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男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #23

性と生殖に関して自身と相手を守るために 〜包括的な教育解説シリーズ(8)〜

 

女子生徒に対し生殖や恋愛の教育をする男性医師

子どもが安心して成長するためには、知識だけでなく「人との関わり方」を学ぶ機会が欠かせません。とくに思春期は、友人関係・恋愛・SNS利用などが一気に広がり、うれしい経験もあれば、誤解やトラブル、傷つくことも起こりやすい時期です。
そして、反抗期が重なってくる時期にもなります。

だからこそ家庭では、「正解」を教え込むよりも、気持ちの尊重・安全を守る・相談できる関係性などを日常の中で育むことが、将来のリスク予防にもつながるはずです。

本シリーズ記事では、今の時代に求められる包括的な性教育について、「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに分かりやすく解説していきます。

(編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます)

本ガイダンスには、8つのキーコンセプトが含まれ、いずれも思春期に学び、考えるべきものになっています。

今回は、「キーコンセプト8:性と生殖に関する健康」です。
 

どのような内容か

「性と生殖に関する健康」として、主に妊娠、避妊、性感染症を扱う内容となっています。
妊娠・避妊と性感染症は、別々の知識に見えますが、実際の意思決定の場面では同時に起こり得るものです。だからこそ、キーコンセプト8は「妊娠(避妊)」と「性感染症」を同じ「健康に直結する要素」として捉え、リスク低減を優先して考える必要性を示しています。

家庭での会話も、「妊娠だけ」「性行為で移る病気だけ」と切り分けるより、自分と相手の健康を守るための選択として整理すると、子どもにとって理解しやすくなるはずです。

さらに、偏見やからかいがあると、相談・検査・治療へのアクセスが遠のきます。知識と同じくらい、家庭の雰囲気や親子の関係性が大事になります。

キーコンセプト8は、

8.1  妊娠・避妊
8.2  HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とAIDS(後天性免疫不全症候群)のスティグマ、治療、ケア、サポート
8.3  HIVを含む性感染症リスクの理解・認識・低減

の3トピックで構成されています。

これらの内容を家庭で扱う目的は、子どもを管理することでも、行動を急がせることでもありません。
子どもが将来どんな場面に出会っても、意図しない妊娠やHIVを含む性感染症を防ぐために、リスクを低減する方法を優先して考えられるようにすることが、性教育における「健康教育」の中心に据えられています。

男の子と女の子に性教育をする先生のイラスト
Photo:PIXTA

① 妊娠と避妊:自分で選び、対等な関係を

妊娠は、排卵・受精・着床というプロセスの上に成立します。この基本を理解しないと、「いつ」「どんな状況で」「何を選ぶと健康を守りやすいか」を考えにくく、ひいては適切な知識や行動を身につけることができにくくなってしまうでしょう。

避妊を家庭で扱うとき、いちばん避けたいのは「責任論」を第一に伝えてしまうことです。本人を責める言い方は、子どもを黙らせ、困ったときに相談できなくしなってしまいます。
例えば、以下のようなニュースを見た際にも、「この子が悪いね、こんな風になっちゃダメだよ」と親が話してしまうことはぜひ避けていただきたいところです。
生後間もない男児の遺体を自室に遺棄した疑い、逮捕「自分が産んだ」(朝日新聞)

大切なのは、避妊を「誰かを罰するための話」ではなく、将来や健康を守るための手段として伝えること。
そして、避妊は女性だけの課題ではありません。相手がいるなら、意思決定も実行も「2人の問題」です。保護者が公平な言葉で話すことは、子どもに「対等な関係」を学ばせるためにとても重要です。

また、避妊がうまくいかなかった可能性があるときほど、早めに相談することが大切です。「叱られるかも」と思うほど、1人で抱え込み、孤立し、受診が遅れてしまいます。家庭が「どんなときでも子どもの味方である」ことが、結果的に本人の健康を守ります。

【家庭でできること】

・避妊を「道徳」ではなく「健康と将来を守る手段」として語る
・「相手がいるなら2二人の課題」ということを徹底し、性別で責任を偏らせない
・「困ったら早めに相談」を合言葉にし、叱らずに受診につなげることを優先する

天秤の左右に乗る男女
Photo:PIXTA

② HIVとAIDS:決して他人事ではない

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)はウイルス名、AIDS(後天性免疫不全症候群)はその感染によって免疫が低下した状態を指します。性行為でも感染する疾患の一つです。
かつては「致死的な病」と恐れられましたが、現在は医療の進歩により、早期発見と適切な治療で、感染前とほぼ変わらない生活を送ることが可能になってきています。

キーコンセプト8には、HIVとAIDSそのものだけでなく、スティグマ(偏見)や、治療・ケア・サポートが含まれています。
保護者として押さえたいのは、「怖さ」だけを伝えるべきではないことです。誤った認識を持ってしまうと、偏見や差別が強くなり、当事者や周囲の人が相談しにくくなり、検査や治療につながりにくくなります。

家庭でできるもっと最も効果的な予防の一つは、「人を傷つける言葉を許さないこと」です。
「エイズにかかる人は遊び人だ」「自業自得だよね」などの言葉は、子どもがもし将来、検査や相談が必要になったときに、自分を追い詰めます。もちろん、他者を傷付けることにもなります。
病気や感染を「人格」と結びつけない。これは家庭で教えられる重要な基本姿勢です。

