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ドラマ『ファーストクライ』解説シリーズ #6 「卵子提供」

卵子提供ってどんなもの?産婦人科医が解説

カテゴリー:妊活

細胞

「卵子提供」は、自分の卵子では妊娠が難しい人にとって、子どもをもつ可能性を広げる医療技術・手段です。

一方で、通常の体外受精とは異なり、提供する人、治療を受ける人、生まれる子どもの三者に深く関わるものになります。仕組みや成功率だけでなく、安全性、遺伝的なつながり、子どもの出自まで考えることが必要ですし、これらを理解して選択することが大切です。

今回は、医療監修として携わっている医師の目線で、2026年7月期のドラマ『ファーストクライ 母子救命救急班』の第2話にも登場する「卵子提供」について解説します。

卵子提供とはどんなもの?

卵子の入ったスピッツをピンセットで運ぶイラスト
Photo:PIXTA

まずはどのような行為なのかを簡単に説明しましょう。

卵子提供とは、第三者から提供された卵子を、パートナーまたは第三者の精子と体外で受精させ、育った胚(受精卵)を本人の子宮に移植する妊娠方法です。

妊娠・出産するのは卵子を受け取った人ですが、卵子由来の遺伝情報は提供者から受け継がれます。パートナーの精子を使えば、パートナーとは遺伝的につながります。

別の人が妊娠・出産する「代理出産」とは異なります。また、自分の卵子を将来のために保存する「卵子凍結」とも異なるものです。

なお日本の法律では、他人の卵子で妊娠した場合も、出産した女性が法律上の母と定められています。(生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律 第9条)

どのような場合に検討される?

お腹に注射を打つ女性と様々な不妊治療法のイラスト
Photo:PIXTA

卵子提供の主な対象は、

・早発卵巣不全(そうはつらんそうふぜん:40歳未満で卵巣の機能が低下し、排卵や月経が起こりにくくなる状態)
・卵巣の摘出後などで卵子が得られない場合
・体外受精を繰り返しても卵子に原因があり妊娠・出産の可能性が極めて低いと判断される場合
・重い遺伝性疾患を子どもへ引き継がせたくない場合

などです。海外では、加齢に伴う卵子の減少や質の低下を理由に利用されることもあります。

ただ、日本の「精子又は卵子の提供による体外受精に関するJISARTガイドライン」(令和7 年2月に一部改訂)は、加齢だけを理由とする利用を対象とせず、法律上の夫婦であることや、治療を受ける女性は47歳以下を目安とすることなどを定めています。なお、これは国の法律というわけではなく団体独自の実施基準です。国による公的な定めはありません。

*JISART(日本生殖補助医療標準化機関)は、日本の高度不妊治療(生殖補助医療)の品質と安全性を守るために作られた医療機関の民間ネットワークで、生殖医療の品質管理組織として、特定の審査基準をクリアした医療機関を認定しています(2026年7月12日現在、全国28施設が加盟)。

卵子提供はどのような手順で進む?

STEPとマジックで書かれた文字
Photo:PIXTA

まず、治療を受ける人と卵子提供者の健康状態、感染症、遺伝性疾患に関する本人・家族の病歴などを確認し、双方が医学的説明と心理カウンセリングを受けます。

卵子提供者は排卵誘発剤で複数の卵胞を育て、必要となる超音波検査や採血検査を実施後、腟から卵巣に針を刺して採卵します。卵子を精子と体外で受精させて培養し、受け取る人はエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモン剤を用いて体内環境を整え、受精卵(胚)を子宮へ戻します。凍結保存された卵子を使う場合もあります。

成功率は何で決まる?

