ドラマ『ファーストクライ』解説シリーズ #4
赤ちゃんを“半分だけ”娩出して手術するEXIT手術ってどんなもの?
ドラマ「ファーストクライ 母子救命救急班」第4話では、とあるカップルが胎児に「先天性上気道閉塞症候群」があると告げられます。
赤ちゃんの喉や気管がふさがっているため、生まれた後に自力で呼吸できない可能性が高い。産婦人科医の光井先生は「EXIT手術」に希望を見いだしますが、新生児科医の富永先生は「出産の現場で奇跡は起こらない」と、厳しい見通しも隠さず伝えました。
ドラマでは実際の手術シーンも描写されましたが、「こんな治療法があるの?」と初めて目にした方がほとんどだったのではないでしょうか。
本記事では、EXIT手術とはどのようなものか、そして「手術ができること」と「命を救えること」は同じではないという、周産期医療の厳しい現実についても考えてみます。
*この記事は、ドラマ「ファーストクライ 母子救命救急班」第4話の内容に触れています。一部ネタバレが含まれますので、あらかじめご了承ください。
EXIT手術は実際に存在する治療法
EXITは「Ex Utero Intrapartum Treatment」の略で、日本語訳はせずこのまま用いられることが一般的です。これはドラマのために作られた架空の手術ではなく、日本でも限られた高度医療機関で実施されている治療方法です。
例えば、国立成育医療研究センターや大阪大学医学部附属病院胎児診断治療センターなどがEXITを実施していると説明しています。
国立成育医療研究センター Photo:PIXTA
この手術を一言で説明するなら、「帝王切開で、赤ちゃんと胎盤をつないだまま、出生後に必要となる処置を先に行う方法」となります。
胎児は子宮内で肺呼吸をしていません。胎盤で受け取った酸素が、へその緒を通じて赤ちゃんに届けられています。通常の帝王切開では、子宮内から赤ちゃんを取り出してへその緒を切った後、必要に応じて人工呼吸や気管挿管を始めます。
しかし、喉や気管が完全にふさがっている赤ちゃんでは、出生後に慌てて処置を始めても、気道の確保が間に合わない可能性があります。そこで、へその緒を切らず、胎盤から酸素を受け取れる状態を保ちながら、気管挿管や気管切開を行うのがEXITなのです。
「先天性上気道閉塞症候群」とは?
作中で胎児に見つかった先天性上気道閉塞(じょうきどうへいそく)症候群は、英語名の頭文字から「CHAOS」とも呼ばれる非常にまれな病態です。喉頭(こうとう)や気管の一部が、生まれつき閉鎖・狭窄(きょうさく)※1していることなどによって起こります。
※1:完全にふさがっていたり、極端に狭くなっていたりする状態のこと
子宮内の羊水中に浮かんでいる胎児の肺では、常に液体が作られています。通常は、その液体を気道から外(羊水中)に吐き出しているのですが、気道が閉じていると外へ流せなくなります。そうなると液体が肺の中にたまり、肺が大きく膨らんで心臓を圧迫したり、胎児の全身にむくみが生じたりすることがあります。
なお、重症度は、閉塞している場所や範囲、肺や心臓の状態、ほかの病気の有無によって変わってきます。

Photo:PIXTA
EXITを検討する際には、超音波検査や胎児MRIなどで気道や肺の状態を詳しく調べます。ただし、画像検査をしたとしても、出生後に肺がどこまで機能するかを完全に予測することは困難です。ドラマでも、ここがわからない(EXITが成功しても自力で呼吸できるか予測できない)状態であり、産婦人科医や新生児科医が悩んでいたということになりますね。
EXIT手術はどのように行われるの?
手術は帝王切開に近い形で実施されますが、実際の流れは大きく異なります。
まず、全身麻酔をかけ、胎盤の位置を確認して子宮を切開します。そして赤ちゃんの頭、首、上半身など、処置に必要な部分だけを子宮の外へ出します。赤ちゃんの体の一部と、へその緒、胎盤は子宮内に残したままにして、胎盤循環※2を保ちます。子宮を切開した部分は出血を防ぐため、先に切り口を縫い合わせて、止血しておくのが一般的です。
※2:お母さんと赤ちゃんの間の、血液のめぐりのこと。この循環を保つことで、赤ちゃんがまだ自分で呼吸できなくても、へその緒を通じてお母さんから酸素をもらい続けることができます。
その状態で、小児外科医や耳鼻咽喉科医、新生児科医が赤ちゃんの気道を確認します。口から管を入れる気管挿管を試み、難しければ専用の内視鏡で閉塞部位を確認したり、喉の表面に切開を加えてそこから管を入れる気管切開を行ったりします。
挿管によって安全に呼吸を補助できる状態になったことを確認してから、へその緒を切り、赤ちゃんを子宮内から完全に娩出します。その後は新生児集中治療室などで治療を続けます。
赤ちゃんの上半身だけを子宮内から出して処置をしている間、子宮が徐々に収縮してきてしまうことがあったり、胎盤が徐々に剥がれてきてしまったり、赤ちゃんがだんだんと出てきてしまったりするので、産科医はしっかり赤ちゃんの身体をつかみ、位置を固定させながら、羊水中に血が混じってきていないかなどを観察します。(中腰の姿勢のまま慎重に赤ちゃんを保持するため、かなり足腰にくるんです……。作中の光井先生たちもかなり頑張ってましたよね。)

