
男性産婦人科医・重見大介の提言 #03
急いで受診してほしい救急疾患 〜婦人科編〜
月経痛や下腹部の違和感は、忙しい日常の中でつい我慢しがちですが、放置すると重症化したり、将来の妊娠に影響したりすることもあります。
本記事では、婦人科の疾患を対象に、特に早期受診が大事な「過多月経」「卵巣捻転」「卵巣出血」「骨盤内炎症性疾患」について、よくある症状と受診の目安をわかりやすく解説します。
少しでも「いつもと違う」と感じたら、ぜひ遠慮せず産婦人科を受診してくださいね。
(1) 過多月経:「量が多いだけ」と放置しないで
経血量が1周期あたり約140mL以上と推定される場合、医学的には「過多月経」と診断されます。標準的なサイズのコーヒーカップの容量が、だいたい140mlとなります。
日頃から多めの出血が続いていると慢性的な貧血や日常生活への支障が生じるだけでなく、子宮筋腫や子宮腺筋症など隠れた病気が背景にあることも少なくありません。
こんなサインがあれば早めに婦人科へ
●夜用ナプキンが1時間ももたず、血液がしみ出してしまう
●直径1〜2cm以上の血の塊が出てくる
●めまい・動悸・息切れ・疲れやすさなど貧血症状がある
●普段より月経期間が長い、または不正出血が何日も続く
これらは「単なる体質」ではなく、器質的疾患(子宮筋腫や子宮腺筋症など)やホルモン分泌異常、血液凝固異常(血液が固まりにくい状態)が隠れているサインの可能性があります。貧血が重症化する前に、早めに病院で相談しましょう。
受診後に行う主な検査と治療の流れ
1. 問診・血液検査
ヘモグロビン値などで貧血の状況を確認し、懸念があれば凝固異常も評価します。
2. 内診
出血が腟や子宮頸部から出てきてないか、子宮が腫れていないかなどを確認します。
3. 画像検査(経腟エコーなど)
子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなどの有無をチェックします。
4. 治療の選択肢
薬物療法
鉄剤(服薬や点滴)、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS [製品名:ミレーナ])、低用量ピル、トラネキサム酸(止血剤)など
手術療法
子宮鏡下内膜ポリープ切除、子宮内膜アブレーション、子宮全摘術など(症状・年齢・挙児希望によって個別に検討します)
*なお、若年者や性交経験のない女性では、内診や経腟エコーは実施しないことも可能ですので、医師に気兼ねなくご相談ください。
セルフチェックのポイント
●ナプキンの交換回数を記録し、出血が「生活に支障が出るレベル」かを把握
●めまいや疲労感の出現時期と月経との関連をメモしておく
●アプリ等で月経期間と量を定期的にメモして異常かどうかを確認

(2) 卵巣捻転(らんそうねんてん):突然の腹痛は卵巣からのSOSかも
卵巣は骨盤内に左右2つ存在します。骨盤の壁に固定されていないので、実は普段から”ぶらぶら”しています。何かの拍子に茎(靱帯)ごとクルッとねじれると、卵巣への血流が遮断され数時間で壊死が始まる緊急事態となることがあります。
将来の妊孕性(妊娠できる可能性)を守るには「激しい痛みの発生からできるだけ早期(できれば6時間以内)の手術」が鍵です。
こんなサインがあれば早めに婦人科へ
●片側の下腹部に突然生じた鋭い痛み(波のように強まったり弱まったりすることも)で、鎮痛剤が全然効かない
●吐き気・嘔吐、冷や汗、立っていられないほどの倦怠感
●38 ℃前後の微熱や頻脈を伴うことも
リスクファクター
●卵巣の嚢胞・良性腫瘍がある(特に直径4cmを超えるようなもの)
●妊娠初期(黄体嚢胞が大きくなるため)
●排卵誘発剤など生殖補助医療を受けている
●過去に卵巣捻転を起こしたことがある(その際に卵巣摘出していない場合)
治療の流れ
緊急手術
