妊娠検査薬 陽性 異所性妊娠

 

異所性妊娠(子宮外妊娠)とは?原因・症状・診断・治療まで徹底解説【前編】

妊娠検査薬で陽性反応が出ると、とても嬉しいですよね。でも、中には本来の場所である子宮の中ではなく、他の場所に受精卵が着床してしまうことがあります。要するに、子宮の中ではない、少し外れた場所に妊娠している、ということなのですが、異所性妊娠は破裂すると短時間で出血性ショックに陥る産科救急となる場合があり、命に関わる可能性をはらんだ状況です。

この記事では、異所性妊娠の原因や症状、検査方法や治療、再発リスクまで、詳しく解説していきます。妊娠を希望している方や、妊娠初期の方には特に知っておいていただきたい情報です。

異所性妊娠とは?

「異所性妊娠」とは、妊娠が本来の子宮の中ではなく、子宮の外で起きることをいいます。いわゆる「子宮外妊娠」と同じ意味ですが、子宮の外だけでなく、子宮内に近い位置にあるけれど正常ではない妊娠も含まれるため、現在では「異所性妊娠」という言葉が使われています。

通常の妊娠と異所性妊娠、そもそも何が違うの?

受精は通常、卵管膨大部(卵巣近くにある膨らんだ部分)で起こり、受精卵が子宮に向かって分裂しながら移動していきます。やがて子宮にたどり着き、厚くなった子宮内膜(赤ちゃんのベッドになる所)に着床する、というのが本来の流れです。
ここで、受精卵が本来あるべき子宮内膜以外の場所に着床してしまうのが異所性妊娠です。子宮内の妊娠であれば胎児は出産まで育つことができますが、異所性妊娠の場合は胎児は発育することができず、狭い場所で胎児が育ってしまうと、前述のように破裂するとお腹の中で大出血を起こし、お母さんの命も危なくなってしまいます。
異所性妊娠は全妊娠の1〜2%に過ぎませんが、受精卵が着床する「場所」が異なると、異所性妊娠では赤ちゃんが育たないうえに母体も危険にさらされてしまうのです。

「異所」ってどこ?着床部位の種類(卵管・卵巣・腹膜・頸管)

異所性妊娠の着床の場所は卵管妊娠がほとんどで、その割合は98%を占めています。なかでも、卵管のふくらんだ部分(膨大部)に多く起こります。その他以下の図のように、卵巣、子宮頸管(子宮の入り口)や、帝王切開の傷跡に着床する、腹腔(お腹の中)に排出される、などがありますが、こうした場所の妊娠はかなりレアケースで、見つけたり治療したりするのが難しいと言われています。
卵管妊娠が圧倒的に多い理由は、卵管の構造と機能に関係しています。卵管は受精卵を子宮まで運ぶ役割を担っていますが、卵管の炎症や狭窄(すぼまって狭いこと)により受精卵の移動が阻害されると、卵管内で着床してしまうのです。臨床の現場では、着床の部位によって症状の現れ方や治療方針が異なるため、正確な診断が重要になります。

 

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子宮内以外の色々なところに着床してしまう異所性妊娠。

異所性妊娠の原因とリスク因子

異所性妊娠が起こる背景には、卵管の異常や癒着、性感染症の既往、不妊治療歴、さらには喫煙や加齢といった生活要因まで、さまざまなリスクが関与しています。
ここでひとつお伝えしておきたいのは、お父さんやお母さんのせいではまったくない、ということ。異所性妊娠はたまたま起こることで、心がけや何かの行動によって左右されることはありません。ここで原因について触れるのは、妊活中の人やこれから妊娠を考えようという方が適切に医療にアクセスし、治療して妊活を開始できるのを願ってのことです。

異所性妊娠が起こる主な原因は、卵管がうまく機能していないことです。卵管が癒着などが原因で詰まったり、炎症が起こったりすると、受精卵がうまく子宮に運ばれなくなり、異所性妊娠のリスクが高くなります。

卵管の病気や手術歴

過去に卵管の病気や手術(例:卵管炎、骨盤内炎症性疾患、卵管手術など)をしたことがあると、卵管が狭くなったり、癒着が起こったりします。そのため、子宮に向かって卵管内を移動する受精卵の邪魔をしてしまい、途中で止まってしまう可能性があります。

