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【体験談】「45kgを見たら、勝手にダイエットが始まる」 ~FUS当事者に聞く、彼女が「太れない」理由~

体重計に乗る女性の足

「FUS」と呼ばれる、女性の低体重/低栄養症候群が問題になっています。なかでも若い女性においては深刻といわれており、20代~30代女性の5人に1人が、BMI18.5未満の「低体重」に該当することが、厚労省の調査でもわかっています。

FUSは骨粗鬆症(こつそしょうしょう)、月経異常、糖尿病などのリスクを高めるほか、抑うつ、不安、集中力の低下にも関連するなど、心身に影響を及ぼす可能性があります。そのことは当然、「当事者」である若い女性たちの耳にも入っています。

しかし、彼女たちはそれでも痩せることを望み続けます。届けるべき場所に正しく情報を届けるには、彼女たちの気持ちを知ることが重要です。そこで今回は、FUSを自認する女性にお話を伺いました。

「45kgを見たら、自動的にダイエットが始まる」

「体重計に乗って『45』という数字を見た瞬間にダイエットが始まります。自分の意志というより、自動的に」

そう話すNさん(仮名・20代)は、身長158cm・体重は41~43kgあたりをキープしているといいます。BMIにすると16~17。医学的な「低体重(やせ)」のなかでも、かなり痩せた状態です。

Nさんは痩せていることによる健康リスクに、決して無自覚なわけではありません。十分にわかったうえで、それでも「太れない・太りたくない」というスタンスで過ごし続けてきました。そんな彼女が「これ以上は超えたくない」と決めている数字が45kgだといいます。

「下は40kg。これを下回ると体調が厳しくなるので、40kg台はキープしたいです。でも、45kgにはなりたくない。体重計に『45』という数字を見たら、自分のなかではもう『太った』になってしまうので」

40kgを下回ると不調が来る。一方、45kgに近づくと「太った」と感じる。Nさんの体重は、わずか5kgの幅のなかでチューニングされています。

45.3kgと書かれた体重計
45kgは、Nさんにとって「ダイエットせずにいられない体重」 Photo:PIXTA

きっかけは恋人ができたことと、父親の何げない一言

Nさんはすでに10年以上、現在の体重をキープしているといいます。最初にダイエットを意識したのは、中学3年生の頃でした。

「初めての彼氏ができたんです。それで『かわいくなりたい』って思って、ダイエットをしたのが最初でした」

当時、Nさんは高校受験のためにそれまで続けていたスポーツをいったんやめたばかりでした。そのため、ちょっとトレーニングを再開すると特段、食事制限をせずとも体重は順調に落ちていったといいます。50kg前後あった体重が47kgになり、Nさんとしては、たしかな手応えを感じていたそうです。

(編集部注:なお、158cm、47kgのBMIは18.8。ギリギリ普通体重の範囲です。)

しかしある日の家族との何げない会話が、Nさんに変化を与えることになりました。
それは父親からの「今、体重、何kgあるの?」という質問。ダイエットに成功した自覚があったNさんは、ちょっと誇らしい気持ちで「47kgだよ」と答えました。

すると返ってきたのは、こんな言葉だったそうです。

『そんなにあるの!?』って言われちゃって」

今振り返っても、その瞬間のことは「恥ずかしかった」とNさんは話します。

「自分では減ったと思っていたけれど、まだ『そんなに』なんだって。少なくともお父さんからはそう見えるんだって」

部屋で彼氏と勉強する女子学生
体重が減ったと思っていたのに「そんなにあるの!?」と言われてショック Photo:PIXTA

念のためお伝えしておくと、Nさんと父親の関係は決して悪くありません。むしろ良好ともいえます。

「父は、思ったことを全部口に出しちゃうタイプの人なんですよ。悪意がないからいいとも思っていないですけど、だからといって父を憎んでいるわけでもないです」

と、笑いながら話してくれました。
ただ、結果として、その一言がNさんのなかに強く残ったのは事実です。「私はもっと痩せたほうがいいんだ」という回路を作った最初の言葉として、今も存在し続けています

「痩せたら、褒められた」——自己肯定感の供給源

その後もNさんはダイエットを続け、順調に体重を落としていきました。すると、ある時期から、周囲の反応がはっきりと変わったことを今でも覚えているそうです。

「45kgを切った頃から友だちに『痩せたね』『きれいになったね』って褒められることが増えたんです。私は勉強がそこまで得意なわけでもないし、唯一やっていたスポーツもなんだかんだあってやめてしまっていました。そんななか、誰かに褒められること自体がひさしぶりで、すごくうれしかったのを覚えています」


美容の会話を交わす女性3人のイラスト
「痩せると褒められる」ことがNさんにとっての成功体験になった Photo:PIXTA

痩せると、褒められる。褒められると、うれしい。うれしいから、もっと痩せたくなる——。そのループのなかで、Nさんの体重は45kg、42kg、40kgと落ちていきました。

