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イベントレポート:コープ共済

「調べるほど不安になる」情報氾濫時代の妊娠・出産 ~情報との付き合い方について産婦人科医が伝えたいこと〜

笑顔で話すcrumii編集長の宋美玄医師

「調べれば調べるほど、何を信じていいのかわからなくなる」――。妊娠・出産を経験した人なら、一度はそんな感覚を抱いたことがあるのではないでしょうか。

2026年7月16日、コープ共済が「妊娠・出産期の“情報氾濫”の実態と課題を考える」をテーマに、メディア向けイベントを開催しました。

イベント後半に行われたトークセッションには、crumii編集長の宋美玄医師も登壇。情報に飲み込まれないためのポイントを語りました。crumii編集部も参加した当日の様子を、当事者の体験談とトークセッションを中心にレポートします。

「情報が多すぎる」世の中で、4人に3人が戸惑っている

妊娠・出産は、健康管理から出産準備、育児、そして生まれてくる子どもへの保障まで、幅広い情報収集が必要なライフイベントです。

2026年5月には、分娩費用を無償にする新制度を盛り込んだ改正健康保険法が成立しました(施行は今後の予定)。こうした制度や環境の変化により、家計や将来への備えを考える重要性が高まっています。

同時に、SNSや生成AIの普及で誰もが手軽に情報へアクセスできる一方、偽・誤情報の拡散や「何を信じればよいかわからない」という“情報氾濫”の難しさも増しています。こうした背景から、今回のイベントは開催されました。

はじめに共有されたのは、妊娠中および乳幼児を育てる世帯を対象にした意識調査の結果でした。

もっとも印象的だったのが、「妊娠・出産に関する情報が多すぎて、何を信じてよいかわからないと感じたことがあるか」という問いに、「よくある」「ときどきある」を合わせて75%――実に4人に3人が「わからない」と答えていたことです。

妊娠・出産期のお悩み調査2026サマリー
画像:コープ共済提供

しかも、情報を集めるほど不安が増していく傾向が見えました。1日あたりの検索時間が「5〜30分未満」の層では「わからないことがよくある」との回答が23.4%にとどまる一方、「5時間以上」の層では71.4%にまで増えています。

多く調べたほうが安心につながりそうなものですが、実態は逆。情報量が増えるほど、かえって判断が難しくなり、不安が大きくなっていく様子から、妊娠・出産期の課題は「情報不足」ではなく「情報過多」だという構図が浮かび上がりました。

もっとも使われている情報源はSNSで、もっとも信頼されているのは「病院・医師」と、使う情報源と信頼する情報源が一致していない点も印象的でした。

なお、生成AIの利用率は15.1%と、従来メディア(テレビ・新聞・雑誌/18.6%)に迫る水準だったものの、そこまで多くはありませんでした。生成AIには、事実に基づかない情報をもっともらしく出力する“ハルシネーション”のリスクがあり、その正確さをどう見極めるかも新しい課題として示されました。

妊娠・出産期の情報源の円グラフ
画像:コープ共済提供

「調べるほど不安になった」――ある家族が、経験して気づいたこと

続いて登壇したのは、実際に妊娠中の情報収集に向き合ったAさん。生まれてきたお子さんに先天性心疾患が見つかった経験を踏まえ、語ってくださいました。

※プライバシー配慮のため、当日は撮影を控える形で講演が行われました。

Aさん家庭の情報収集のスタイルは夫婦で対照的だったそうです。

「私は雑誌が中心で、わからないときにネットで調べるくらい。妻はアプリも使い、入院してからは流産や早産についても熱心に調べていました。情報を得ることで、逆に『こういうことが不安だ』という気持ちも増えていったようでした」

2025年2月下旬、赤ちゃんが無事に誕生。当初は大きな問題はありませんでした。

ところがさらに1週間後、赤ちゃんが苦しそうに激しく泣くように夜中に、出産した産院へ電話をすると「様子見を」と言われました。しかし不安が消えず、小児救急電話相談(#8000)に連絡。

なるべく早く専門医に診てもらったほうが良いと助言を受け、翌朝には小児科を受診し、そのまま手術のできる県立病院へ救急搬送、先天性心疾患と診断され緊急手術に至りました。手術後はPICU(小児集中治療室)での入院を経て回復。

「毎日面会に通い、管が1本ずつ外れていくのを見て、少しずつ安心していきました」

小児科病棟でケアを受ける赤ちゃん※イメージ写真 Photo:PIXTA

そこでAさんが強調したのが、事前の情報収集の重要性です。とりわけ実感したのが、制度や費用に関する情報を、あらかじめ知っておくことの大切さでした。

手術は県外だったため、医療費はいったん自己負担で立て替え、後日自治体に申請して償還払いを受ける形に。高額療養費制度の上限額分として総額約60万円を半年ほど立て替えたといいます。

退院後も、感染を避けるために車を購入するなど、予定外の出費が重なったそうです。どんな制度が使え、どんな備えが手元にあるのか――その情報を持っているかどうかが、いざというときの支えになる、という実感のこもった言葉でした。

現在、お子さんは経過も良好で、生後1年の心臓の検査でも問題は見つからず、今は保育園に通いながらほかの子と変わらない生活を送っているといいます。一方でAさんは、

「心疾患の既往があると新たな保険には入りにくい。私たちは幸い、妊娠中から加入でき、生まれたその日から保障が始まる制度に加入していました。結果的にそれが助けになったことを、今も家族でよく話します」

とも伝えてくれました。

この体験談は、調査結果が浮き彫りにした「不安に直面しながらも、子どもの未来を見据えて備えようとする親たちの姿」を、リアルな肉声を通して伝えるものでした。まさに、「必要な情報を、必要になる前に知っておく」ことの重要性を物語っています。

