山田ノジルのドラマレビュー #4 『ファーストクライ』第4話
「男の子が生まれるまで」の呪縛~ドラマ『ファーストクライ』第4話が突いた「多産DV」と命のコントロール~
ドラマ『ファーストクライ』第4話では、セレブ産院という華やかな舞台の裏で、一見すると極端に見えつつも、実は私たちの社会に根深くへばりついている「生殖をめぐる業(ごう)」を鋭く突いてきました。今回は、作中で描かれた「多産」や「男子偏重」の裏にある闇、そして現代人が陥りがちな「命のコントロール」についての雑感です。
男児を望むがゆえの、多産DV。
今回も、大変にヘビーです。5人目の子どもを身ごもっているものの、子宮はもう限界。そんな富裕層夫婦が登場した第4話、画面の前で思わず震えていた人も多かったのではないでしょうか。
「美談」として消費されてきた「多産DV」の歴史的根深さ
そもそも「多産DV(生殖の強制)」とは何か。
配偶者やパートナーが女性の意思を無視し、連続して妊娠・出産(または中絶)を強いるドメスティック・バイオレンス(DV)の一種です。性的DVおよび精神的DV(モラハラ)の複合的な形態と位置づけられています。
大家族などの「合意による子だくさん」とは異なり、「女性側の拒否権や自己決定権が奪われている」点が決定的な違いです。
かつては社会的・制度的・文化的に「多産DV」に該当する状態が構造的に生じやすく、「当たり前の家庭像」として受け入れられていた時代があったのも恐ろしい話。当時は「多産DV」という概念自体が存在せず、人権侵害ではなく「夫婦の務め」「家庭の美徳」とみなされがちだったことが、被害を見えにくくさせていました。

Photo:PIXTA
昔のドラマにも、「今なら完全に多産DV」と呼ばれるシーンは数多く登場します。
女性史研究者の田中ひかる氏もX(旧Twitter)で指摘していた、NHK連続テレビ小説の金字塔『おしん』も典型例。おしんの母親(ふじ)の姿は、現代の概念で読み解けば、私には多産DVそのものに見えます。
かつてはこの光景が「過酷な環境で耐え忍ぶ健気な母」「自己犠牲の美徳」として感動的に語られることもありました。しかし私は、その本質は「女性から身体の自己決定権を奪い、生殖を強制・搾取するDV構造」だと考えています。
※編集部注:泉ピン子さん演じるおしんの母・ふじは、貧しい小作農家で「これ以上子供を産めば、家族を養いきれない」という絶望から、お腹にいる子供を堕胎するために川に入る有名なシーンがあります。
古くは「たくさん産まないと成人まで育つ子が残らない」「働き手が必要」「富国強兵のプロパガンダ」など、さまざまな時代背景がありましたが、「男の子を産んで一人前」「家を存続させるための道具」として女性を縛る呪いは、令和の今もなお形を変えて存在しています。
セレブだからこそ生じる「男児産め圧」。そして来る、「産み分け」の沼

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ドラマに登場した子だくさん夫婦の場合、「資産や家柄のあるセレブ層」だからこそ、「絶対に跡継ぎ(男児)を産まねばならない」という猛烈な社会的・親族的なプレッシャーに晒されていることが想像できます。
「お金はあるから何人産んでも生活には困らないでしょ?」と、のんきにかまえる外野もいそうですが、そもそも出産は命がけの身体的負担がかかる営みです。それを強いて、「希望の性別が出るまでガチャを回し続けろ」とされるのは、まさに精神的・身体的な拷問(DV)です。
ドラマには登場していませんが、現実世界ではこの「希望する性別の子どもが欲しい」という強い不条理な執着が向かう先に、「産み分けビジネス」の沼も待ち構えています。
ど定番といえる病院でのタイミング指導や産み分けゼリー、高額サプリ。ネットの海にあふれる怪しい民間療法やビジネススピリチュアル。「産み分け体質を伝授するからLINEに登録!」「中国式産み分けカレンダー」「ホメオパシーで産み分け」「子宝風水」「霊視鑑定(産み分けはオプション料金!)」「引き寄せセッションで産み分け」etc…。
生命の誕生が神秘であることは疑いようもありません。しかし、受精卵の性別は受精した瞬間に父親の染色体によって100%決まるので……と皆まで言っても仕方がないですね。これらは、そんなことはわかったうえでの「運頼み」の伴走者なのですから。とはいえ、そのどうにもならない部分をコントロールしたいという人間の執着のあらわれでもあります。
私がこの手の商売を冷ややかな目で見ている理由は、当たる確率がそもそも「約50%(2分の1)」という、ビジネスモデルとして無敵の構造をしているからです。偶然でしかないのに、当たれば「おかげさま」、外れれば「やり方が足りなかった」で処理できる。不安と希望につけ込んだ、実に罪深い構造です。

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人間は「命」をコントロールできるというおごり
第4話では、この子だくさん夫婦のエピソードと並行して、「高度な小児医療をもってしても救えなかった先天性疾患の赤ちゃん」の事例も描かれました。
現代医療は目覚ましく発達しました。ひと昔前なら助からなかった命が救えるようになった今、私たちはどこかで「医療やテクノロジーを使えば、命は完璧にコントロールできる」という万能感を抱きがちではないか――そう気づかされる展開でした。
妊娠、出産、性別、そして命の無事。これらは本来、どれだけ文明が発達しようと、最終的には人間が完全にコントロールすることのできない領域です。
ドラマでは「ひとりにしませんから!」と温かいサポートが差し伸べられますが、現実ではこの「コントロールできない不安」の隙間に、怪しげなものが侵入してきます。
社会の中に潜むさまざまな問題を、赤ちゃんと一緒にとりあげるドラマ『ファーストクライ』。次回以降も、私たちが直視すべきテーマをどう提示してくれるのか見逃せません。
次回の視聴リンクはこちら。
山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru
















