絵本『Mr.ベイビーマン』騒動。あとがき6Pに仕込まれた「ステルス警告」
絵本『Mr.ベイビーマン』(ヒカルランド)が発売され、巷がざわつきました。本作は、「世界を一緒に救うために、空の上からお母さんを選んで生まれてきた」と語る、特殊能力を持つ赤ちゃんを描いた物語です。物議を醸している点は、「あとがき」で6ページにわたり、ワクチン批判が展開されているからです。
作者である絵本作家・のぶみ氏をよく知らない人は、「これは一体何なのだ……」と困惑しそう。しかしそもそも、同氏を知らない人は、購入しない性質の本とも言えそうです。のぶみ氏は、発売前である2025年12月にこの本に触れ「ステルス警告を広める」と発信していました。子ども向けの絵本という媒体で、なんつーことを……と、その倫理観に疑問を抱かざるを得ないものの、よく考えてみれば、これこそがプロパガンダの常套(じょうとう)手段ですね。
Eテレからスピリチュアル界隈へ。「胎内記憶」というコンテンツ
のぶみ氏の代表作といえば、NHKのEテレでアニメ化もされた『うちのウッチョパス』が挙げられます。初期は人気キャラクターとのコラボや、子ども好みのモチーフを扱った作品を描いていた印象ですが、次第にそのターゲットは「母親」へとシフト。これが、香ばしい界隈をウォッチしている筆者のアンテナに引っかかるきっかけとなりました。
Photo:PIXTA
やがて、のぶみ氏の活動はスピリチュアル寄りになり、「胎内記憶」というコンテンツへ参入します。本来、胎内記憶とは「お腹の中で外の音が聞こえていた」といった、胎児期の記憶を指していたはず。
ところが「前世」や「魂として空の上の世界で過ごしていた」というスピリチュアルな物語が盛り上がり、そこから「お母さんを選んで生まれてくる」という話が広まっています。そして、子どもたちの無邪気な空想的なおしゃべりに、大人たちが寄ってたかって都合のいい自己解釈を乗せていくのです(筆者としては、多分に誘導尋問も含まれていると考えていますが)。
同書の主人公であるベイビーマンも、まさにこの文脈の申し子。空の上から「世界一素晴らしいママ」を選んで生まれてきたのだと、母親にテレパシーで伝えるエピソードが登場します。そして、件(くだん)の問題のあとがきも、「子どもたちがそう言っていた」という、万能の免罪符である胎内記憶を根拠にしている部分があるのです。
胎内記憶については、こちらのやっきー先生の解説も合わせてどうぞ。
胎内記憶ってあるの?
「赤ちゃんが注射を嫌がるから少子化」という驚天動地の超理論
その主張によると「空の上の赤ちゃんは、注射を嫌がっている。だから生まれてこられず、少子化になっている」とのこと。……いやはや、こんな斬新(ざんしん)な理屈は初めて耳にしました。
「僕が赤ちゃんなら絶対嫌だ」(※定期接種を打つのは嫌だという意味)ともあるけれど、それを言い出したらチャイルドシートに固定されるのも、爪切りも、虫よけスプレーだって嫌に決まっているでしょう。
それでも保護者は、子どもの命を必死に守るために、嫌がられようが泣かれようが心を鬼にしてやっているのです。ついでにもう少し物心がつけば、「親が死んだら困るだろう?」と脅される絵本の読み聞かせのほうが、よっぽど嫌だと思うけど。
あとがきの突っ込みポイントは、まだまだたくさん。ワクチンの接種本数と発達障害、ひいては不登校の関連性をそれとなくほのめかしたり、「はしかになる子は、ほとんどいない」と根拠なく言い切ったり※、「ワクチンを打ったらこんなに怖いことが起きた!」というお決まりの体験談を掲載したりと、やりたい放題です。
※編集部注:はしか(麻疹)にかかる子どもが少ないのは9割以上が予防接種(ワクチン)を受けているおかげです。

