ドラマ『ファーストクライ』解説シリーズ #6
妊娠中の転倒や事故、お腹の赤ちゃんに影響は?知っておきたい4つのこと
ドラマ『ファーストクライ 母子救命救急班』第9話では、妊娠中に階段から転落し、重症となってしまう妊婦さんが登場しました。ショッキングな展開に驚いた視聴者の方も多かったのではないでしょうか。
妊娠中に転んだり、お腹をぶつけたりすると、「赤ちゃんは大丈夫だろうか」と不安になります。実際には、軽い転倒などで赤ちゃんへ深刻な影響が及ぶケースは多くありません。一方で、外見上は大きなケガがなくても、きちんと診察を受けるべき状況のこともあります。
本記事では、全ての妊婦さんと周囲の方に知っておいてほしいポイントを4つに分けて解説します。
(1)妊娠週数が進むとリスクが増加する
お腹の中の赤ちゃんは、子宮の筋肉や羊水に囲まれています。妊娠初期の子宮は骨盤の内側に収まっているため、仮にお腹を軽くぶつけても、胎児が直接ケガをすることは通常ありません。
しかし、妊娠週数が進むと子宮がお腹の前方へ大きく張り出し、外からの衝撃を受けやすくなります。特に交通事故や階段からの転落など、急停止や強い圧力を伴う事故では、赤ちゃん自体に外傷(ケガ)がなくても、胎盤が子宮にくっついている部分に「ずれる力」が加わることがあります。
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注意したい代表的な合併症が「常位胎盤早期剝離」(じょういたいばんそうきはくり)です。これは、胎盤の一部または全部が子宮から剝がれてしまう状態で、胎児への酸素供給ができなくなる可能性があり、救急疾患の一つです。このほかにも、子宮への衝撃によって破水、子宮収縮、早産、子宮破裂などが起こることもあります。
妊娠中は体重や重心、姿勢、歩き方が変化するため、転倒リスクが徐々に高まっていきます。海外の約4,000人を対象とした調査では、およそ3人に1人の女性が、妊娠中に少なくとも一度は転倒したと回答しています。(文献1)
※常位胎盤早期剝離についての詳しい解説はこちら。
【医師解説】話題のドラマにも登場する、「常位胎盤早期剥離」とは?
(2)妊娠中の転倒や事故は、無症状でも医療機関に連絡するべき
妊娠中に転倒・転落をしたり、事故にあったりした直後は、まず安全な場所で座るか横になり、呼吸や意識の状態、出血があるか、痛みの有無や部位を確認してください。あわてて立ち上がると、めまいなどで再び転倒することがあります。
次のような場合は、速やかな受診が必要です。
・意識を失った、息苦しい、立てない、頭や首、胸を強く打った
・強い、または持続する腹痛や腰痛がある
・性器出血がある
・お腹が規則的に張る、硬い状態が続く
・水のような液体が流れ、破水が疑われる
・普段感じていた胎動が明らかに少ない、または感じない
・交通事故、階段からの転落、高所からの転落、腹部への強い衝撃などがあった
交通事故など大きな衝撃が加わりやすいトラブルでは、直後に症状がなくても医療機関での評価が必要です。また、胎盤早期剝離では出血が子宮内にたまり、性器出血が目立たないこともあります。「血が出ていないから大丈夫」とは限りません。
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手や膝をついた程度の軽い転倒で、お腹を打っておらず、痛みや出血などもない場合は、必ずしも救急受診が必要とは限りません。ただし、不安な場合は自己判断とせず、できれば当日中にかかりつけの産科へ連絡し、妊娠週数、転倒などをした時刻と状況、打った場所、現在の症状を伝えてください。
なお、妊娠●週未満なら安全、●週以降なら危険、という妊娠週数の目安・ラインがあるわけではありません。
(3)妊娠中でもCTなど必要な検査は受けるべき
妊娠中に転倒・転落や事故にあった際には、まず医療者は妊婦さん自身の呼吸や血圧、出血、骨折や内臓の損傷などがないかをチェックします。妊婦さんの全身状態を安定させることが、赤ちゃんを守るうえでも、もっとも重要だからです。
妊娠週数に応じて、超音波検査、胎児心拍の確認、子宮収縮のモニタリング、血液検査などが行われます。胎児心拍を連続して確認できる週数では、受傷後少なくとも4~6時間の経過観察が推奨されており、腹痛、出血、頻回の子宮収縮、胎児心拍の異常などがあれば、より長い経過観察や入院が必要になります。
なお、超音波検査で明らかな異常が見つからなくても、胎盤早期剝離を完全には否定できません。そのため、症状や胎児心拍、子宮収縮を一定時間かけてチェックすることが必要なのです。
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また、妊婦さんの重大なケガや出血(脳内出血、肝臓や脾臓などからの出血など)などが疑われる場合には、妊娠中でもX線検査(レントゲン)やCT検査が必要になることがあります。妊娠中には放射線検査をできるだけ避けるほうがよいのは確かですが、必要な検査を避けて診断や治療が遅れるほうが危険であるため、そのときの状況によって利益とリスクを検討し判断します。
ちなみに、撮影範囲に子宮が含まれない頭部CTや胸部CTでは、胎児被ばくはほとんどないとされています。また、一度の腹部骨盤CT撮影であれば胎児への影響はほとんどないとも考えられています。(文献2)
ほかに、血液型がRhD陰性(赤血球の表面にD抗原がない血液型。いわゆる「Rhマイナス」)の場合には、外傷によって母体と胎児の間で血液が移行した可能性を考え、抗D人免疫グロブリンという薬の投与が必要かどうかも検討されます。
(4)日常の小さな工夫でリスクを減らそう
妊娠中の転倒は、滑りやすい床、急いで歩く、荷物を持って足元が見えにくくなる、などでリスクが高まります。働く妊婦さんを対象とした研究(文献3)も参考に、次のような対策を意識してみましょう。
・滑りにくく、かかとの低い靴を選ぶ
・階段では手すりを使い、急がない
・濡れた床、暗い場所、段差に注意する
・大きな荷物や上の子どもを抱え、足元が見えないまま歩かない
・脚立や不安定な台に乗る作業は周囲に頼る
・めまい、動悸、息切れがあるときは無理に移動しない
車に乗る際は、妊娠中もシートベルトを正しく着用しましょう。腰ベルトはお腹の膨らみを避けて骨盤の低い位置に、肩ベルトは胸の間を通してお腹の横へかけます。肩ベルトを背中側や腕の下へ回したり、腰ベルトだけを使用したりしてはいけません。エアバッグがある車でも、シートベルトは必要です。
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正しいシートベルトの使用は、事故時の妊婦さんの重症化と赤ちゃんの命を守る上でとても重要です。
まとめ:妊婦さん本人だけでなく、周囲の人も知っておいてほしい
本記事では、妊娠中の転倒や事故について、知っておいてほしい4つのことを解説しました。
妊婦さんご自身はもちろん、パートナーやご家族、そして同僚や上司の方にも、不慮の事故を防ぐためぜひ知っておいていただきたい内容です。暑い季節には熱中症のリスクもありますし、寒い時期には雪などで転倒や事故のリスクが高まります。どうぞご注意くださいね。
参考文献
Dunning K, et al. Matern Child Health J. 2010 Sep;14(5):720-725.
日本医学放射線学会. ①FQ 妊娠中のCT・MRIは胎児に影響を及ぼすか?
Dunning K, et al. Am J Ind Med. 2003 Dec;44(6):664-72.
















