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ドラマ『ファーストクライ』解説シリーズ #3

「未受診妊婦」って?その現状と危うさを産婦人科医が解説

カテゴリー:妊娠

おなかに手をあてるワンピースを着た妊婦さん

日本では妊娠中、一般的に十数回の妊婦健診を受けます。これは、胎児の成長をチェックしたり、もし異常があれば早めに対応したりするためにとても大切です。

一方で、さまざまな事情から妊婦健診を十分に受けられないまま、妊娠後期や分娩直前を迎える方がいます。こうした状態は一般に「未受診妊婦」と呼ばれます。こうした「妊婦健診を受けていない」状況では、いくつもの危険性が懸念されます。

今回は、医療監修として携わっている医師の目線で、2026年7月期のドラマ『ファーストクライ 母子救命救急班』の第一話にも登場する「未受診妊婦」とその危なさについて解説します。

ドラマ「ファーストクライ」第1話解説
第1話には「未受診妊婦」が登場する。 画像:日テレドラマ「ファーストクライ」公式HPより引用

未受診妊婦の定義とは?

まず、未受診妊婦とは具体的にどういう状態を指すのか確認しましょう。

実は、全国で完全に統一された定義があるわけではありません
狭い意味では、妊婦健診を一度も受けないまま分娩に至る妊婦を指します。一方で、実際の医療現場や自治体調査では、健診を受けた回数が極端に少ない場合、長期間受診が途絶えている場合、分娩直前に突然来院する「飛び込み出産」も含めて、未受診妊婦と扱われることがあります。

例えば、大阪産婦人科医会の報告書では「受診回数3回以下、または受診しない期間が3カ月以上」と定義されています。

つまり、未受診妊婦とは「一度も病院に行っていない人」だけではないということですね。妊娠経過をしっかり把握するための情報が不足している妊婦さん全体を含む概念、とイメージしていただければわかりやすいかと思います。

妊娠検査薬を使う女性
Photo:PIXTA

実際どのくらいいるの?未受診妊婦の数

国内の調査では、病院での未受診妊婦の方は年間数百〜千例程度報告されており、大阪の調査では全体の「約0.3%」と報告されています[文献1]。未受診妊婦の方の分娩対応は特殊な状況となるので、主に病院、とくに高次医療機関に集中しやすい傾向があります。

大阪府の調査では、未受診・飛び込み出産は2012年をピークに減少傾向がみられたものの、近年も毎年一定数が報告されています。2023年には150件が報告され、前年より増加していました[文献2]
未受診の理由としては、

・知識不足
・妊娠への認識の甘さ
・経済的問題
・妊娠したという事実を受け入れにくかった

ことなどが挙げられています。

ただし、これらの理由をみて、「本人の意識が低い・知識が乏しいだけだ」と単純化して片付けるべきではないと私は考えています。それぞれの背景には、性教育や避妊へのアクセス不良、相談相手がいなかった、生活の困窮、家庭内暴力、社会的孤立などが関わっていることも多く、社会体制の問題とも考えられるからです。

つまり、公衆衛生の視点では、未受診妊婦は「個人の問題」ではなく、医療・福祉・教育・地域支援の網からこぼれ落ちているサインでもあると言えるでしょう。

新聞の「社会保障」の見出し
Photo:PIXTA

妊婦さん自身にとって「未受診であること」のリスク

妊婦健診を受けないまま妊娠が進むと、どのような危険性があるのでしょうか。
端的に言えば、妊婦さん自身の異常に気付けなかったり、気付くのが遅れたりしてしまいます。

・妊娠高血圧症候群
・妊娠糖尿病
・貧血
・腎機能や肝機能の異常
・感染症
・切迫早産
・胎盤の位置異常

などは、妊娠初期には自覚症状が乏しいことがあります。しかし気付かずに放置されてしまうと、命の危険に及ぶ可能性さえあるのです。

腹痛でお腹に手を当てる女性Photo:PIXTA

例えば、妊娠高血圧症候群が知らぬ間に発症し重症化すると、けいれん、脳出血、肝機能障害、腎機能障害、胎盤早期剥離(はくり)などにつながることがあります。

妊娠糖尿病は、巨大児(出生体重4kg以上)、羊水過多、難産、会陰の重度裂傷、出生後の赤ちゃんの低血糖などのリスクを増加させます。貧血が強い場合には、妊娠中のふらつきや転倒のリスクが高まりますし、分娩時の出血に身体が耐えられなくなる可能性もあります。

