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【レビュー】令和の“コインロッカーベイビー”は命を救う!?ドラマ『ファーストクライ』第1話

帝王切開で生まれた赤ちゃんを抱く笑顔の女性

2026年の夏ドラマ『ファーストクライ』がスタートしました。ふにゃふにゃ赤ちゃんの尊さをこれでもかと浴びられる、メディカルエンターテインメント。放送前からSNSで散々流れてきた、あの「イラッ」とする宣伝シーンも無事確認できました。

「1泊53万円。お手頃だからこれにしようか」

……はい、出ました。庶民の金銭感覚を真正面からぶん殴ってくるこのセリフ。いや~、むかつく(笑)。もちろんこの感情は、作り手の狙い通りなのでしょう。舞台は超セレブ御用達の産院。「ここは一般人の世界ではありません」ということを、一発で理解させる導入です。まんまと画面の前で「けっ」となりました。

とはいえ、この超富裕層向けビジネスだからこそ、経済的に困窮した妊婦をひそかに無償で受け入れる「母子救命プロジェクト」が成立している、というウルトラC設定。嫌みな金持ち演出が、そのまま社会貢献システムの土台になっているのは、ちょっと面白い。

そういえば、これまでドラマや漫画に登場する「セレブ病院」って、だいたいロクでもありませんでした。最近見たイギリスドラマ『産婦人科医アダムの赤裸々日記』でもそうでした。主人公がアルバイト先として訪れた公立病院は、とにかく豪華。優雅なディナーにアスパラガスが使われれば、季節外れな食材よねとか言い出す優雅な世界です。

ところが、いざ妊婦が危険な状態になると医療体制はポンコツ。結局、主人公の勤務する公立病院へ搬送するしかありません。
アスパラガスの旬を気にしてる場合じゃねー!

とうもろこし、ズッキーニ、アスパラガス、なすなど様々な夏野菜
アスパラガスの旬は夏 Photo:PIXTA

見た目だけ立派で中身はスカスカ。そんな「こだわりクリニック」話は、現実でもちょこちょこ耳にするので、苦笑い。と、早速の余談失礼しました。そんなテンプレをひっくり返す面白さがあると言いたかったのです。

テーマは「望まない妊娠や社会的孤立をどう支えるか」

さて。第1話で強く印象に残ったのは、主人公の出自である「コインロッカー」でした。

「赤ちゃんをひとりにしないで!」

そう叫ぶ主人公自身が、コインロッカーに遺棄(いき)された当事者。行動原理として、とてもわかりやすい。
ある程度の世代なら、真っ先に村上龍の小説『コインロッカーベイビーズ』を思い浮かべた人も多いでしょう。

施設内にあるコインロッカーやベビー休憩室の案内看板
Photo:PIXTA

「コインロッカーに赤ちゃんを遺棄する」という行為が社会問題として広く知られたのは1970年代。ただ実際には、急増したというより、マスコミがセンセーショナルに取り上げたことで強く印象づけられた側面が大きいようです。

さらに90年代になると、このモチーフは都市伝説を経て、女子高生文化の怪談へと変化。「コインロッカーから赤ちゃんの泣き声が聞こえる」という説が定着していきます。

映画化もされた『8番出口』でも、コインロッカーから赤ちゃんの泣き声が響くシーンがありました。主人公の罪悪感が怪異になったかのような演出で、「コインロッカー×赤ちゃん」が心理的メタファーに転じた、と感じました。

このコインロッカー遺棄、当時の議論では「母性の欠如」の象徴として語られました。
昔の捨て子は寺や乳児院の前など、誰かに見つけてもらえる場所へ置かれることが多かったのです。一方、コインロッカーへの遺棄は、生き延びることを前提にしていません

だから「母性がない」「母子関係が断絶している」と説明されたのです。子どもの心身の不調や問題行動の多くは、母親との関係のゆがみに原因があるという「母原病」説が広まった時期とも重なり、何でもかんでも母親のせいにされていた時代を想像すると、憂鬱(ゆううつ)な気持ちになります。

けれども2007年、赤ちゃんポストが設置されると議論は変わっていきました。

「匿名で預けられる制度は命を救うのか」 「子どもの出自を知る権利をどう守るのか」
「親を責めるだけでなく、安全な受け皿を社会が用意すべきではないか」

焦点は「母性の欠如」から、「望まない妊娠や社会的孤立をどう支えるか」へ。社会の見方そのものが、大きくシフトしてきたのです。

赤ちゃんを運ぶコウノドリのイラストPhoto:PIXTA

『ファーストクライ』でも、出産後に病院を飛び出し「子どもには会いたくない」と拒絶する妊婦が登場しました。ひと昔前なら「母性の欠如!」と断じられていたかもしれません。けれどこのドラマでは、支援につながり、赤ちゃんの保護へと着地します。

たった1話の中で、「コインロッカーベイビー」という言葉が象徴してきた時代から、支援へと発想が移り変わった社会の変遷までを見せてもらったような気がしました。

かわいい赤ちゃんを愛でつつ、社会の変化も映し出す『ファーストクライ』。次回も楽しみです。

山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru

重見大介

この記事の監修医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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