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のぶみ氏は、2026年2月に行われた第51回衆議院議員総選挙の際にも、「ゆうこく連合」の応援演説で、ワクチンについて語っていましたね。さらに過去に何度も、「育児デマ」と各方面から指摘される投稿も繰り返しています。それ、本当に子どものためになっていますか。
さて、ワクチン反対派も賛成派も、「子どものため」を思っている点では目的は同じはずです。
それなのに、のぶみ氏をはじめとする胎内記憶の周辺から漂う、「妊娠・出産・育児を軽んじている感覚」は一体何なのでしょうか。
あれほど「お腹の中からのコミュニケーション」や「母子の強い絆」を美化して強調しているにもかかわらず、です。それは、次のような価値観が共有されているからでは。
虐待すら「魂のラッキー」で片付ける、胎内記憶界隈の人権感覚
胎内記憶界隈において、もっとも激しくツッコミを入れられるポイント。それは、彼らの語る子どもの人権感覚が、現代の常識から著しく逸脱している点にあります。その代表例が、胎内記憶研究の重鎮とされる産婦人科医・池川明氏によって発信されていた、次のような主張です。
「虐待する親を選んで生まれてきたのも、子ども自身」
「親の魂を成長させるために、あえて自ら過酷な状況にチャレンジする」
これらは氏の著書『魂の教科書 自分に目覚めてラクに生きたいあなたへ』(廣済堂出版)に堂々と書かれていたものです。さらに、同書に登場する胎内記憶キッズには、こんなことを言わせていました。殺したいほど家族を憎むという壮絶な経験について、「普通は経験できないことをしているわけだから、魂からすれば『ラッキーだね』って思う」と。
最近注目を集めている、ケーキを顔面に押し付けられた動画の赤ちゃんも、魂的にはラッキー? ただただ、悲しく辛く苦しいだけでは。
実親から虐待死させられる凄惨(せいさん)な事件が後を絶たない現代において、このセリフを子どもに言わせ、本に掲載して世に送り出す感覚は、もはや理解の範疇(はんちゅう)を超えています。何もかも親が背負わなくていいという癒やしの提供なのかもしれませんが、いや~ちょっと無理無理。
これらと同様の理屈は、凄惨な事件に対しても平然と適用されています。別媒体の過去記事でも何度かとりあげていますが、大事なポイントなので再掲します。

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凄惨な事件を美談にし、カジュアルに消費する人々
2018年に起きた、目黒女児虐待死事件。ノートに「もうゆるしてください」と書き残して亡くなった船戸結愛(ゆあ)ちゃんについての、池川医師の発信はこう。
「10歳の子どもが、”あの子は、親に愛を伝えるために生まれてきたんだよ”と言っていました」
「命と引き換えに、愛を伝えようとしてくれた」
「犠牲者で終わっただけでなく、多くの人の感情を動かし、愛に気づかせてくれた。
そういう役目を負ってくれたと言えます。」
そして
「魂は人生のシナリオを描くとき、起承転結の最後に必ず『幸』という文字を書くという」
「だから途中で何があったって、いいじゃないのと心底思った」
「魂にとって、人生は深刻なものではないのです」
とまとめられていました。
凄惨な児童虐待の現実を「魂のエンタメ」程度に消費するその姿勢には、寒気すら覚えます。また、こうしたふわっといい話でまとめると、福祉や医療の問題点が見えなくなるのは、もう皆さまご存じでしょう。
そして、のぶみ氏の最近の発言もこれと全く同じノリを踏襲しています。同氏のYouTubeチャンネルでは、今年3月に京都府南丹市で起きた小5男児行方不明事件(のちに遺体で発見)を取り上げた回がありました。
もはや胎内記憶とは何の関係もないニュースですが、タレコミや報道をベースに「これ、共犯がいるよね!」などと、カジュアルに野次馬ノリを発揮していました。子どもの命が失われた凄惨な事件を、よくぞここまで安易なネットのコタツ記事感覚で「再生数を稼ぐネタ」にできるものだと、その神経には心底驚かされます。重ね重ね、子どもたちのためってホントですか?

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ハートフルな物語の裏にある「優しい世界」の危うさ
こうした一連の発信を眺めていると、
「赤ちゃんに嫌な思いをさせたくないから、ワクチンは打たせない!」
という短絡的なノリにつながっていくことに、納得してしまいます。
もちろん、胎内記憶を信じている人すべてが、このような極端な思考に染まっているとは言いません。「子どもが親を選んで生まれてきた」という物語自体に、救われる親がいるのも事実でしょう。しかし、そのハートフルな物語の地続きには、こうした命の重さを軽んじていると思わざるをえない空気が、確実に潜んでいます。
彼らが掲げる「お母さんのための優しい世界」の裏側には、現代社会の常識とはあまりにもかけ離れた、きわめて特殊な倫理観が存在しているということ。その危うさだけは、しっかりと頭に入れておきたいものです。
山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru
