子宮内膜症・性感染症の既往

子宮内膜症という病気や卵巣チョコレート嚢胞も卵管の周辺の癒着を招き、性感染症(クラミジアや淋菌など)も原因になります。卵管やその周囲が炎症でくっついてしまい、受精卵がうまく運ばれないことがあります。

不妊治療

体外受精(人工的に受精させて子宮に戻す不妊治療)をすると、まれに卵管に受精卵が逆流して着床することがあります。喫煙や35歳以上での妊娠も、卵管の動きを弱めて異所性妊娠のリスクを高めます。

IUDの装着、人工妊娠中絶の既往

子宮内の炎症やミレーナなどのIUDによって子宮内環境が変化し、子宮内の着床が阻害されることによって異所性妊娠につながることがあります。
子宮内膜症やクラミジアなどの感染症は、適切に把握して治療を受けておくことで癒着を予防することが大切です。

異所性妊娠の主な症状とは?

初期にみられる症状(下腹部痛・不正出血)

妊娠初期(5~7週)に、お腹の片側に鈍い痛みを感じたり、少量の出血が始まりのサインになります。異所性妊娠であっても、妊娠していることには変わりなく、正常妊娠とおなじように少量の出血やつわりなどの初期症状があります。
妊娠だと思った人は、ただのつわりと思ってしまい、逆に妊娠に気づいていない人は、月経が遅れているだけと勘違いしてしまい、病院に行くのが遅くなってしまうことがあるので、妊娠初期にこのような可能性があることを知っておくことがとても重要になります。

痛みの特徴と経過

最初は鈍い痛みでも、徐々に強くなったり、規則的に訪れるようになります。歩いたりトイレに行ったりするだけでも痛くなることがあります。突然痛みが強くなった場合は、卵管が破裂する危険なサインかもしれません。

もし破裂するとどうなるの?

卵管が破裂すると、急に激しい痛みや肩・背中の痛み、吐き気、めまいや気を失うほどの症状が現れ、すぐに手術が必要になります。
血管も破れて、大量の血液が腹腔(おなかの中)に流れ込みます。体の外に出るわけではないので、最初は見た目にはわかりませんが、1リットル以上の大出血が短時間で起きることもあります。
血液がたくさん失われると、体は酸素を全身に送ることができなくなります。この状態を「出血性ショック」と言い、命に関わるため、救急処置が必要です。

異所性妊娠はどうやってわかる?

異所性妊娠を診断するためには、以下のような検査を行います。

妊娠検査薬(尿検査):妊娠の有無を確認

正常妊娠と同じように、尿中の妊娠ホルモンの検出によって妊娠反応を確認します。この検査では、正常かどうかはわかりません。妊娠検査薬やタイミングについては、こちらの記事でも詳しく解説していますので、合わせてどうぞ。

経腟超音波検査(エコー):子宮内に胎嚢があるか?

正常妊娠であれば、妊娠5〜6週で子宮腔内に胎嚢(赤ちゃんの袋)が見え始めます。腟の中に細い器具を入れて胎嚢が子宮内にあるかを確認します。
正常な妊娠においても、排卵や受精のタイミングに多少のズレはあり、生理の開始日を基準に予測した予定日から修正が入ることはよくあることなので、過度に心配する必要はありません。
ただ、明らかに6週を超えても胎嚢が見えてこない場合、流産や異所性妊娠が疑われ、これらを判断する必要があります。エコーの所見で、子宮の周辺部位に不均一な腫瘤が見えたりするようであれば、異所性妊娠を疑います。

血液検査(hCG検査):妊娠ホルモンの値を測定

妊娠中に出るホルモン(hCG)を血液検査で調べます。正常な妊娠では一定の割合で増えていきますが、異所性妊娠の場合はゆっくりとしか増えなかったり、止まったりするため、これらの兆候がないかどうかを、48時間おきに調べます。

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photo: PIXTA

異所性妊娠は治療できる?

