
crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #17
ガーナでの若年妊娠を減らす取り組みの実際
【ジョイセフコラボ企画 第1回】
crumiiでは、SRHR実現のために国内外でさまざまな取り組みをされている国際協力NGOジョイセフとコラボレーションし、日本や世界にあるSRHRの課題と支援や啓発などの活動について、ニュースピックアップの枠でお伝えしていこうと思います。
第1回はcrumii編集長の宋美玄が、ジョイセフのガーナ視察に参加したレポートと学びについてお伝えします。ジョイセフはいくつかのアフリカの国で支援プロジェクトを進行中で、今回はガーナの首都アクラから車で2時間くらいのイースタン州というところで行っているプロジェクトをいくつか視察させていただきました。
“カップラーメンと同じ値段”で売春せざるを得ない女性たち
そのプロジェクトの主な目的は若年妊娠を減らすことで、赴いたアッパー・マニャ・クロボという地域はガーナの中でも特に若年妊娠の多いエリアでした。全妊娠の約2割が10代の妊娠とのことです。
ガーナの中でも産業が少なく、カカオも育たない地域で、不便なエリアのため教育関係者や医療従事者に継続的に勤務してもらうのが難しく、学校に通い続けたり、就労のためのスキルを身に付けたりするのも困難な若者が多いとのことでした。
首都アクラは整った都会で何でも手に入りそうでしたが、アッパー・マニャ・クロボは輸送手段や冷蔵設備が非常に限定的なため、手に入る食べ物の種類が少なく、暑さも相まって視察開始から数日で体調を崩しました。(視察は完遂しました!)
貧しさがベースにあるため、10代の女性たちが性的な関係をもつのは同世代の男性よりも、上の世代の男性に少額のお金という対価をもらって関係をもつことの方が多いとのことでした。ほんのカップラーメン一つが買えるくらいのお金のためにセックスをする若い女性が少なくなく、親もそれを必要悪として推奨しているということも珍しくないそうです。

4人の若年妊娠経験者にインタビュー
視察では、実際に10代で妊娠した方やすでに出産した方4人にお話を伺うことができました。
ジャネットさん(仮名)
(17歳・第一子出産後10ヶ月)

ジャネットさんは17歳で出産し、高校を中退しました。パートナーは年上ですが、その後縁は切れてしまっています。今は母親と同居し、保育士として働いています。子育てと仕事を両立する毎日はとても大変で、「今、幸せだと思うことは正直ない」と率直に話してくれました。
グレイスさん(仮名)
(19歳・妊娠6ヶ月・初妊)
グレイスさんは現在19歳。初めての妊娠で、妊娠6ヶ月。
彼女は二世帯で暮らしており、同居しているのは母親と母の妹家族です。
2回生理がこなかったので市販の妊娠検査薬を使い、陽性という結果を見た瞬間、不安で涙が止まらなかったと話します。当時、彼女は中学3年生。ガーナでは就学年齢が遅れたり、経済的・家庭的な事情で学校に通えなくなることはよくあり、19歳で中学3年生ということ自体は珍しくありません。妊娠がわかった後、すぐに学校を辞めてしまいました。妊娠が発覚すると、周囲の視線や噂、そしてスティグマ(社会的偏見)にさらされ、学校を続けることは難しくなるということも、若年妊娠ではよくあることとのことでした。
パートナー(23歳)は中学卒業後、縫製の仕事に就いています。馴れ初めは「長いストーリー」とのことでした。遠方に住んでいて一緒に暮らしてはいませんが、彼が責任を取って父親になってくれたことは「良かった」と受け止めていました。
彼女の母親は出産後に学校へ戻ってほしいと願っていますが、デボラさん自身は職業訓練を希望しており、将来の「手に職」を模索しています。
イブリンさん(仮名)
(17歳・妊娠6ヶ月・初産)
イブリンさんは17歳。妊娠6ヶ月の初産婦でした。パートナーは21歳で、現在は非合法の金採掘のため他の地域へ出稼ぎに出ており、彼のSIMカードがチャージされていないため連絡が取れていません。
彼女は中学を卒業した後、しばらくの間、ヤムイモの商いに携わりながら外に働きに出ていました。その滞在中に今のパートナーと出会い、やがて妊娠が発覚します。妊娠を機に仕事を辞めざるを得ませんでした。
ジョイセフが塩野義製薬さんとのプロジェクトで作ったマタニティハウス(出産を控えた妊婦が安全に滞在できる施設)ができて幸せと語ってくれました。
ビクトリアさん(仮名)
(19歳・産後2週間)
ビクトリアさんは19歳。2人目の赤ちゃんを出産して2週間が経ったところでした。現在はパートナー(21歳)と共に暮らしており(今回お話を伺った中で唯一パートナーと同居している方でした)、パートナーは漁業に従事しています。2人はまだ結婚はしていませんが、中学時代からの友人同士で、長男はもうすぐ2歳になります。
第一子出産後、ビクトリアさんは中学に復学し、無事に卒業。その後は高校進学を目指していましたが、2人目の妊娠が判明し、夢を一時断念することになりました。それがものすごくショックだったとのことです。しかし、出産後に高校に進学する夢にもう一度チャレンジするのかという質問には、少しぶっきらぼうに「それはもういい」との答えでした。
今回は出産後にファミリープランニング(家族計画)についての説明を受け、避妊注射(インジェクション)を試してみようかなと思っています。
妊娠・出産に人生を振り回されるガーナの女性たち
今回のインタビューで印象に残ったことは、若年妊娠と赤ちゃんを育てていることについて、「それはそれで幸せ」という思いの方がおられなかったことです。もちろん赤ちゃんは可愛いし顔をみると愛おしさを感じるとは言っていましたが、思いがけず妊娠し、出産することになったことに関して、肯定的に考えている人には出会いませんでした。日本だと、どんな形であれ、新しい命を授かり、家族が増えるということに対し、何かしらポジティブな発言があることが多いのではと思いますが、ガーナでは、当事者もそうでない人も一貫して若年妊娠はできるだけ避けるべきものだと考えられているようでした。
確かに、妊娠という自分の体に起こることを自分で選べず、人生を振り回されている女性たちを目の当たりにすると、「産むか産まないか、いつ産むか、自分で選択できる」というSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ:性と生殖に関する健康と権利)が実現する重要性を改めて感じざるを得ませんでした。
ガーナでは、若年妊娠を減らすいくつかのプロジェクトも視察しました。ジョイセフコラボ企画 第2回ではそちらについてお届けします。
宋美玄
丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。