Photo:PIXTA(5955172)
「制限時間3分」は絶対なの?
作中では「赤ちゃんに気管挿管するまでの制限時間は3分」と強調され、非常に緊迫したシーンとして描かれていました。
ただし、実際のEXITに「必ず3分以内」という一律の制限があるわけではありません。胎盤循環が安定して保たれれば、数十分にわたって処置できるよう計画される場合もあり、文献上は、さらに長い処置時間を想定した手順も報告されています。
一方で、決して時間が無制限なわけでもありません。胎盤が剥がれたり、へその緒が圧迫されたり、妊婦の血圧が下がったりすれば、赤ちゃんへの酸素供給は途絶えてしまいます。作中の「3分」は、今回のケースにおける切迫した状況を示すドラマ上の設定と理解するのが良いでしょう。

Photo:PIXTA
また、作中では事前のシミュレーションを念入りにしていました。実際のEXITでも、一つひとつの処置の順番、担当者、気管挿管ができなかった場合の次の方法まで、手術前に細かく決めておきます。手術の安全性を左右する重要な事前準備ということですね。
妊婦にも大きな負担がかかる
EXITの難しさは、赤ちゃんの気道確保だけではありません。胎盤が剥がれないよう、処置中は麻酔によって子宮を柔らかく保つ必要があります。
ところが、赤ちゃんと胎盤を娩出した後は、出血を止めるために子宮がしっかり収縮しなければなりません。つまり、手術の前半では「子宮を緩める」一方で、後半では速やかに「子宮を収縮させる」という、相反する全身管理が求められます。
子宮の収縮が不十分になれば大量出血につながるため、輸血を含む備えが必要です。このほか、胎盤早期剥離(はくり)、臍帯(さいたい)圧迫、麻酔に伴う血圧低下、感染、気道を確保できない可能性などもあります。
そのためEXITには、産婦人科医、新生児科医、麻酔科医、小児外科医、耳鼻咽喉科医、助産師・看護師、臨床工学技士、輸血部門など、多くの専門職が関わります。こうした事情から、一般的な分娩施設で実施できる手術ではなく、母体と赤ちゃんの両方に対応できる高度周産期医療施設のみで実施されるものになっています。(ドラマではメインキャストのみで手術をしていましたが、実際はもっと多くの職種や人が手術室に入っていることになりますね。)

Photo:PIXTA(67302490)
ドラマでの手術は「失敗」だったのか
第4話では、気管切開によって気道を確保できましたが、肺は十分に機能せず、赤ちゃんは数時間で亡くなってしまいました。
EXITは、閉じている気道を迂回(うかい)して空気の通り道を作る治療方法です。気道を確保できても、肺自体に重い障害があれば、酸素を体内に取り込めないことがあります。したがって、「気管切開に成功したのだから助かるはず」とは限りません。作中の経過は、医学的にも起こり得るものなのです。
では、今回のEXITは失敗だったのでしょうか。
たしかに、根本的・長期的な救命という目的は達成できませんでした。一方で、気道を確保し、両親が生きている赤ちゃんを抱く数時間を作ることはできました。手術としての成功、命を救うという意味での成功、そして本人や家族が大切にしたいことを実現するという意味での成功は、必ずしも一致しないのだと思います。

Photo:PIXTA
ただし、「家族として最期の時間を作れる」という理由だけで、妊婦さんへのリスクや負担を過小評価してよいわけでもありません。実際の医療現場では、赤ちゃんが助かる可能性、助かった後に必要となる治療、母体への危険、EXITを行わない選択肢、救命が困難だった場合のケアまで説明し、妊婦さん本人とご家族が十分に考え、決める必要があります。
どの選択にもつらさや葛藤があり、誰にでも当てはまる一つの正解はない、ということを考えさせられますね。
まとめ:EXIT手術が問いかける「命との向き合い方」
本記事ではEXIT手術について説明しました。
手術の目的や概要、流れ、リスクなどをご理解いただけたのではないでしょうか。
作中では「出産の現場で奇跡は起こらない」という新生児科医のセリフがありました。これは冷たく聞こえますし、その場で聞いたらショッキングでしょう。しかし、ハッピーな結果を必ず約束することはできないからこそ、医療者は希望だけでなく限界も併せて客観的に伝えなければなりません。
一方で、奇跡に近い出来事があるとすれば、それは偶然ではなく、正確な診断、多職種による連携、事前の準備、高度な技術、そして当事者との対話が積み重なった先に生まれるものだと思います。
第4話は、命を「助かった」「助からなかった」だけで分けるのではなく、限られた状況で医療に何ができるのか、そしてそれをご家族がどう受け止め考えるのかを、静かに問いかけた回だったように思います。
ドラマ「ファーストクライ」 第4話の視聴はこちらの公式ページからどうぞ。
https://www.ntv.co.jp/firstcry/
















