crumiiと漢方を学ぼう #1「証」
【基礎からわかる】漢方の「証(しょう)」とは?虚証・実証・中間証の見分け方を解説 前編
なぜ漢方記事にはいつも「証」が出てくるの?
これまでcrumiiでは、様々な漢方薬について解説してきましたが、本記事に限らず、漢方の記事や解説サイトを見ていると「虚証の人に向く」「実証の場合に使う」といった説明をよく目にすると思います。似たような症状なのに、おすすめの処方が変わることを不思議に思った方もいるかもしれません。
東洋医学では、症状や病名だけを見るのではなく、その症状がどのような体の状態から起きているのかを考えます。その状態を見極め、漢方薬を選ぶときの重要な手がかりとなるのが「証(しょう)」です。
漢方における「証」|「今」のあなたの状態を示す
「証」とは、簡単にいうと、その人の体質や現在の体調、不調の現れ方などを総合して捉えた「今の状態」のことをいいます。
漢方では、主な症状だけでなく、同時に起きている不調、症状の強さ、体質、生活環境などを総合的に考え、それぞれに適した漢方薬を選びます。「証」は体質、環境、病気の性質、症状の強さなどの情報を分析して導き出すものとされています。
つまり、「私は冷え性だからこの漢方」というようにメインとなる症状だけで決まるものではありません。同じ人でも、その日の体調や年齢、季節などによって「証」が変わることもあり得ます。
西洋医学と漢方の違い|「病気を見る」か「病気になった人を見る」か
西洋医学では、検査などから病気の原因や診断を明らかにし、その病気に対する治療を行うことが基本です。このため、咳がある時には咳止めを、痛みがある時には痛みに効く薬を、感染症が判明した場合には、原因となる細菌やウイルスを殺す薬を選びます。
漢方をはじめとする東洋医学では、その病気になった人が今どんな状態にあるのかをより細かく見ていきます。
たとえば同じ「頭痛」という症状でも、冷えが強い人、水の巡りが乱れている人、血(けつ)の巡りが滞っている人、ストレスや熱が関係している人では、選ばれる漢方薬が異なります。そのため、漢方では「頭痛に効く漢方薬をください」だけでは、処方を絞り込めないのです。
同じ「頭痛」でも飲む漢方薬が変わる理由|同病異治・異病同治の考え方
漢方には、「同病異治(どうびょういち)」と「異病同治(いびょうどうち)」という考え方があります。
同病異治とは、同じ病名・症状でも「証」が異なれば、違う漢方薬を使うこと。異病同治は逆で、一見異なる病気でも、背景にある「証」が共通していれば同じ漢方薬が使われることです。
たとえば頭痛でも、水分の巡りが悪くなる「水滞(すいたい)」が中心なら水の巡りを整える処方を、冷えが強ければ温める処方を、のぼせやイライラを伴う場合には熱や気の高ぶりを整える処方などを候補にします。症状名だけで漢方薬を選ぶことはせずに、その背景にある証をみて「なぜその症状が起きているのか」によって処方を選ぶことが大切なのです。

まず押さえたい基本軸「虚証」「実証」「中間証」の違い
「証」を考えるうえで、比較的わかりやすいものさしのひとつが「虚実(きょじつ)」です。
「虚」と「実」は体力・抵抗力・エネルギーの充実度
漢方における「虚」と「実」は、単純に「体が弱い・強い」という意味だけではありません。病気やストレスなどに対して反応する力が不足しているのか、あるいは比較的しっかりしているのか、といった体全体の余力や反応の強さを見る考え方です。
大きく分けると、エネルギーや体力が不足しがちな「虚証」、比較的体力が充実して反応も強い「実証」、その中間にあたる「中間証」に分けられます。多くの漢方の教科書でも、それぞれの処方に適する体質を「虚・中間・実」として分類しています。ここからは、それぞれの分類について解説していきましょう。
①虚証(きょしょう)|エネルギー不足タイプ
虚証は、体を動かしたり不調に対応したりする力が不足しやすいタイプ。
傾向としては、線が細い、疲れやすい、胃腸が弱い、食欲が落ちやすい、冷えやすいといった特徴がみられます。また、漢方の診察では、か細く聞き取りにくい声も虚証を考える手がかりのひとつとされています。
ただし、やせ型だからといって必ず虚証体質かというと、そうでもありません。外見ではなく、疲れやすさや胃腸の状態、症状の出方などを合わせて判断します。
