ドラマ『ファーストクライ』解説シリーズ #5 症例解説②弛緩出血
【医師解説】話題のドラマで出産後に出血が止まらなかったのはなぜ?「弛緩出血」とは
ドラマ『ファーストクライ 母子救命救急班』に登場した疾患の解説、今回は「弛緩出血」です。
「弛緩出血(しかんしゅっけつ)」とは、産後の子宮が弛緩して、出血が止まらなくなる病態です。
……と書くとあまりにも雑な説明のように感じるかもしれませんが、実際起きてることはこのまんまです。
しかし「名前だけ見れば何が起きているかすぐ分かる」というのは、あながち悪いことではありません。一般の方にも疾患のイメージが掴みやすいですからね。
余談ですが、私が2022年に設立したマンガ考察ブログは『産婦人科医が漫画を読む』という極限までシンプルな名前であり、初見の方にもどういうブログなのかがすぐに伝わる設計になっています。
これは決して、気の利いた名前が思いつかなかったとか、私のネーミングセンスが全く無いとかいうわけではないのです。断じてそういうわけではないのです。
弛緩出血とは?
さて、「弛緩出血」に関するマジメな解説です。
子宮と胎盤の間というのは、たとえるなら「血管の窓が無数に開いている」ような状態になっています。血管の窓を通じて胎盤に大量の血液が送りこまれ、そこから赤ちゃんは酸素や栄養を受け取ります。
Photo:PIXTA
しかし、子宮内に赤ちゃんも胎盤もない場合、血管の窓から血液が出っぱなしになります。
それを防ぐため、産後の子宮はすごい勢いで収縮していきます。
赤ちゃんが出る寸前までは、赤ちゃん1人がみっちり入るくらいに大きかった子宮が、出産後には握りこぶしより少し大きいくらいのサイズにまで収縮するのです。
そうすると必然的に、血管の窓も子宮の筋肉により押しつぶされて縮みます。
これによって血液が窓から出ていかなくなり、出血もおさまります。
前回の記事「常位胎盤早期剝離」で起きてしまう血液凝固異常などの例外もありますが、基本的に「産後の子宮の収縮能力」は「産後の出血の少なさ」に直結するのです。
もしも、産後の子宮の収縮能力がよくない場合、どうなるのか。
答えはシンプルで、出血が止まらなくなります。これが「弛緩出血」です。
そして、出産後24時間以内に生じる大量出血の原因のうち、約70%は弛緩出血であるとされています。
「産後の大量出血」は妊産婦死亡の主要な原因のひとつであるため、産後の子宮収縮というのは決して軽視してはいけない、重要な存在であるということがお分かりいただけるかと思います。
弛緩出血の対策方法は?
この弛緩出血ですが、基本的に妊婦さん側の努力で何とかするものというより、我々医療者側が注意を払うべき対象です。
出産で疲れた妊婦さんに「頑張って子宮を収縮させなさい!」というわけにもいきませんし、そもそも自分の力で何とかコントロールできる性質のものでもありません。
ちなみに私は、たとえどんなに他の仕事で疲れていたとしても、宋先生やcrumiiスタッフからの「この記事誰か書いてくれないかなぁ~(チラッ)」という編集チャットへの書き込みがあると「ワシやりまっせ!」と反射的に返事をしてしまう悪癖があります。
おかげでこの記事を書いている現在、他の仕事も合わせると週に4本の記事執筆をこなさなければならなかったため、泣きながらキーボードを叩いている次第です。
なお、本業の産婦人科業でも週6フルタイム+当直をやっているので、私の生活リズムは危険な域に達しているのではないか?ともっぱらの噂です。
いよいよヤバくなってきたらcrumiiへの原稿に謎の縦読みを仕込んだりするなどして何とかSOSサインを発したいと思います。この原稿の最後とか。
話を戻しまして、産後の出血への対応は、原則として医療者側が注意を払って対処すべき問題です。
我々医療者側は「とにかく出血を減らそう」の一心で、さまざまな手段を講じます。
エビデンスレベルの高いところで言えば、子宮収縮剤の投与ですね。
赤ちゃんが産まれた直後に子宮収縮剤の「オキシトシン」を投与すべき、ということが『産婦人科診療ガイドライン産科編 2026』にも記載されています。
オキシトシンだけでは効果が不十分な場合、他の収縮剤を使用したり、複数の薬を併用したりすることもしばしばあります。
Photo:PIXTA
それだけではありません。
出産のご経験がある方ならば、産後にお腹をグリグリと押さえられたことを覚えている方がいらっしゃるかもしれませんが、あれは子宮の収縮の度合いを確認することで出血が増えそうかどうかを予測したり、子宮をマッサージすることで子宮の収縮を促したりする目的があるのです。
ほかにも、お腹に冷たいパックを当てたり、乳頭を刺激したりなど、とにかくありとあらゆる手段で子宮の収縮を促すことがあります。(実のところ、このあたりの手技に関しては本当に有効かどうかあまりハッキリしていないのですが)
何にせよ、弛緩出血について知っておくこと自体は大事ですが、不安を感じすぎることなく安心してご出産に臨んでいただければと思います。
ねがわくば、
この記事で正しい知識が伝わり、
過度な不安が和らぐことを望みます。
わたしの好きな食べ物は
いなりずし。
以上、「弛緩出血」の解説でした。
Photo:PIXTA