【家庭でできること】

・HIVを「怖い病気」とだけ説明するのではなく「誰にでも起こり得るもので、正しく理解する」ことの大切さを伝える
・偏見につながる表現(からかい・侮蔑語)を家庭内でとど止め、その理由も説明する
・「検査・治療・相談は恥ずかしいことではない」と繰り返し伝え、助けを求める行動を肯定する

レッドリボンを手にもつ女性の手
Photo:PIXTA

③ 性感染症:予防と早期対応をセットで

キーコンセプト8は、HIVを含む性感染症について「リスクを理解し、認識し、低減する」ことを中心に据えています。 ここで重要なのは、予防だけでなく、万一のときに検査・治療につながることまでを含めて教えてあげることです。

ガイダンスでは「検査を受けることで、感染の有無をチェックできる」ことが述べられており、検査が「安心につながる手段」でもある点を理解してもらうことがまず重要です。
性感染症の検査は、病原体に応じた検体採取で行います。最近は保健所での無料検査や、プライバシーに配慮した郵送キットも増えてきています。

HIV・梅毒:血液検査(採血)で抗体などを調べます。
クラミジア・淋菌:男性は「初尿」、女性は腟や子宮頸部の「拭い液」を採取する方法が一般的です。のどの感染が疑われる際は、うがい液を用いることもあります。

また、思春期以降は、価値観を押しつけるのではなく、健康を守る選択肢として、具体的なリスク低減の方法を伝えておきましょう。例として、コンドームの正しい使用方法、セーファーセックス(=より安全なセックス)の概念などが挙げられています。

家庭でのコツは、「こうしなさい」と命令するより、「健康を守るためにはどんな選択肢があるか」を一緒に整理することです。子どもが自分で選べるという感覚があるほど、実際の場面で安全性の高い選択肢を取りやすくなるはずです。

*私のニュースレターでも性教育の参考になる記事を配信しています。ご興味があればぜひ読んでみてください。
「安全なセックス」ってどんなもの? 大事な5つのポイント

【家庭でできること】

・「予防だけでなく、検査・治療で守れる健康がある」と伝える
・リスク低減の選択肢(例:コンドーム、検査法)を共有しておく
・困ったときの手順を具体化する(誰に相談するか→どこで検査するか→どう受診するか)

コンドームを手渡す女性と男性の手
Photo:PIXTA

年齢別に伝えておくべき要素のまとめ

年齢別にどこまで話すかのイメージを再確認しておきましょう。

5〜8歳

・妊娠は自然な生物学的プロセスで、計画可能なもの
・HIVと共に生きる人は平等な権利を持ち、彼らを支える医療がある
・免疫システムはからだ身体を病気から守ってくれる

9〜12歳

・妊娠の一般的な兆候を理解することの重要性
・現代の避妊法は妊娠や避妊をコントロールするために有効
・HIVとAIDSは、家族構成や家族の役割、責任に影響し得る
・性感染症にかかっている人と性行為をすることで性感染症にかかる可能性があるが、そのリスクを減らすさまざまな方法がある
・HIVを含むほとんどの性感染症には検査法と治療法がある

12〜15歳

・避妊法にはそれぞれに異なる成功率、効能、副効用と注意点がある
・若すぎる出産や短すぎる出産間隔には健康上のリスクがある
・適切なケア、尊重、サポートがあれば、HIVと共に生きる人たちが差別なく豊かな人生を送ることができる
・クラミジア、淋菌、梅毒、HIV、HPVなどの性感染症は予防・治療・管理が可能

15〜18歳以上

・意図しない妊娠は誰にでも起こるもので、全ての若者がヘルスケアサービスや支援にアクセスできるべきである
・妊娠した際、養子縁組も選択肢の一つである
・健康的な妊娠のために有効な生活習慣があり、これは母親だけの責任ではない
・コミュニケーション、交渉、拒絶のスキルは、若者の望まない性的プレッシャーへの抵抗や、セーファーセックスを実行する助けになる
・コンドームや性感染症検査へのアクセス方法を知っておく

年齢はあくまでも目安で、実際はお子さんの発達状況や環境で前後します。
重要なのは、必要なタイミングで、短くても繰り返し伝える・考えてもらうこと、をぜひ覚えておいてくださいね。

以上、包括的な性教育における「キーコンセプト8:性と生殖に関する健康」について知っておきたいポイントを紹介しました。

キーコンセプト8では、妊娠・避妊、HIV/AIDS、性感染症を「性と生殖に関する健康における重要なテーマ」として統合し、意図しない妊娠やHIVを含む性感染症を防ぐために、リスク低減を優先して考えることが述べられています。

これまで8つのキーコンセプトを順に解説してきました。
ぜひ、本シリーズ記事をご家庭や学校等でご活用いただければ嬉しいです。

 

この記事は、包括的な教育解説シリーズの第8回目です。

バックナンバーはこちら
「人間関係を学ぶこと」は性教育の土台 〜包括的な教育解説シリーズ(1)〜
価値観や権利とセクシュアリティを考える 〜包括的な教育解説シリーズ(2)〜
「ジェンダー」についてどう伝えていく? 〜包括的な教育解説シリーズ(3)〜
子どもを暴力から守るために家庭ができること 〜包括的な教育解説シリーズ(4)〜
性教育で子どもに伝えたい「スキル」とは 〜包括的な教育解説シリーズ(5)〜
からだと発達についてどう伝える? 〜包括的な教育解説シリーズ(6)〜
性を「一生かかわるもの」として捉える視点 〜包括的な教育解説シリーズ(7)〜

 

参考文献
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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