産婦人科医やっきーの斬らない臨床の話 「熱中症対策」
【医師解説】妊婦さんの熱中症対策|冷房を我慢しない、水分はのどが渇く前に
今回の題材は『妊婦さんの熱中症対策』です。
昨今は、地球温暖化に伴って夏の暑さが厳しさを増しており、熱中症の患者数も増加の一途をたどっています。
総務省によると、2008年時点では熱中症による救急搬送患者数が7~9月で23,071人だったのに対し、2025年5~9月では100,510人と、消防庁が調査を開始して以降最多の患者数となりました。
(出典:総務省「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」)
小児や高齢者をはじめ、全員が熱中症対策をすべきなのは前提として、妊婦さんは特に熱中症に注意しなければなりません。
アメリカCDCも啓発していますが、妊娠中は熱中症に対して普段よりも気を付ける必要があるのです。
(出典:CDC “Heat and Pregnancy”)
その理由をひとことで言うならば、「妊娠中は普段よりも体温調節に大きな負担がかかるため」です。
妊娠と暑さの関係

Photo:PIXTA
妊娠中は代謝の上昇に伴い、体内で産生する熱の量も増えます。胎内の赤ちゃんも代謝活動によって熱を産生するので、妊婦さんは普段よりも多くの熱を発散させなければなりません。
そのため、暑い環境で熱を発散させるのが難しい場合、妊婦さんの身体には熱がこもりやすくなってしまいます。これが「妊婦さんが普段よりも熱中症に気を付けなければならない理由」です。
ここで、「暑さ」が妊娠に与える影響について見てみましょう。
2025年に発表されたメタ解析によると、気温が1℃上昇するごとに早産のリスク(オッズ比)が約1.04倍になり、熱波(上位10%に入る暑さが2日以上連続で続くこと)の期間に限れば約1.26倍になったとの結果が出ています。
Photo:PIXTA
2023年に発表された別のメタ解析では、暑さが妊娠高血圧症候群の発症リスクを高めることも示唆されています。
具体的には、妊娠前半期に居住地域の外気温が高かった場合、妊娠高血圧腎症や子癇の起こりやすさ(オッズ比)が約1.54倍となったことが示されました。
これらの論文はあくまでも観察研究(実験ではなく、実際に起きたことを観察・集計して関連を調べる研究) であり、妊婦さんが個別で行った暑さ対策の有無なども考慮されていません。そのため、「暑さそのものがトラブルを引き起こした」という因果関係が証明されたわけではありません。
とはいえ、いずれにせよ妊婦さんは必要以上に暑い環境に居るべきではないということがお分かりいただけると思います。
のどが渇く前からこまめに水分を摂り、涼しいところで過ごしましょう。
ときどき「妊婦さんが体を冷やすと逆子になる」「赤ちゃんに良くない」等の間違った啓発をする人が居ますが、全くの無根拠なので気にする必要はありません。
Photo:PIXTA(137834991)
具体的な対策について
政府のクールビズ推進に伴い、「室温を28℃にしよう」という呼びかけがなされることが増えました。
これ自体は悪くないのですが、一部の公的機関や企業ではこれを根拠にエアコンを28℃設定にし、それよりも下げられないよう中央管理をしている例が見受けられます。
実際には、これは間違った運用方法であり、「エアコンの設定温度」と「実際の室温」が乖離(かいり)していることはしばしばあります。環境省も「そのような場合は設定温度を下げることも考えられます」と明言していますので、エアコンの温度は柔軟に設定しましょう。
熱中症対策は「そもそも外出を避けて、涼しい屋内で過ごす」のが理想ではあります。
しかし当然、それでも外に出なければならない状況もあります。そんな時は、気温や湿度だけではなく「暑さ指数(WBGT)」や「熱中症警戒アラート」を確認することも大切です。
暑さ指数とは、気温や湿度、日差しや地面からの照り返しなどを考慮した数値です。気温単体に比べて、この暑さ指数の方が体への負担を反映しやすいとされます。
Photo:PIXTA
熱中症警戒アラートとは、この暑さ指数が一定の数値を超えて「熱中症の危険性が極めて高い」と予測された場合に出される注意情報です。
アラートが出た日は、不要不急の外出や屋外活動を減らす、外出する場合は暑い時間帯を避ける、こまめに水分を摂るといった対策が特に求められます。
熱中症警戒アラートは、環境省の「熱中症予防情報サイト」で確認できるほか、天気予報サービスに表示されることもあります。
それでも熱中症が起きてしまった場合の対処法についても解説します。
めまい、頭痛、吐き気、強いだるさ、筋肉のけいれん等の症状があれば、すぐに涼しい場所へ移動し、衣服をゆるめて体を冷やしましょう。意識がはっきりしていて自力で飲める場合は、水分や塩分を補給します。
Photo:PIXTA
休んでも症状が改善しない場合や、受け答えがおかしい、意識がない、全身がけいれんしている等の場合は、ためらわず119番に電話しましょう。
もう一度まとめますと、冷房を我慢しない、のどが渇く前から水分を取る、暑い時間帯の外出を避ける、具合が悪ければ早めに休む。
妊娠中は、この4点をいつもより少し意識して、厳しい暑さを乗り切りましょう。
















