crumiiを応援する バナー

気になるキーワード 「女性アスリート」

生理が止まるほど頑張るのは危険? 女性アスリートの体を守る知識~スポーツドクターに聞く、体を犠牲にしない競技の続け方~

カテゴリー:SRHR・女性医療

トラックを駆け抜ける女性アスリート

女性アスリートにとって月経は、体の状態を知るサインのひとつ。
しかし、毎日誰よりも練習していると、気づいたら生理が来なくなっていたということも…。

その状態を、
「競技を頑張っているから仕方ない」
「生理がないほうがラク」
と思って、放置していませんか?

丸の内の森レディースクリニック副院長で、順天堂大学医学部附属浦安病院「女性アスリート外来」の診療に携わる窪麻由美先生に、競技を長く続けるために知っておきたい「スポーツをする女性のための体の知識」、なかでも特に体が大きく成長していく思春期~10代のアスリートを中心にお話を伺いました。

研究は進んでも、知識は現場まで届いていない?

女性アスリートの月経や低栄養についての研究や情報発信は、ここ10年ほどで大きく進んでいます。ところが窪先生は、「その知識が学校の部活動や地域スポーツの現場まで十分に届いているとは、まだ感じません」と話します。

窪:「陸上の長距離走やマラソンに代表される『持久系』や、体操・新体操、フィギュアスケート、バレエといった『審美系』など、『痩せているほうが競技に有利』とされやすい競技では、今も『もっと痩せなさい』『あと何kg落としなさい』と指導されるケースがあります。そうして体重を減らそうと食事を減らした結果、競技成績が落ちてしまう選手もいます」

体重計に乗って体重の増加を気にする女性Photo:PIXTA

一方、窪先生によると、海外ではこうした過度な減量は推奨されなくなってきているそうです。一例として海外のバレエ団に留学する選手では、BMIが18.5を下回ったり、月経が止まったりすると、帰国を求められるケースもあるといいます。

窪:「日本では、まだ痩せすぎや無月経のリスクへの認識が浸透せず、『痩せているほうがキレイ』という価値観が根強いのではないでしょうか」

思春期は、こうした社会の価値観にも触れる時期。その背景については、「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)」記事で紹介しました。

しかし女性アスリートの体重管理については、減量以外にもう一つ特有の問題があります。
それは、同年代よりはるかに体を動かし、エネルギーを消費しているのに、体重を維持するのにどれだけ食べる必要があるのかを、本人も周囲も十分に知らないことです。

*参考:身体活動「ふつう」の10代女性の推定必要エネルギー量は、12~14歳女性で2,400kcal/日、15~17歳女性で2,300kcal/日(厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」)

「食べてはいる」。でも足りていない、食事量と栄養の知識

栄養素の描かれたカードとお皿、スケールPhoto:PIXTA

窪:「診察に来る選手に多いのは、無月経や月経不順です。背景には、ほとんどの場合、エネルギー不足があります。彼女たちは、『ちゃんと食べています』と言います。でも、競技や成長に必要な量には届いていません

特に10代は、生きるための基礎代謝、運動に使うエネルギーに加え、体が成長するためのエネルギーも必要です。

診察では、茶碗に入ったごはんの模型を見せ、「普段、どれくらい食べていますか?」と確認することも。

窪先生:「本人が『これくらい』と指す量は、100~150gくらいと、たいてい少なめです」

運動量が増えても、食事量は見直していない。朝食を十分に食べずに朝練へ行く。練習後、帰宅するまで何時間も何も食べないーー。こうした不足の積み重ねが、必要なエネルギー量との差を広げていきます。

食べる必要があることを知らない。食べられる環境がない。

窪:「例えば1日に3,000kcal必要な選手が、それを3食だけで摂るのは現実的ではありません。その場合、練習の前後などに足りないエネルギーを補う『補食』が必要です。でも、『補食を含めて必要なエネルギーを摂る』という考え方自体、あまり知られていないように感じます」

学校側では、お弁当以外の飲食物を持ち込めない、練習前に補食を摂る時間がない、といったケースもあるそうです。中学生くらいまでは、自分で食事や補食を用意することも簡単ではありません。

まずは月経を記録する。それだけでも体は見えてくる

スマホのカレンダーで生理周期を記録する女性のイラスト
Photo:PIXTA

では、女性アスリートが自分の体の変化に気づくにはどうすればよいのでしょうか。
「まずは月経の記録だけでも十分だと思います」と窪先生。

窪:「月経周期とコンディションを結びつけて考えている選手は、あまり多くありません。まずは、月経の始まり、周期、月経痛の有無、調子が良かった日はいつかなどを記録することで、自分の体を知るきっかけになります」

基礎体温を測ることが負担なら、月経管理アプリなどで月経日と体調を記録することから始めてもよいでしょう。

生理が3カ月止まっていたら、ためらわず婦人科を訪れて

窪先生が特に心配するのは、成長期の無月経です。月経が止まると、体内では骨の成長や維持に関わる女性ホルモン「エストロゲン」が低い状態になることがあります。

窪:「骨量を増やせるのは、おおむね20歳までといわれているため、例えば15歳~18歳までの3年間と、20歳~23歳までの3年間は、骨にとって同じではありません。骨の土台をつくる大切な時期に月経が定期的にきているかどうかはとても重要です」

骨への影響は、将来の骨粗しょう症だけではありません。日本人女性アスリートを対象とした調査では、10代で無月経がある場合、疲労骨折のリスクが12.9倍に高まることが報告されています*。

*出典:独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター「女性アスリートFARSTガイド ベーシック編 コンディショニングのための基礎知識(2025年12月)」p.34
原著:Nose-Ogura S, et al. Risk factors of stress fractures due to the female athlete triad: Differences in teens and twenties. Scand J Med Sci Sports. 2019;29(10):1501–1510.

