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男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #24

世界で「包括的性教育」はどう受け止められているの?

多様な人たちが地球を囲み輪になって手をつなぐイラスト

日本でも最近耳にすることが増えてきた「包括的性教育」ですが、諸外国ではどのように進められているのでしょうか。

今回は、国際的な指針として活用されている「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)をベースに、世界の各地域でどのように扱われているのか、プログラムの開発や普及に関してどんな姿勢をとっているのか、紹介していきます。

なお、本記事では、それぞれの国でどのように取り組んでいるか、というよりも、各地域でどのような背景からどのような政策的動向があり、包括的性教育に関してどんな会議や宣言があったのか、をまとめます。俯瞰(ふかん)的な目線で、「日本以外の国や地域で、包括的性教育はこういう風に扱われているんだな」と知っていただく機会になれば幸いです。

(編集部注:国際セクシュアリティ教育ガイダンスの日本語版はこちらからご覧いただけます)

日本語版ガイダンス(文献2)に沿って以下の地域を取り上げます。順にみていきましょう。

1.西ヨーロッパ
2.ラテンアメリカおよびカリブ地域
3.東および南アフリカ
4.アジア太平洋地域

日本中心の世界地図
Photo:PIXTA

1.西ヨーロッパ

50年以上の歴史を誇る「性教育の先駆者」

西ヨーロッパでは、学校を基盤にした包括的セクシュアリティ教育プログラムの導入が約50年前から始まり、スウェーデン、ノルウェー、オランダなどは長年の実践経験を有する、とされています。

これらの国々は、学校でセクシュアリティやSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ)に関する問題をオープンに議論することに慎重な東ヨーロッパ・中央アジア諸国と比較して、思春期の妊娠率が明らかに低いことが言及されています。

女性医師と様々な避妊具
Photo:PIXTA

さらに、エストニア(バルト海とフィンランド湾に接する北欧の国で、人口は140万人弱)では、包括的性教育の発展が若者の性的健康指標の着実な改善と強く関係していることが調査で示されており、意図しない妊娠や人工中絶、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染率の低下といった改善は、若者向けの健康サービスの進展とともに、学校教育で包括的性教育が義務付けられたことによるものだろう、とまとめられています。

2.ラテンアメリカおよびカリブ地域

地域合意で若者の「意思決定」と「尊厳」を保障 

この地域では、2008年に署名された「教育的予防に関する閣僚宣言」を踏まえ、健康と教育に携わる大臣らが包括的性教育に取り組む約束を宣言しました。

具体的には、政府が部門間調整を確実にすることを約束し、「HIVおよび性感染症の予防を含む包括的性教育と性的健康促進のための多部門戦略」を実施・強化することに同意した、という形で整理されたようです。

性教育を受ける男女と先生のイラスト
Photo:PIXTA

また、地域合意文書として、「モンテビデオ・コンセンサス」(2013, UNECLAC)というものがあり、思春期・青年期の若者の「情報に基づく意思決定」や「人間関係の感情的側面を認識する」という観点等から、幼少期からの包括的性教育プログラムの効果的な実施を保障することが明記されています。

3.東および南アフリカ

HIV対策と意図しない妊娠を防ぐ「小学校からの早期介入」

この地域では、「東アフリカおよび南部アフリカ(ESA)の思春期および青年期の若者向け包括的セクシュアリティ教育および性と生殖に関する健康へのサービスに関する閣僚のコミットメント(2013)」が示され、教育と健康に携わる大臣らが、地域で質の高い包括的性教育と若者が利用しやすいヘルスサービスを確保するための積極的な行動を主導する、とされています。

同コミットメントでは、包括的性教育と若者向けヘルスサービスの提供を通じてHIV流行への国家対応を強化し、性感染症や早期妊娠、意図しない妊娠を減らし、HIVと共に生きる人へのケア・サポートも強化すること、さらに複数部門間調整システムの確立・強化が掲げられています。

各国の子供たちのイラスト
Photo:PIXTA

加えて、前期思春期以前、つまり多くの人が性的に活発になり、HIV感染や意図しない妊娠リスクが増える前の小学校段階から、年齢に適した包括的性教育を開始・拡大して多くの思春期の若者に届ける方針が明確にされています。

4.アジア太平洋地域

国家戦略と連動した「HIV教育」の盤石な基盤

アジア太平洋地域については、伝統的にHIV教育の実施に有利な政策環境があり、多くの国が性感染症に対する国家戦略に包括的性教育を組み込んでいると記載されています。

さらに、2013年のアジア太平洋人口開発会議(APPC)において、すべての人、とりわけ最貧層や弱い立場になりやすい人々のSRHR保障に重点を置いた公約が発表された、と整理されています。

加えて、同じくAPPCに関する引用(ICPDレビュー, 2013)として、両親やコミュニティ、教師など、そして若者自身の積極的関与により、学校内外でヘルスサービスに関連する包括的性教育プログラムを採用・実施することが示されています。

SEXUAL HEALTHの文字と聴診器、ペン、ノートのおかれたデスク
Photo:PIXTA

以上、世界の各地域における包括的性教育への姿勢を整理しました。
日本以外でもさまざまな地域で、大臣クラスがきちんとプログラム開発・普及に取り組むことを宣言していたり、幼少期や小学生からのアプローチを重要視していたり、若者が利用しやすいヘルスサービスを作っていくことを約束したりしているということがわかりますね。

とはいえ、国レベルで見れば、包括的性教育が十分に普及・浸透していない国も多くありそうですし、アジア太平洋地域に属する日本でも適切な包括的性教育が十分に実施されているとはいえない状況だと感じます。

上記のような宣言や枠組みがあることは土台として重要ですが、それが実際に各国や各地域で効果的に実践されてこそ意義あるものとなるはずですよね。

 

ガイダンスに書かれている8つのキーコンセプトや家庭でできる工夫は、シリーズ記事としてまとめていますので、ぜひそちらもご覧いただき、各ご家庭で活用していただけると嬉しいです。

この記事は、包括的な教育解説シリーズの続編です。

バックナンバーはこちら
「人間関係を学ぶこと」は性教育の土台 〜包括的な教育解説シリーズ(1)〜
価値観や権利とセクシュアリティを考える 〜包括的な教育解説シリーズ(2)〜
「ジェンダー」についてどう伝えていく? 〜包括的な教育解説シリーズ(3)〜
子どもを暴力から守るために家庭ができること 〜包括的な教育解説シリーズ(4)〜
性教育で子どもに伝えたい「スキル」とは 〜包括的な教育解説シリーズ(5)〜
からだと発達についてどう伝える? 〜包括的な教育解説シリーズ(6)〜
性を「一生かかわるもの」として捉える視点 〜包括的な教育解説シリーズ(7)〜
性と生殖に関して自身と相手を守るために 〜包括的な教育解説シリーズ(8)〜(この記事)

参考文献
WOMEN, U. N., et al. International technical guidance on sexuality education: an evidence-informed approach. UNESCO Publishing, 2018.
国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】――科学的根拠に基づいたアプローチ(明石書店)

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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