crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #54
人工妊娠中絶にパートナーの同意は必須なの?押さえておきたい「同意書」のルール
先日SNSで、「元カレの子どもを妊娠していて、中絶を考えているのだけど、同意書にサインをもらうために会うのをしぶられている……」という内容の投稿を見かけました。
また、私のクリニックから中絶希望の未婚の患者さんを別の医療機関に紹介したところ、相手のサインが必要と説明されたというケースもありました。
人工妊娠中絶は、都道府県医師会が指定した母体保護法指定医師(産婦人科医)が行いますが、「配偶者もしくは胎児の父親の同意が必ず必要」として運用されていることがありますし、一般の方もそのように思われている方が多いかもしれません。
しかし、母体保護法上、必ずしも配偶者もしくは胎児の父親の同意が必要ではない場合がありますので、医療関係者やそうでない方にもぜひ知っていただきたいです。
母体保護法が定める「配偶者同意」ってなに?
母体保護法第14条には「指定医師は(中略)本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。」とあります。
人工妊娠中絶を行うにあたり、女性に配偶者がいればその同意が必要です。「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある相手を指します。交際相手や婚約者、性暴力の加害者も含め「胎児の父」とされる人でも、女性と婚姻関係になければ母体保護法上の「配偶者」にはあたりません。
配偶者の同意が必要ではない6つのケース
その他のケースも含め、配偶者の同意が不要となる主な場合についてまとめました。
1. 未婚の場合
未婚の場合、法律上の配偶者がいないため、配偶者の同意は不要です。
彼氏、婚約者、元彼、その他胎児の父とされる人の同意は、母体保護法上の配偶者同意には含まれません。
2. 配偶者と連絡が取れない場合
配偶者の所在が分からない場合や、連絡が取れない場合など、相手のサインをもらう方法が閉ざされている場合は、法律上配偶者がいても同意が必要とはされていません。
3. 配偶者が意思表示できないとき
配偶者が意思表示できない場合も、本人の同意のみで大丈夫です。
たとえば、配偶者が重い病気、意識障害、判断能力の問題などにより、同意するかどうかを表明できない場合が該当し得ます。この場合、配偶者の同意を求めることが実際には不可能であるため、本人の同意によって手続きを進めることになります。

4. 妊娠後に配偶者が亡くなったとき
妊娠後に配偶者が死亡した場合も、本人の同意のみで足ります。
5. 性暴力・強制性交などによる妊娠の場合
暴行や脅迫、または抵抗や拒絶が困難な状態での性交によって妊娠した場合、人工妊娠中絶を行うケースが多いと想定されますが、厚生労働省は、強制性交等の加害者の同意を求めるものではないとしています。
つまり、胎児の父親が加害者である場合、その人の同意を取得する必要はありません。
(加害者が配偶者ではない場合には、そもそも母体保護法上の配偶者同意が必要かという問題にはなりません)
6. DVなどにより夫婦関係が実質的に破綻し、
同意取得が困難な場合
配偶者からのDVなどにより、夫婦関係が実質的に破綻(はたん)している場合があります。このような状況では、配偶者に連絡を取ること自体が困難であったり、本人の安全に関わったりすることがあります。
厚生労働省の通知を踏まえ、日本産婦人科医会は、DVなどにより夫婦関係が実質的に破綻しており、配偶者の同意を得ることが難しい場合には、本人の同意のみで人工妊娠中絶を行うことができるとしています。
現状は医療機関ごとに基準や運用が違う
実際には、配偶者同意が法律上必要とされないケースでも、医療機関ごとに同意書に「配偶者」のサインを必要とするか、運用が異なることがあります。
未婚の場合でもパートナーのサインを必須としている医療機関はありますし、配偶者が所在不明、連絡がつかない、配偶者からDVや性暴力を受けている、などの事情がある場合に、配偶者のサインの欄が空欄でも人工妊娠中絶を行うかは、医療機関によって運用が異なります。
これは、厚労省が、上記のような場合には配偶者のサインを必要としない旨を通達していることが、医療機関に十分に周知されていないということもあるでしょうし、パートナーが「俺の同意なくなぜ中絶をしたのか」と怒鳴り込んでくる例もあるため、医療機関が守りに入って厳格な運用をしがちということもあるようです。
crumiiでも何度もお伝えしているように、予期せず妊娠した人が、中絶にアクセスできず赤ちゃんを産み落として結果的に遺棄してしまうという事例が相次いでいます。なかには、相手に連絡がつかず、「配偶者同意」がネックとなって結果的に中絶できなかったと警察に話している事例もあります。
「中絶できない」と思う前に一度相談を
冒頭に紹介したSNSの書き込みのように、「相手にサインをもらわないと中絶できない」と認識している女性は多いと推測しますが、実はそうではないことを広めていけたらと思います。
予期せぬ妊娠は誰にでも起こり得ることで、妊娠した当事者が産むか産まないかを決められることは、SRHR(セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)の根幹であり、人権そのものです。
結婚している女性が中絶を選ぶ際に配偶者の同意が必要だと法律が定めていることも問題視していきたいですし、必ずしも法律上必要ではない人にまで胎児の父親のサインを必須とされるケースがある現状は変えていきたいと思います。
予期せぬ妊娠についてお困りの方へ。全国の相談窓口リストはこちら。
画像:こども家庭庁HPよりお借りしました。

















