かつて女性誌のセックス特集では、「上手なNOの伝え方=相手を傷つけない言い回し」というアドバイスが定石でした。ダメ出しは一切せず、「こういう触れ方のほうがいいかも~」など、自分にとって心地いい触れ方にやんわりと誘導するのが、正解だと。
そのほうが、事が円滑に進む場合もあるのはわかります。けれど、このコラムではあまりおすすめしたくないのが本音です。
理由のひとつめは、痛い、つらい想いをした側がなんでそこまで気を遣わなければならんの? ということです。前回、「気持ちいいフリ、イッたフリ」は相手へのケアである、というお話をしましたが、この気遣いだって、ケアのひとつです。不快を感じた側が、感じさせた側(悪気なくであっても)をケアすることに、関係のねじれを感じずにはいられません。
この手のケアの常態化は、ねじれを強化することはあっても、対等な関係に近づけることはないでしょう。いつかNOを言いやすくなる日が来ることもないと思います。
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もうひとつの理由は、婉曲な言い方が相手に通じるとはかぎらないからです。
人の痛みは案外、想像がむずかしいものです。特に、女性の痛みは理解されにくいと感じます。たとえば月経痛について、日常生活がままならなくなる人も少なくないのに、いまだに「病気じゃないんだから」「ただの甘え」という人がいます。
自分が経験することのない痛みに、悲しいかな、人は鈍感なのでしょう。かく言う私も、細やかに想像できる人間でありたいと思ってはいますが、どこまでできているかわかりません。
NOを示すには、負担が伴います。だったら、やんわりと伝え、相手が察してくれるのを期待したい。でも、それが叶うかどうかは相手次第です。婉曲な表現に気づかず、あるいは気づかないフリでスルーされ、接し方、触れ方がなんら改善されない。期待は裏切られ、落胆が上書きされて終わると、「次はがんばって、私なりに伝えてみよう!」とはなりにくいです。
「察してほしい」より、ストレートに伝えよう
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それよりも、いっそストレートに伝えてしまいませんか。そのほうが、お互いにとって話が早いです。
ポイントは、
①その場できっぱりと、
②何がどうNOなのか具体的に
示すことです。そして、
③どうしてほしいか
まで伝えられたら、ベターでしょう。
①は、不快な感覚があったら間髪を入れず、「痛ッ……!」と声に出すという意味です。ポイントは“思わず声が出てしまった”感じです。これは相手に伝わりやすいと同時に、相手を気遣わなきゃという考えが入り込む隙間を作らないためでもあります。
包丁で指先を切ったとき、声を飲み込んで「ここで痛いと言ったら、まわりはどう思うかな」と考えることはありません。それと同じで、考えるのをやめ、感じたことだけを声にします。
これは結果的に、相手にとっても親切です。あとになって「あのとき痛かった」と言われても何のことかわかりません。改善しようにも、「もっとソフトに」など大まかな傾向は考えられても、「じゃあ、具体的にどうしよう」まで詳細を詰めるのは無理があります。
そこで、②です。「痛ッ……!」のあとに、「いまの、引っかかる感じで痛かった」「そこに体重をかけられると、ちょっとしんどい」のように、NOの内容をできるだけ具体的に伝えます。
これによってまず、相手の「セックスでダメ出しをされると、人格否定されたと受け取る」というめんどくささを回避します。そして、「痛い」「イヤだ」だけでは何がどう間違っていたのかわからなかった相手も、「あ、これはナシなんだな」と理解しやすくなるでしょう。
③は、「ゆっくり動かしてみて」「体位を変えてみる?」と提案できればベストですが、わからなければ「どうすればいいかな?」と相手に投げかけ、一緒に考えてみるので十分です。それがコミュニケーションであり、交渉です。
①~③は、NOをYESに変えていくステップです。「自分が我慢すればいい」とNOに蓋をするのでは、自分も相手もいつまでも変わりません。最初にNOを示すことでしか、現状をなんとかできないのです。
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それでもやはりハードルが高いと感じる人がいるでしょう。「そんな簡単に言えるなら、最初から悩まないよ」ということですね。
そう感じるのは、もともと気が弱い性格だから、というわけではないと思います。
家庭での性教育におけるバイブル的書籍『おうち性教育はじめます 思春期・家族編』(KADOKAWA)にも、「日本社会では『嫌だ』はワガママや自分勝手と扱われて言い出しにくい空気があるよね」「特に女性や子どもなど弱い立場に立たされている人は」とあります。
女性がNOを言いにくいのは当然のこと、ぐらいに思っておいてもいいでしょう。自分が悪いわけではない。でも、言えないままでは誰も自分を守ってくれません。
同書では、NOを言えるようになるには練習が必要だとあります。大人も、いまから練習してみませんか。
その練習とは、ベッドの外でするものです。日ごろから、小さな不満を伝えられなかったり、ちょっとした不調を隠していたりしないでしょうか。それが言えないのに、セックスのときだけはっきりNOを示せるなんてことはありません。「今日はこっちがいい」「それはイヤ」「疲れたからまた今度」と言い合える関係なら、ベッドのなかでもNOは自然に出てきます。
前述の、セクシュアルプレジャー宣言では「コミュニケーションしたり交渉したりする能力」の前に、「自信」とあります。日常のなかで積み重ねた小さなNOは、やがて「自分はNOを言っていい人間だ」という自信を形成します。
人からNOを大切に扱ってもらうには、まず自分で自分のNOを大切にすることです。
三浦 ゆえ
編集者&ライター。出版社勤務を経て、独立。女性の性と生をテーマに取材、執筆を行うほか、『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(宋美玄著、ブックマン社)シリーズをはじめ、『小児科医「ふらいと先生」が教える みんなで守る小児性被害』(今西洋介著、集英社インターナショナル)、『性暴力の加害者となった君よ、すぐに許されると思うことなかれ』(斉藤章佳・にのみやさをり著、ブックマン社)、『50歳からの性教育』(村瀬幸浩ら著、河出書房新社)などの編集協力を担当する。著書に『となりのセックス』(主婦の友社)、『セックスペディアー平成女子性欲事典ー』(文藝春秋)がある。

