星5つとスマイリーマーク
Photo:PIXTA

卵子提供による妊娠・出産の成功率は、治療を受ける人の年齢より、主に卵子提供者の年齢と卵子・胚の状態に大きく左右されます。そのため、自分の卵子による治療が難しい年齢でも出産できる可能性が高まることがありますが、妊娠や出産が保証されるわけではありません。

なお、成績を見るときは「妊娠率」だけでなく「生児獲得率」も確認しましょう。妊娠しても流産してしまうと結局お子さんは得られませんので、「生児獲得率」が最終的な目的達成率を意味することになります。

また、胚移植1回当たりか治療開始1回当たりか、複数回を合計した累積成績かによっても数値は変わります。新鮮卵子か凍結卵子か、提供者の年齢、単一胚移植かどうか、なども治療成績に関わる重要な要素です。

提供する人と妊娠する人、それぞれにリスクがある

「RISK」と書かれた積み木
Photo:PIXTA

リスクを知っておくことも大切です。

卵子提供者には、注射や頻回の通院に加え、卵巣過剰刺激症候群(排卵誘発剤の使用により卵巣が腫れ、お腹に水がたまるなどの症状を引き起こす合併症。OHSSと呼ばれます)、採卵時の出血・感染、麻酔に伴う合併症などの可能性があります。提供が本当に自由意思によるものか、家族内の圧力や金銭的な誘因がないかへの配慮も欠かせません。

提供される側の人にはホルモン剤の副作用が出る可能性や、妊娠後は通常の体外受精と同様に異所性妊娠や多胎妊娠などに注意が必要です。さらに、提供卵子による妊娠では、自分の卵子による妊娠より妊娠高血圧症候群、特に妊娠高血圧腎症という重症型のリスクが高いことが報告されています(文献1)。

年齢が高い場合は、高血圧、糖尿病、心血管系の状態などを妊娠前に評価し、原則として一つの胚を移植して多胎(双子や三つ子)を避けることが医学的には大切です。提供者の検査により感染症や遺伝性疾患の可能性は一定減らせますが、全ての病気や先天異常を予測・予防できるわけではないことは覚えておきましょう。

日本ではどのように行われているの?

不妊治療に使用される様々な薬剤や器具のイラスト
Photo:PIXTA

日本では実施施設と提供者が限られており、第三者の卵子を使う治療は公的医療保険の対象外です。よって、費用も決まったものがありません。国内で実施する場合は、おおむね150万〜200万円程度かと思われます。

日本でもこれまで実施体制について議論がされてきましたが、実施施設の規制、提供者情報の公的管理、子どもの「出自を知る権利」までを包括する制度は、2026年7月現在も成立していません

2025年に提出された「特定生殖補助医療に関する法律案」は、第三者の精子や卵子を提供する生殖補助医療のルールを定めるために提出された法案ですが、対象を法律婚の夫婦に限定するなどの点に強い批判や懸念が上がり、現在では審議未了のままとなっています。

JISARTでは、倫理審査、専門的なカウンセリング、3カ月の熟慮期間、実費などを除く対価の禁止などを定めています。さらに、子どもには幼少期から卵子提供で生まれたことを伝え、15歳以降は提供者を特定できる情報を求められる仕組みを採用しています。ただし、これはJISARTの独自ルールであり、国内外におけるスタンダードというわけではありません。

実際には、もっと柔軟に卵子提供を受けられる海外の国や地域もあるので、そういったところで治療を受ける人もいます。

選ぶ前に、知っておきたいこと

本記事では卵子提供の概要を説明しました。

卵子提供を考えるときには、自分の卵子での妊娠を諦めること、卵子提供者との今後の関係、子どもへの伝え方、将来子どもが卵子提供者を知りたいと望んだ場合の対応、費用や成功率まできちんと調べ、話し合う必要があります。

親子関係は遺伝だけで決まるものではありませんが、遺伝的事実をなかったことにすることもできませんからね。

ドラマ「ファーストクライ」第2話では、「不妊治療を続けるセレブ女性が、ハイリスクな卵子提供による出産を希望して」というストーリーが登場します。ドラマを最大限楽しむために、本記事がお役に立てばうれしいです。

参考文献
英国HFEA. Risks of fertility treatment.

 

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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