代表的な処方傾向は、足りないものを「補う」ものです。たとえば、疲れや食欲不振など「気」の不足が目立つ場合には補中益気湯など、体力低下や胃腸の弱さに配慮した比較的マイルドに効果を示す漢方薬が候補になります。虚証では、強く発散・排出させるより、まず体の働きを整える方向で考えるのです。
②実証(じっしょう)|エネルギー充満・滞りタイプ
実証は、比較的体力があり、不調に対する反応も強く現れやすいタイプ。
体格がしっかりしている、食欲がある、胃腸が比較的丈夫、声に力がある、暑がり、便秘しやすいといった傾向がみられることがあります。漢方の診察でも、明瞭で力強い声は実証を考える手がかりのひとつです。
実証では、何かの不足というよりも、熱や老廃物、気・血・水などが滞ったり、余分なものがたまったりしている状態を考えるケースがあります。そのため、処方としては、巡りを促したり、こもった熱を冷ましたり、余分なものを外へ出したりするものが多い傾向にあります。
漢方では、不足していれば補い、余っていれば取り去る「補瀉(ほしゃ)」が治療の基本的な考え方とされています。
③中間証(ちゅうかんしょう)|虚実のバランス型、または混在タイプ
中間証は、虚証と実証のちょうど中間くらいに位置するタイプです。「特別体力がないというわけではないが、かといって体力があるわけでもない」という人が当てはまります。
人の状態はいつもきれいに虚実の二択に分かれるわけではありません。普段は元気だけれど胃腸だけは弱いとか、体力はあるけれど、忙しい時期になると一気に疲れて体調を崩してしまうなど、虚と実の要素が混ざっている場合もあります。
中間証向けの漢方薬では、強く補ったり強く排出したりするというより、体の偏りを調整してバランスを整える処方が選ばれることがあります。

あなたはどのタイプ?「証(虚・実)」簡易セルフチェック
さて、これまでの解説を通して、自分の「証」のイメージはなんとなくついてきたでしょうか?虚証・実証を考えるときは、ご自身の普段の体調を様々な角度でチェックしてみると見えてきます。
以下のチェックリストで、どちらの傾向が強いでしょうか?
チェック項目 | 虚証寄りの傾向 | 実証寄りの傾向 |
| 体力 | 疲れやすく、休んでも消耗しやすい | 比較的元気で活動量が多い |
| 胃腸 | 食欲が落ちやすい、 胃もたれ・下痢をしやすい | 食欲があり、胃腸が比較的丈夫 |
| 冷え・暑さ | 寒がり、手足が冷えやすい | 暑がり、熱がこもりやすい |
| 汗 | 少し動いただけで汗をかく、 寝汗が気になることも | 症状によって汗が少ない、 または熱感を伴って汗をかくことも |
| 声 | 小さめ、力が入りにくい | ハリがあり、力強い |
| 体型 | 細身の傾向 | がっしりした傾向 |
| 不調時 | だるさ、食欲低下、冷えなどが目立つ | 張り、熱感、便秘、 強い痛みなどが目立つことがある |
ひとつの目安として、当てはまる項目が虚証側に多ければ「虚証寄り」、実証側に多ければ「実証寄り」と考えます。
ただし、これはあくまで簡易チェック。漢方の「証」は、顔色や舌、声、体格などを見る「望診(ぼうしん)」や「聞診(ぶんしん)」、症状を聞く「問診」、脈やお腹に触れる「切診(せっしん)」など、さまざまな情報から総合して判断します。
「冷えやすいから虚証」「体格がいいから実証」と、ひとつの特徴だけで自己判断しないことが大切です。
ここまで、漢方薬を選ぶ手がかりとなる「証」の考え方と、体力や反応の強さを見る「虚証・実証・中間証」の違い、簡易セルフチェックをご紹介しました。証は“今の状態”を表すもので、ひとつの特徴だけで決まるものではありません。
【後編】では、虚実とあわせて証を形づくる「寒・熱」「気・血・水」の視点、証に合わない漢方薬を飲んだときの注意点、迷ったときの相談の目安について解説します。自分に合った漢方選びのヒントにどうぞ。
※本記事は「漢方と365日。」の協力で作成されました。
【みんなとつくる漢方メディア 漢方と365日。】
難しいと思われがちな漢方をよりわかりやすく、そして自分事にしてほしいという願いからオープンした「漢方と365日。」
漢方体質診断「見つかる!わたしの不調スイッチ」で自分の体質を知ることができるほか、現時点での自分の体や心がどんな状態であるか確認でき、体質に合わせた生活習慣や運動などの養生法を手に入れられる。漢方の処方を受けられる医療機関の検索も可能。
▶次回:【基礎からわかる】漢方の「証」を決める寒熱・気血水とは?合わない薬を飲んだ時の注意と相談の目安 後編

