無月経以外にも、月経に関する困りごとには、さまざまな改善方法があります。たとえば月経痛がつらい、月経血で競技に支障がある場合は、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(OC・LEP)で月経をずらしたり、軽くしたりする方法や、プロゲスチン製剤で月経を一時的に止める方法など、月経をコントロールする選択肢があります

低容量ピルとカレンダー
Photo:PIXTA

一方、エネルギー不足が背景にある無月経では、まず不足しているエネルギーを摂取し、改善することが基本です。

窪:「ホルモン療法で若干食欲が増すこともあるため、食事量の見直しと併用することもあります。無月経の治療も月経コントロールも本当にケースバイケース。早めに婦人科医に相談することで競技を続けるためのよりよい改善策を見つけられると思います」

実際に、月経に伴う痛みや不調をコントロールし、パフォーマンスのプラスになっているという事例も少なくないそうです。月経に伴う不調は、競技をしているかどうかに関わらず、婦人科的な病気が隠れているサインであることもあります。

こんなことがあれば婦人科に相談しよう

☑ 15歳を過ぎても初潮がない
☑ 3カ月以上、月経が来ない
☑ 経血量が多い(血のかたまりが出る、夜用ナプキンを1~2時間ごとに交換するなど)
☑ 月経前や月経中の不調で競技や生活に影響が出る
☑ 痛み止めが効かない、または年々ひどくなっている
☑ 月経をずらしたり、軽減したりできるか相談したい
☑ 急激な体重減少や低体重が続く
☑ 疲れやすくなった、持久力がなくなった

「カロリーは敵」じゃない。体をつくる大切な味方

スマホアプリと多くの栄養素、女性のイラストPhoto:PIXTA

では、エネルギー不足を改善するには、何から始めればよいのでしょうか。
国際オリンピック委員会では、運動量が変わらない場合、エネルギー摂取量を1日あたり300~600kcal程度増やすことを指針としています。

窪:「ただし、必要なエネルギー量は、年齢や体格、成長段階、競技・練習量によって異なります。医師や管理栄養士などの専門家に相談しながら調整することが大切です」

食事から摂るカロリーは、スポーツを頑張る人にとって、体を動かし、成長させ、競技を続けるための大切なエネルギーです。

LEAからREDsへ。低栄養は月経だけの問題ではない

ここまで見てきた「エネルギー不足」には、医学的な呼び名があります。
運動による消費に対して、食事から摂るエネルギーが不足し、体の生理機能に使えるエネルギーが足りない状態を「利用可能エネルギー不足(Low Energy Availability:LEA)」といいます。女性の場合、無月経や月経不順がLEAのサインの一つとなります。

なお、LEAは女性に限った話ではありません。すべてのアスリートにおいて、LEAが長期化・重症化し、健康や競技パフォーマンスに影響が生じる状態は「スポーツにおける相対的エネルギー不足(Relative Energy Deficiency in Sport:REDs)」といわれます。国際オリンピック委員会が2014年に提唱した概念で、その後も更新されています。その影響は月経だけでなく、骨、発育・発達、心血管、精神、代謝など全身に及びます

窪:「以前は、LEA・無月経・骨の問題を『女性アスリートの三主徴』として捉えていました。でも今は、それらはREDsというもっと広い概念の一部と考えられています」

ダンベルを持ってトレーニングする女性のイラスト
Photo:PIXTA

女性アスリートの体を守る知識は、本人だけのものではない

また、食事や月経の問題を、選手本人の「自己管理」だけに任せるのは難しいものがあります。
特に10代のアスリートにとっては、一番身近な存在である保護者が、そのサポートをするのがよいでしょう。といっても、月経を細かく把握する必要はありません。

ただ、「月に1回くらい月経が来ているか」「止まってないか」を気にかけるだけで十分です。月経以外に、食事や補食についても、家庭のサポートは欠かせません。さらに指導者に向けて、窪先生はこのように話します。

窪:「自分たちの時代の常識を外してみることをおすすめします。一昔前は『練習中に水を飲むな』という指導もありましたよね。指導法もアップデートが必要ではないでしょうか」

選手、保護者、指導者。そして、必要なときには医療者も加わり、アスリートが体を犠牲にせず競技を続けられる環境をつくることが大切です。

好きで始めた競技。勝ちたい。もっと上手になりたい。長く続けたい。その気持ちに、窪先生はこう語りかけます。

窪:「一緒に食事や生理のことを整え、パフォーマンスを上げることが私たちの仕事です。小さなことでも相談してほしいですし、自分の体について考えてほしいと思います」

強くなるために、体を知ること。
それも、アスリートに必要なトレーニングのひとつです。

<出典・参考資料>
・独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター「女性アスリートFARSTガイド ベーシック編 コンディショニングのための基礎知識(2025年12月)」
https://female-sport.jpnsport.go.jp/book/basic/01/?pNo=48
・東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科『Health Management for Female Athletes Ver.3』(2018年)
・厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_44138.html
・日本産科婦人科学会「やせと無月経②運動による月経不順」(2024年11月)
https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/whc202411-2.pdf
・東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科 
「Conditioning Guide for Female Athletes 1 無月経の原因と治療法について知ろう!」(2023年12月)
・東京大学医学部附属病院 女性診療科・産科
「Conditioning Guide for Female Athletes 2 月経対策をしてコンディションを整えよう!」(2023年9月)

crumiiを応援する バナー

シェアする