治療法は基本的に手術しかありません。開腹または腹腔鏡でお腹の中をチェックし、卵巣の根本のねじれを戻して血流を再開させ、壊死の進行具合を評価します。卵巣の見た目が紫色になっていても、元に戻せば卵巣機能が回復するケースは多く、手術中の状況で卵巣を摘出するかどうかを判断します。最近では、腹腔鏡での手術が多くなっています。
再発予防
卵巣嚢胞・腫瘍などの発生・再発がないかをチェックしますが、完全な予防策は確立されていません。
覚えておきたいセルフメモ
●突然の片側の激しい下腹部痛は卵巣捻転を疑うサイン
●痛みの時間・強さ・吐き気の有無をできるだけメモし、救急車や救急外来で伝える
●排卵誘発中や妊娠初期は特に注意し、軽めの痛みでも医師に相談する方が安心
(3) 卵巣出血:知らぬ間に骨盤内の多量出血も
卵巣出血の多くは、排卵後にできた黄体が破れて出血するもので、多量の場合には腹腔内に血液が溜まってショック状態になってしまうことも。通常は少量だけの出血で自然止血しますが、出血量が多いと短時間で重症化することもあるため危険な疾患です。
こんなサインがあれば早めに婦人科へ
●突然起こる片側の強い下腹部痛:排卵期・黄体期(月経後1〜2週間あたり)に起こりやすい。激しい運動や性行為がきっかけになることも。
●冷や汗・吐き気・めまい:出血性ショック状態の前兆
●肩や背中への放散痛:腹腔内出血が溜まってきて横隔膜を刺激することで生じる痛み
診断の流れ
1. 妊娠検査薬などで異所性妊娠を除外
2. 経腟エコー検査で卵巣嚢胞や骨盤内の液体貯留を確認
3. 必要に応じてCT/MRI、血液検査で出血量を推定
治療のポイント
循環動態が安定している場合
基本的に入院下で安静、点滴、鎮痛・止血薬、貧血に応じて輸血など
ショックまたは重症貧血
手術で出血部を同定・止血
再発防止
低用量ピルにより排卵を抑えることも検討
セルフチェック&予防
●排卵期の激しい運動や性交後の腹痛に注意
●月経アプリ等を参考にして排卵期かどうか医師へ伝える
●貧血症状(動悸・息切れ・めまい)が続くなら早期に受診する
(4) 骨盤内炎症性疾患:「下腹部の痛み+発熱」は迷わず受診を
骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease: PID)は、主に腟や子宮頸部からの感染症(クラミジア・淋菌など)が子宮・卵管・卵巣にまで広がった疾患です。一部、感染が原因ではない炎症が原因の場合もあります(子宮内膜症など)。
基本的に、発症から48〜72時間以内に適切な抗菌薬の投与を始めないと治療に時間がかかりますし、将来的な悪影響(卵管閉塞による不妊や異所性妊娠)のリスクがかなり高まってしまう点も要注意です。
こんなサインがあれば早めに婦人科へ
●38 ℃前後の発熱と持続する下腹部痛
●性交痛や歩行時に響く下腹部の痛み
●黄緑色や悪臭を伴う帯下(おりもの)の増加
診断の流れ
1. 内診・超音波検査:子宮・卵管周囲の腫れ(膿の塊)や痛みをチェック
2. 血液検査・腟培養検査:白血球数、CRP値などを確認。おりものを採取して病原菌を同定。
3. 性感染症検査:クラミジア・淋菌検査も同時に行うことが多い。
治療のポイント
軽症の場合
外来で治療。抗菌薬(腟剤やない服薬)を2週間程度しっかり使う。
中等症以上の場合
入院で治療。抗菌薬(主に点滴)を2週間程度しっかり使う。抗菌薬が効かない場合や、骨盤内に膿が形成されている場合は手術(病巣の切除と骨盤内の洗浄)を検討。
(状況次第で)パートナーも同時に治療し再感染を防止しましょう。
セルフケアと予防
●性交時にコンドームを使うことで性感染症を予防。新しいパートナーができたらお互いに性感染症検査を受ける。
●子宮内避妊具やミレーナを使用していると骨盤内炎症性疾患の発症リスクが少し上がるため、心配な症状があればかかりつけ医に相談を。
●「下腹部痛+発熱」を「風邪や胃腸炎」と安易に判断しないように。
重見大介
産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。