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気になるキーワード 「FUS(女性の低体重/低栄養症候群)」

「キレイになりたい」のに、不調が続いていたとしたら——。産婦人科医が語る、女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の実態

鏡を見て頭を抱える女性

「最近、ちょっと痩せた?」
少し顔がすっきりしただけで褒められる。体重が減ると、なんだか安心する。

でも一方で、こんな「よくある不調」が続いてはいませんか?

・ 疲れやすくて、朝からだるい 
・ 手足が冷える
・ 生理の周期が不安定 
・ 肌や髪の調子がイマイチ

心当たりがあるなら、それは体が発しているSOSかもしれません。
2025年、日本肥満学会は新たに「FUS(女性の低体重/低栄養症候群)」という概念を提唱しました。産婦人科医の柴田綾子先生にお話を伺い、その実態に迫ります。

その不調、「低栄養」が関係しているかもしれません

厚生労働省「国民健康・栄養調査(令和5年)」によると、20~30代女性の5人に1人がBMI*18.5未満の「やせ」に該当します。

さらに、20代女性の平均エネルギー摂取量は1,854kcal。これは活動量の少ない70代女性より低く、戦後の食糧難の時代(昭和25年)の平均エネルギー摂取量**(約2,067kcal)を下回ります。

*BMI=体重(kg)÷ 身長(m)÷ 身長(m)。18.5未満=「やせ」、18.5以上25未満=「普通体重」、25以上=「肥満」
**厚生省「昭和25年度国民栄養調査成績」当時の都市と農村の平均値。年代・性別の区分はなし

飽食の時代に、必要な栄養が足りていない——。
若い女性の間で、そんな矛盾が広がっています。

FUSとは、18歳以上で閉経前までの成人女性において、低体重や低栄養を背景に月経異常、骨量低下、貧血、筋力低下など、さまざまな健康障害が起こっている、または起こり得る状態をまとめて捉えた症候群です。
柴田先生は、こう説明します。

「冷えや頭痛など、日常的な不調の背景には、貧血や月経周期異常が隠れていることがあります。さらに、その原因として低体重・低栄養があります。BMI18.5未満だとすぐFUSに該当するわけではありませんが、『なりやすい状態』にあることは知っておきたいポイントです」

産婦人科の現場で目立つ「鉄欠乏性貧血」

「診察室でも、朝から元気がない若い女性が目立ちます」と柴田先生。多く見られるのが、鉄欠乏性貧血です。

女性は月経で鉄を失うため、食事量の不足や低栄養状態が重なると、あっという間に鉄不足に陥ります。すると血液中で酸素を運ぶヘモグロビンが十分作られず、全身が酸欠状態になります。結果、冒頭のリストにあるような、疲れやすさやだるさといった不調を引き起こします。

「肌荒れ、抜け毛、爪が割れやすくなるなど、美容面へのダメージにも直結します。適切な栄養は、美しさの土台としても欠かせません」

抜け毛をつまむ女性の手
Photo:PIXTA

生理が来ないのは「ラク」ではなく、体からのSOS

柴田先生が特に危機感を持っているのが、月経不順や無月経の放置です。
「生理が止まるのは体からの重大なサイン。エネルギー不足になると、体は生命維持を優先し、子宮や卵巣などの生殖機能を後回しにしてしまいます。
初経から2〜3年は月経周期が不安定なこともありますが、20歳前後になっても月経が不規則な場合は、決して放置せず、婦人科に相談してください」

絆創膏を貼ったハートとチェックリストの書いたバインダーPhoto:PIXTA

「今」だけじゃない。未来の自分や、次の世代にも関わる話

柴田先生が次に強調するのは「骨」への影響です。
「骨量や骨密度は20歳までにピークを迎え、その後30代~40代前半頃まで維持されます。この時期に栄養が摂れていないと、骨が弱くなってから慌ててカルシウムを補っても、取り戻せないことがある。若い頃の栄養不足は疲労骨折や骨粗鬆症(こつそしょうしょう)のリスクを高めます」

骨の修復にも低栄養は影響する
Photo:PIXTA

妊娠・出産へのリスクも見逃せません。

「母体が低体重・低栄養では妊娠しにくくなる可能性があり、妊娠後も『低出生体重児(2,500g未満)』になるリスクが高まります。さらに、その赤ちゃんはエネルギーを蓄えやすい体質となり、将来、肥満や糖尿病になりやすい傾向があることも分かっています。母体の栄養状態は、次世代の健康にまで引き継がれていくのです」

怖いのは、あなたを無意識に縛る「痩せ願望」

FUSで注意したいのは、拒食症のような極端なケースだけではないことです。むしろ根深いのは、「無意識の痩せ志向」や「健康的なつもりの食習慣」かもしれません。

・ランチはパンとヨーグルトだけ
・太るのが怖くて、ごはんはいつも半分残す
・体に良さそうだからサラダ中心
・昨日食べ過ぎたから今日は食べない

これらは現代女性にとって珍しくない光景です。
ダイエットの意識はなくても、心のどこかに「太ってはいけない」という恐怖心が潜んでいないでしょうか。

また、「もともと食が細く、量が食べられない」という体質の人も同様です。「体質だから」と見過ごしていれば、やはりFUSや将来の不調につながります。

「栄養が不足すると、体は少ないエネルギーでも動けるよう『省エネモード』になります。
すると『私は食べなくても大丈夫な体質』『今、症状はないから問題ない』と誤認してしまう。でも実際には、徐々にホルモンや骨、筋肉がむしばまれているケースがあるのです」

サラダが好き、パンのみ、といった一見ヘルシーに見える食生活にも注意が必要Photo:PIXTA

「シンデレラ体形」は、本当に理想の美しさ?