そして高校3年生の春には、ついに38kgに。158cmで38kg。BMIにすると15.2。明確な「重度のやせ」の領域です。身体にも異常が現れていました。

「生理は来たり来なかったり。来ても、重かったり軽かったりと安定せず、明らかに不順でした。あとは、風邪をめちゃくちゃひきやすくなりました。ちょっとしたことですぐ体調を崩すので、さすがにこれはまずいなと思って、ちょっと戻したんです」

戻したと言っても、42kgまで。それ以降、今日に至るまでNさんが45kgを超えたことは、一度もありません。

「お米と口中調味が苦手」Nさんの食生活・食習慣

FUSの女性たちがどのような食生活を送っているのか、興味がある人も多いのではないでしょうか。そこでNさんには、食生活についても少し踏み込んで話を伺いました。

Nさんは会社員。朝食は基本的に食べず、昼は会社の近くのコンビニでサラダや機能性ゼリー、プロテイン飲料などを口にすることが多いです。時には同僚とランチに行くことも。

夜は自宅で蒸し野菜、鶏肉、みそ汁、魚など、油をほとんど使わずに調理した食事を少量食べるのがルーティンになっているといいます。もちろん、プロテインやサプリメントも利用し、栄養バランスには気を遣っています。

けれども、一日あたりの摂取エネルギーは「1,000kcal程度になるように気をつけている」とのこと。日本人の食事摂取基準(2025年版)によると、女性の基礎代謝量は体重47.5kgの場合で1,410kcal、36.3kgの場合でも1,260kcalです。基礎代謝量とは簡単に言うと、「生命を維持するために最低限必要なエネルギー」ということ。

つまり、1,000kcalというエネルギー量は、体重が40kg台前半であるNさんの一日の生命を維持するにも足りていないとも言い換えられます。食事の内容は決して悪いわけではないものの、口にする量が圧倒的に足りていないのです。

美味しそうにサラダを食べる女性
決して食べていないわけではないが、食べる量が圧倒的に少ない

Nさんが現在独り暮らしをしている家には、炊飯器がなく、お米はほとんど食べないといいます。

「お米は本当に苦手です。一番苦手な食べ物かもしれないですね」

なぜ苦手になったのか尋ねると、返ってきた答えは、こうでした。

「ダイエットを始めた時期がちょうど糖質制限ダイエットがはやり始めた時期で。『米を食べなければ糖質が制限できるなら、米を嫌いになればいいんだ』と思い込み、お米と距離を取っていたら、本当に苦手になってしまいました(笑)」

ダイエットの方便として始めた行動が、長い時間をかけて、味覚そのものを書き換えてしまった——そうも見える構図です。

またNさんは、日本人が比較的好んでよく行う「複数の食材を口のなかで混ぜて食べる料理」も苦手だといいます。カレー、すし、ハンバーガー、丼など、「主食とおかずが一緒になったメニュー」を食べるのが難しいのだそう。

「おすしは、ネタだけ食べたいんです。シャリと一緒に食べて『おいしい』という感覚が、私にはよく分からなくて。みんなが当たり前に楽しんでいるものが、私のなかでは完成形には見えず、おいしいと思えないんですよね」

「でも、これは私の個性なので」と、Nさんは淡々と語ります。

FUSは、拒食症や過食症といった摂食障害だけを指す概念ではありません。Nさんのように、はっきりした摂食障害の診断はなくても、自分の裁量で食事の量や種類を制限し続けている人も含まれます。

ただ、そうした制限も長く続ければ、味覚や食習慣そのものへの影響は大きくなります。果たしてそれは「病的ではない」と言えるのでしょうか。この問いは、医療や栄養の現場でも、もう少し丁寧に扱われていい領域なのかもしれません。

Free To Be Meと書かれた積み木をもつ手
長期にわたる食事制限が影響した味覚の変化は果たして「個性」と言えるのか Photo:PIXTA

体形と、社会のまなざしと自己評価

Nさんの友人も、彼女同様に痩せ願望が強く、痩せている女性がほとんどなのだそう。とはいえ、そろそろ30代に差し掛かる時期。ライフスタイルも変化し、体形が変わってきた人もいるはず。そのことを投げかけると、こんな答えが返ってきました。

「高校時代と比べて、大学生・社会人になって、みんな少しふっくらしてきたなっていうのは正直感じます。それが悪いとは思わないけれど、やっぱり自分のほうがまだ『強化されている』なというのは感じます」

「強化されている」とは、「痩せた状態をよりキープできている」ということを意味するのだそう。やはり、痩せていることは彼女にとって誇りなのだろうなと思ったとき、Nさんの口からは思いがけない言葉が続きました。