また、妊娠週数、胎児の向き、胎盤の位置、過去の手術歴、血液型、感染症の有無などがわからないまま陣痛や破水で来院すると、医療者は短時間で多くの検査や判断をしなければなりません。そして、本来であれば妊娠中に計画的に進められたはずの帝王切開、輸血準備、高次施設への紹介、NICUとの連携などが、全て緊急対応になってしまいます。

胎児・新生児にとっての「未受診」のリスク

未受診の状態は、赤ちゃんにとっても大きなリスクになります。

妊婦健診では、胎児が順調に発育しているか、羊水量に問題がないか、胎盤の位置に異常がないか、早産の兆候がないか、多胎妊娠ではないかなどを確認します。受診できていないと、胎児発育不全、早産、胎位異常(逆子など)、胎児機能不全などに気づくのが遅れる可能性があり、最悪「子宮内胎児死亡」になってから気付くことにもなりかねません。

へその緒と赤ちゃんのぬいぐるみPhoto:PIXTA

感染症の確認も重要です。
妊娠中には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎、梅毒、風疹、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)など、母子感染に関わる検査が行われます。もし分娩直前までこれらの検査がされていないと、胎内感染が起こっているかもしれません。

出生後も、妊娠中の情報が少ない場合には、赤ちゃんの推定週数、体重、感染症リスク、低血糖、呼吸障害などを慎重に検討・評価しなければなりません。

一見すると元気そうに見えても、しばらく小児科やNICUで経過観察が必要になることもあります。

飛び込み出産になった場合

もし妊婦健診を受けられないまま、陣痛、破水、出血、強い腹痛、胎動が感じにくい、などが起きた場合は、ためらわずに医療機関や救急へ連絡してほしいと産婦人科医は誰もが思っています。

「怒られるのではないか」「お金がない」「事情を説明しにくい」と思うかもしれませんが、母子の命が危険な状態になっている可能性もありますので、それまで受診できていなくても、母子健康手帳がなくても、保険証が手元になくても、まずはぜひご連絡いただきたいです。

来院時には、わかる範囲でよいので、

・最終月経
・妊娠検査薬が陽性になった時期
・妊娠・出産歴
・持病
・内服薬
・アレルギー
・自覚症状
・胎動の有無
・家族やパートナーに連絡できるか

などを伝えてください。
全て正確にわからなくても構いません。少しの情報でも、医療者の判断の大きな助けになります。

おくすり手帳と錠剤Photo:PIXTA

一方で、飛び込み出産は医療者にとっても非常にリスクの高い対応となります。妊娠週数、感染症、血液型、胎盤の位置、胎児の状態、社会的背景がわからないまま対応しなければならず、感染予防策を講じながら、緊急帝王切開の可能性や新生児蘇生・治療の可能性を考え、多くの医療者の力が必要となります。

これは妊婦さんを責めたいという意味ではないのですが、事前情報がない分、母子双方に、そして医療者にとっても、どうしても危険が増えてしまうという事実があるのです。

未受診妊婦を生まない社会のために

さまざまな事情を抱えながらも妊婦健診を受けられずにいると、どうしても複数のリスクが出てきてしまいます。初期のうちからできるだけ予定通りに妊婦健診を受けていただきたいですが、もし受けていなくても何か症状があればすぐに産科を受診していただきたいです。

そして、どんな方にも「受診できない・したくない」と思わせないような社会の仕組みを作っていきたいものです。

ドラマ「ファーストクライ」では、未受診妊婦の方へ母子救命救急班がどのように対応するのでしょうか。ドラマを最大限楽しむために、本記事がお役に立てばうれしいです。

[文献1] The Journal of AIDS Research, Vol. 26 No. 1; 38-44, 2024
[文献2] 「未受診や飛込みによる出産等実態調査」(大阪府)2023年調査報告(令和5年度)

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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