トークセッション:宋美玄医師と考える「情報との距離」

後半は、crumii編集長でもある宋美玄医師と、コープ共済の甲斐亜樹さんによるトークセッション。「情報氾濫の時代に、妊娠・出産期の情報とどう付き合うか」が語り合われました。

トークセッションの写真
画像:crumii編集部撮影

「気になると、つい検索してしまう」

調査結果への感想を問われた宋医師は、日々の診察やSNSでの発信を通じ、同じ実感を持っていたと話します。

「みなさん、ちょっと気になることがあると、すぐ検索してしまう。検索の時間が長くなるほど、どんどん不安になって、さらに不安だから探してしまう。そうすると、怖い情報のほうが多く目に入ってくるんです」

甲斐さんも二児の母としての経験を重ねます。

「一人目のときは体調の変化もネットで調べていました。でも、たいてい悪い情報にばかり行き着いてしまって、すごく不安になった経験があります」

AIの“もっともらしい誤り”という新しい落とし穴

甲斐さんは、事業者側から見た生成AIの課題にも触れました。検索するとAIの要約が上位に表示され、「その要約だけで判断する人が増えている」といいます。

実際にコープ共済でも、本来は設けていない“出産のお祝い金”があるかのようにAIが誤って要約し、それを見た人からの問い合わせが寄せられたことがあったそう。

「公式サイトまで見れば正しい情報にたどり着けるのですが、要約だけで完結してしまう。受け取る側のリテラシーも高めていく必要があると感じました」

日本コープ共済生活協同組合連合会 総合マネジメント本部 渉外・広報部 部長 甲斐 亜樹さんが話す様子日本コープ共済生活協同組合連合会 総合マネジメント本部 渉外・広報部 部長 甲斐 亜樹さん

「高齢だから」の誤解と、脅さない情報発信

宋医師が「本当に多い」と挙げたのが、食べ物と、赤ちゃんの病気にまつわる誤解です。

「『生の肉はダメ』が広まると、今度は『生の魚もダメ』となる。本当は、マグロなど大きな魚を“たくさん”食べるのを控える話と、“生”がダメという話は、まったく別の情報なんです。それが混ざって伝わってしまう」

赤ちゃんの病気についても、誤解は根強いと言います。

「生まれてくる赤ちゃんのうち3〜5%に何らかの病気があります。ネットには『高齢の母親に起こる、若ければ大丈夫』と書かれていることがありますが、年齢が関係するのはダウン症などの一部。それ以外の多くは年齢とあまり関係なく起こります。間違った情報が常識のようになっていて、それで妊娠を躊躇したり、無駄に心配したりする人が出てきてしまう」

そのうえで強調したのは、「脅すのではなく、フラットに伝える」こと。日本では22〜36週での早産が約6%にあり、妊娠は必ずしも「10カ月後に赤ちゃんを抱いて終わる」とは限らない――そうしたリスクを、怖がらせるためではなく「実際にあること」としてフラットに伝えてほしい、と話しました。

「かかりつけの先生から怖いことばかり言われても、信頼関係に関わってしまう。だからこそSNSやメディア、企業からの発信が、脅しではなく『予測できないこともある、自分にも起こりうる』という形で届くといい」

crumii編集長でもある宋美玄医師が話す様子
丸の内の森レディースクリニック院長・crumii編集長 宋美玄医師

情報に振り回されないために

最後に、「情報に飲み込まれないためのポイント」が語られました。宋医師が挙げたのは二つです。

一つは、情報の“出どころ”を確かめること。

「妊娠中の情報なら、厚生労働省や学会、国立の機関などが発信しているものがあります。最終的にはそういう一次情報にあたる。あるいは、それをわかりやすく記事にしているメディアを見る。ソースを確認することが大事です」

もう一つは、意外にも「ネットから離れる時間をつくること」でした。

「SNSばかり見ていると、怖い情報が次々に目に入ってきます。どういう情報に触れ続けるかで不安の量は変わる。一度スマホから離れる時間をとる、それだけでもずいぶん違うと思います」

妊娠・出産期のお悩み調査2026タイトル
画像:コープ共済提供

質疑応答より:胎児エコーで、どこまでわかる?

トークセッション後の質疑応答で、crumii編集部からは、体験談にもあった先天性心疾患に関連して「胎児超音波検査で、赤ちゃんの病気はどの程度までわかるのか」を尋ねました。

宋医師の回答はこうです。

「妊娠初期(11〜13週)のスクリーニングを国際的なガイドラインに沿った精度で行えば、生後1年以内に手術が必要な病気の約9割が見つかるとされています。
NIPT(血液で調べる検査)と2回の超音波検査を合わせると、病気全体の5〜8割ほどがわかるイメージです。ただ、体の表面のあざ、目が見えるか、耳が聞こえるか、発達や知的な面は、育ってみないとわからない。
わかるものはなるべく見つけますが、わからないものもある、というのが正直なところです」

体験談のケースについては、こう添えました。「生まれてすぐには見つかりにくいタイプだったのだと思います。でも、今はお元気にされているとのことで何よりです」

「調べる」より前に、頼れる先を持っておく

この日繰り返し語られたのは、情報は多ければいいわけではない、ということでした。調べるほど不安になり、AIの要約が新たな誤解を生み、思い込みが常識のように広まっていく。そんな時代に大切なのは、一次情報にあたること、信頼できる発信元を持っておくこと、そして時にはネットから離れること。

そして、どれだけ備えても「予測できないこと」は起こりうる。だからこそ、正確な情報と、いざというときに頼れる備えを、慌てる前に手元に持っておくこと――。当事者の体験談と専門家の言葉は、そのことを静かに、しかし、たしかに伝えていました。

 

山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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