「友人たちがふくよかになっても気にしていない様子を見ると、『よくその体形で自分を受け入れていられるな』と、嫌な感情を抱いてしまうことはたしかです。でも、同時にうらやましい気持ちもあるんです。私が感じているような、呪いのような意識から解き放たれていることがうらやましい。でも、自分はそうはなりたくない気持ちもあって……」

なぜ「自分はそうなりたくない」と思うのかと踏み込んで尋ねると、彼女はこう答えを返しました。

「痩せているほうが、世界の目が優しい気がするんです。それは私の被害妄想ではなくて、たぶん、本当にそうなんだと思う。だって、SNSとかでは普通に、BMI20とかの健康体重の人にもデブとか言うじゃないですか。世間的に見るとやっぱり健康体重ってデブに見えるんですよ」

体形と、社会のまなざしと、自己評価。それらが複雑に絡み合い、Nさんのなかで揺るぎない価値観となっているのでしょう。

「『これからのトレンドは二段腹!』とか、『振り袖みたいな二の腕じゃないとかわいくない』とか、世の中がそういう流れになれば、私も普通に太れると思うんです。でも、そうじゃない限り、どんなに言われてもこれ以上体重を増やすのは難しいです」

FUSといわれる女性は、その状態になっているのが「自分だけの問題ではない」ことを、実はよく理解しているといえます。

ぽっちゃりしたおなかで筋トレに励む女性
二段腹がトレンドになれば、ボディイメージも変わるかもしれない

「妊娠したら、変われるのかもしれない」

「ずっとこのままでいたいわけではない」とNさんは言います。ただ、痩せ願望から抜け出すには「妊娠でもしない限り難しい」と考えているそうです。将来的に妊娠の機会があれば、そのときには体重が大きく増えることを受け入れる覚悟はあると話してくれました。

「妊娠したら、少なくとも十数kgは体重が増えるじゃないですか。そうしたら、もうあきらめがつくと思うんです。妊娠中の体重増加は、赤ちゃんを育てるために必要なことですし、そこを自分のエゴで無理に抑えたくはないです」

けれども今はまだ、自分の感情を大事にしたい、と続けます。

「今は、かわいいほうが大事です。妊娠しなくても、30代後半くらいになって身体のラインが出る服を着るのがしんどくなってきたら、考え始めるかもしれません。でも、それってまだ先、今じゃない、と思っています」

メイク用品を持って座る女性
今はまだ「かわいい」のほうが大事(イメージカット) Photo:PIXTA

「痩せている」ことが、自分の唯一の誇り

取材を終え、録音を止めたあと、Nさんが、ふと漏らすように「さっき話しながら、思ったんですけど」と話したことがあります。

「『胸が大きい』とか『お尻がかっこいい』とか『脚がきれい』とか、自分の身体で誇れる部分が一つでもあれば、違ったのかもしれないなって思っちゃいました。私、自分の身体で誇れるところがなくて。『痩せてる』が、唯一、自分の身体で誇れるところなんです。だから、病的なまでに、この体形を維持することにとりつかれているのかもしれないですね」

この一言は、それまでの1時間あまりの話を、全く違う角度から捉え直すものでした。

45kgを超えさせない厳密な自己管理。米を遠ざけ続けた末に書き換わった味覚。周囲と自分の体形を比べるまなざし。それらは全て、「痩せていたい」という願望から生まれた結果のように見えていました。

けれども、Nさん自身の言葉を借りれば、順序はおそらく逆なのでしょう。誇れるものが「痩せている」しかないから、それを手放せない。痩せていることは目的ではなく、自分を肯定するための、たった一つ残された足場なのかもしれません。

そう考えると、「もっと痩せたい」という願いは、「自分を好きでいたい」という、ごく当たり前の願いが、少しねじれて現れてしまっただけではないか——そうも思えてきます。

Love Myselfと書かれたハートマークと自分に向き合い花束を捧げる女性痩せ願望は、ねじれた自己肯定感なのかもしれない

若年女性のFUSを、「健康を害するから」と戒めるように言うことは簡単です。しかし、Nさんの経験だけをとっても、家族の何げない一言、友人からの褒め言葉、流行のダイエット法、そして個人の性格など、複数の出来事の積み重ねによって、「痩せていたい」という感覚が作り上げられてきたことが分かります。

「痩せていれば褒められる」「痩せている人のほうが、世界に優しく扱われる」——そんな空気のなかで、私たちは生きています。本当に必要なのは「痩せをやめさせる」ことではなく、細さ以外にも自分を肯定できる足場を、社会の側が用意していくことなのだろうと感じた取材でした。

 

山本尚恵
医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。

太田 寛

この記事の監修医師

産婦人科医師

太田寛先生

産婦人科

千葉県成田市リリーベルクリニック勤務。

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