SNSなどで理想とされる、いわゆる「シンデレラ体形」。「BMI 18に相当する体重」で知られています。

身長160cmなら約46kg、医学的には明らかな「低体重(やせ)」です。
医師の間では「この体形を健康的に維持することは極めて難しく、おすすめできない」が共通認識です。しかし、幼い頃からこうした理想の体形像に触れることで、痩せ願望の低年齢化も進んでいます。

また近年、ダイエット目的で「GLP-1受容体作動薬(本来は2型糖尿病・肥満症の治療薬)」を自己判断で使用する人が増えていることも問題です。厚生労働省は適正使用の注意喚起を行っています。

「本来は厳格な基準を満たす場合にのみ、医師より処方される薬です。安易に入手して使うと、激しい吐き気や下痢、めまいなどの副作用を招くことがあります。『ラクして痩せられる』という裏にある体へのリスクを知り、情報を見極めることが大切です」

黄色いびっくりマーク(注意マーク)Photo:PIXTA

なぜ「もっと痩せたい」と思うのか

日本の若年女性の低体重率は先進国でも突出して高い傾向にあります。ヨーロッパなどでは痩せすぎモデルの起用を規制する法的な動きが進んでいますが、日本にはまだありません。

柴田先生は背景に「周囲の目を気にしやすい文化」があるのではと指摘します。
海外では「ボディ・オートノミー(体の自己決定権)」という考え方が広がっています。
私たちも「痩せる=美しい」という画一的な価値観に縛られなくてもよいのではないでしょうか。

今日からあなたができること

柴田先生がまず薦めるのは「普段食べているものを、書き出してみること」です。客観視すると、摂取量やバランスの偏りに気づきやすくなるでしょう。
食事摂取量を記録するアプリの活用もおすすめです。

例えば不足しやすい「鉄分」
厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」によると、月経のある20〜40代女性の推奨量は1日あたり10.0〜10.5mg。

「野菜だけ」の摂取では必要量に届きにくい数字です。偏らず、食材を組み合わせて取り入れるとよいでしょう。

【鉄分を多く含む食材の例(1食分あたり)】

レバー(豚・鶏など/50g):約4.5〜6.5mg/赤身の牛肉(80g):約2mg/小松菜のおひたし(80g):約1.7mg/納豆(糸引き納豆1パック/50g):約1.7mg
出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」

Feの文字と鉄分を多く含む食材Photo:PIXTA

「そして、自分はFUSかもしれないと感じたら、1人で抱え込まずに産婦人科を受診してください。
貧血の有無や女性ホルモンの状態は血液検査で調べることができます。食事のコントロールが難しくなっている場合は、心理カウンセラーや栄養士のサポートを受けることも有効な選択肢です」

「細さ」だけが魅力じゃない

一方で、美の価値観にもポジティブな変化の兆しが見え始めています。内面や個性を重視したガールズグループの活躍や、「健康的な体形でありたい」と発信するインフルエンサーへの支持も高まっています。

「本当の美しさとは、ただ細いことではないと思うんです。しっかり食べて、心から笑えて、自分らしくいられること。そのすべての土台となるのが、『健やかな体』です。あなたの体を、どうか一番に大事にしてください」。

自分の体を一番に大切にする。それこそが、私たちが本当に手に入れたい「キレイ」への第一歩なのかもしれません。

チェックリストを説明するビジネスウーマンPhoto:PIXTA

セルフチェック|あなたの体は大丈夫?

□BMIが18.5未満である 
□動悸(どうき)や息切れがすることがある 
□生理不順や、生理が来ない月がある 
□いつも疲れやすく、だるさを感じる 
□手足が冷えやすい 
□肌の荒れや、髪のパサつき・抜け毛が気になる 
□気分が不安定になりやすく、落ち込みがち 
□カロリーを気にして食事量を減らしたり、抜いたりする 
□菓子パンやお菓子、サラダだけで食事を済ませることが多い 
□「太ること」に対して強い恐怖感がある

1つでもチェックがついた方は、FUSリスクがあるかもしれません。今日の食事内容から振り返ってみませんか?

<出典・参考資料>
・日本肥満学会「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント」2025「閉経前までの成人女性における低体重や低栄養による健康課題 ―新たな症候群の確立について」
・日本肥満学会 FUS構造図
・厚生労働省「令和5年国民健康・栄養調査」
・厚生省「昭和25年度国民栄養調査」
・厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2025年版)スライド集
・文部科学省 日本食品標準成分表(八訂)増補2023年
・マンジャロ個人間売買に注意喚起

 

葛和恵奈子
(株)ジャパンライフデザインシステムズ プロデューサー/エディター。女性誌編集、ヘルスケア企業マーケティング部を経て、2006年より健康・美容系メディアでコンセプト設計、編集・執筆に携わる。自身も不妊治療に向き合い、43歳と45歳で男児を出産。女性が自分の身体を正しく知り、納得のいく選択ができることの大切さを痛感している。復職後、ウィメンズヘルスリテラシー協会「女性のヘルスケア講座」を修了。英国IFA認定国際アロマセラピスト資格を持ち、東京モード学園非常勤講師としても活動。

柴田綾子

この記事の監修医師

医長

柴田綾子先生

産婦人科

世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動。著書:女性の救急外来 ただいま診断中!(中外医学社,2017)、産婦人科ポケットガイド(金芳堂,2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社,2021)明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社,2022)

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