異所性妊娠が起こってしまった場合、残念ですが赤ちゃんは生まれてくることができません。治療には、大きく分けて内服薬による保存的治療と手術療法があり、症状の進行度合いや本人の今後の妊娠希望に応じて方針が変わってきます。ここでは、それぞれの治療法について具体的に紹介します。
異所性妊娠の治療においては、それぞれの治療の適応が厳格に決められています。患者さんがこの方法が良いなぁ、と思っても、現状の進行度合いや検査の数値などによって選択肢が限られることがあるため、その点は理解しておきましょう。

待機療法(経過観察)

母体の全身状態が安定しており、少量の出血に伴ってhCGが下がっている場合には、経過観察で済むこともあります。ただし、これは自己判断で様子を見ても良いという意味ではなく、慎重に観察をしながらであれば経過観察でよい、と医師が判断したときに選択されるものです。超音波検査や血液検査を継続的に行い、問題がないことを確認しながらの「待機療法」ですので、誤解しないようにしましょう。

メトトレキサート(MTX)療法

母体の全身状態が安定していて、破裂が起こっていない場合には、妊娠組織の成長を止める薬を注射で投与する方法が使われます。メトトレキサートは、もともと抗がん剤として開発された薬剤ですが、葉酸代謝を阻害することで細胞分裂を抑制し、異所性妊娠組織の増殖をとめます。
ワクチンのようにお母さんが注射を受ける方法と、エコー検査をしながら妊娠組織に直接注射する方法があります。
患者さんの全身状態が良好で胎児の心拍がないこと、異所性妊娠組織のサイズや血液検査で測るhCG値の数値など、MTX療法の適応条件は厳格に決められています。
治療中は定期的に通院して血液検査でhCGの値を測定し、順調に下降しているかを確認するなどのフォローが必要で、成長がとまった組織は、小さくなって吸収されるか、通常の生理のように少量の出血を伴いながら少しずつ体外に出ていきます。

腹腔鏡手術(要入院)

腹腔鏡手術は、お腹に小さな穴を数か所開けて、カメラと器具を入れて行う手術を行い、異所性妊娠組織を取り除く方法です。モニターでお腹の中を映しながら、出血している場所を見つけて止血したり、破れた卵管などの異常な部分を取り除いたりします。
卵管を切除する場合もありますが、その後の妊娠を望む場合、できるだけ温存する方法が選ばれます。ただし、術後の卵管機能は完全に回復するとは限らないため、次回妊娠時にも異所性妊娠の可能性があることは念頭においておく必要があります。

手術ではどんなことをするの?

異所性妊娠の手術にはいくつかの方法があります。胎嚢をピンセットのような器具(鉗子といいます)で卵管から絞り出して排出する方法(卵管圧出術)、卵管の管の部分を切開して中に入っている胎嚢を取り出す方法(卵管線状切開術)、卵管ごと妊娠部位を切りとってしまう方法(卵管切除術)などがあります。
卵管を切ってしまうのは確実な方法ではありますが、切り取った側の卵管では妊娠できなくなってしまうので、今後の妊娠可能性を残すことはできなくなります。

緊急事態になったときの対応は?

万が一、破裂を起こして大量出血による出血生ショックに陥った場合は、お腹をあけて開腹術と同時に輸血・大量輸液が不可欠で、術後には貧血管理とhCG陰性化までの外来フォローが続きます。

治療後の入院期間はどれくらいになるの?

手術を行った場合には、術後もhCG値の推移を確認したり、腹部症状の変化をみたり、創部(傷あと)の治癒状況をチェックしていきます。

入院期間のだいたいの目安は以下のようになります(個人差があり、経過によって異なります)。
MTX療法:外来治療が基本で、入院する場合は通常1〜2日程度
腹腔鏡手術:術後2〜4日程度の入院
緊急手術:5〜7日程度の入院(出血量や全身状態により変動します)
開腹手術:7〜10日程度の入院

退院後も定期的な外来通院が必要で、血中hCG値が陰性になるまで(通常4〜8週間)継続的な経過観察が行われます。この期間中は妊娠を避ける必要があるので、妊娠を希望する場合には、次回妊娠へ向けた準備についても経過をみながら医師と相談していきます。

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photo: PIXTA

まとめ

異所性妊娠は、通常の妊娠とは異なり、赤ちゃんが本来の場所である子宮以外に着床してしまうことをいいますが、実はとても危険な状態に至るリスクがあります。
そうなる前の早期発見と治療がとても重要で、下腹部痛や不正出血といった初期症状を見逃さないようにすること、妊娠がわかった段階で産婦人科にかかり、正常妊娠を確認しておくことはとても重要なのです。

後編では、この異所性妊娠を防ぐための方法や再発予防について掘り下げるほか、実際に異所性妊娠を経験した方のインタビューを通じて、経験談や心理面でのケアについても触れていきます。

 

【参考文献】
病気がみえる 産科 第3版 メディックメディア,2022
産婦人科 診療ガイドライン 2023,日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会
今日の臨床サポート|異所性妊娠,エルゼビア

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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