アフターピル 緊急避妊薬 ガーナ

crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #29

緊急避妊薬がついに薬局販売へ 実際の運用は?よくある誤解は?

8月29日の薬事審議会(要指導・一般用医薬品部会)にて、緊急避妊薬(アフターピル)のスイッチOTC化が「可」と判断されました。これにより、長らく世論が求めてきた通り、緊急避妊薬が薬局で買えるようになります。

緊急避妊薬のOTC化については、2023年11月より一部の薬局で試験販売が行われていますが、16歳以上で、18歳未満の場合は保護者の同伴と同意が求められています。

今回OTC化にあたって決まったことは、

・年齢制限なし
・保護者の同伴、同意不要
・薬剤師と対面販売、面前内服

避妊が成功したかどうか(妊娠していないか)のフォローアップのため、3週間後の受診勧奨や、妊娠検査薬の販売等の確認手段の提供を薬局等に徹底することや、生理不順年齢(16歳未満)地域で連携可能なワンストップ支援センター・児童相談所・産婦人科医等をあらかじめ把握しておくなど、薬剤師のみでの対応が困難な場合に備えることなども盛り込まれています。

これまで主に産婦人科で緊急避妊薬が処方されてきましたが、注意すべきは妊娠の有無です。中にはよく問診するとすでに妊娠していることが判明するという場合もありますし、医療機関で問診を受けても妊娠に気づかれないまま、緊急避妊薬を飲むという場合も実際にあります。また、100%の避妊法ではないので、内服後に予期せず妊娠してしまうこともあります。そのため、地域の産婦人科との連携は必須と考えられます。

ネットニュースのコメントや、SNSでよく見る誤解としては、
「赤ちゃんを中絶してしまう薬だ!殺人だ!」
緊急避妊薬は排卵のタイミングを遅らせるなどして妊娠自体を防ぐ薬です。赤ちゃんができないようにするための薬で、できたあとに死なせてしまう薬ではありません。
一時期、緊急避妊薬のOTC化と経口中絶薬の承認の両方を求める世論が、インターネット上で同時に盛り上がったこともあり、両者を混同している人もいるようですが、全く違う薬です。

「日本人撲滅計画だ!子供を産ませないようにする薬だ!」
これは妊娠するかしないかという、一人一人のからだの自己決定権を担保するためのものであり、国民に子供を産ませる、産ませないというような国家権力の介入ではありません。
少子化を憂う人たちの中には、出生数を増やすためには「避妊できないようにすればいい」「中絶を禁止すればいい」というような、からだの自己決定権を侵害すればいいという考えの人もいるようなので、そういう人たちと親和性が高い意見なのだと思いますが、とんでもないことです。

緊急避妊薬は、本当に必要な人になるべく早く届けたい薬で、そのために薬局で販売してほしいという世論が盛り上がりました。ちなみに、医療機関を受診すると行える緊急避妊法としてIUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)もあり、そのまま約5年間避妊できるため、こちらがフィットする人も多いかと思います。

今後の課題は何か

薬剤師がいないと買えない

薬剤師との対面販売となっていますが、薬局には薬剤師がいない時間帯もあり、その際はいくら急いでいても買えません。筆者は以前、ゴールデンウィーク中にロキソニンSを購入したくて薬局に行きましたが、連休明けまで薬剤師さんがいないので販売できないと言われたことがあります。薬剤師がいるか事前の確認方法や、地域の薬剤師のシフトがある程度見える方法が求められるかもしれません。

アフターピル 緊急避妊薬 韓国 薬局 処方箋
韓国では処方箋が必要ということで、薬局では買えませんでした(写真提供:宋美玄)

価格 

筆者が2年前にパリの薬局で緊急避妊薬を買った時は4.8ユーロ(1000円未満)でした。しかし、今日本の医療機関で処方を受けると数千円〜一万数千円します。日本では卸値自体が高く、すぐに求めやすい価格になるのは難しいですが、経済的に本当に困った人がどのように手に入れられようにしていくかは今後の課題です。

日本では、海外で安全に使われている薬でも、国内で承認を受けるためには治験を始め諸手続き必要で、それらに莫大なお金がかかります。そのため、ドラッグラグと言われる時間のロスや、費用面の問題が発生します。これはどの薬もそうで、制度上やむを得ないものです。市場原理に任せる限り、すぐに数百円になるのは難しいと思われます。

アフターピル 緊急避妊薬 パリ
パリで購入した緊急避妊薬(写真提供:宋美玄)

誰にとって便利か

緊急避妊薬のアクセスが良くなることは、女性にとってメリットであることは間違いありませんが、男性にとっても都合が良くなるという側面もあります。真に一人一人が自分のからだのことを自分で決めるためには、緊急避妊薬のアクセス改善だけでなく、女性が主体的に行える確実な避妊方法の普及(ピルやIUSなど)、男性が主体的に行える避妊と性感染症予防のためにコンドームの重要性が確認されること、性的行為に対して同意の確認が大切という意識が当たり前になること、などが必要です。

実際に、緊急避妊薬を求めて医療機関を受診する女性の中には、性交には同意していたが、コンドームなしのセックスには同意していなかったという人や、ステルシング(コンドームを途中で外す性暴力)に遭ったという人も少なくなく、両者同意のもと安全なセックスを行うためには、性教育を充実させ、SRHR(からだの自己決定権)、自分だけでなく相手にもからだの自己決定権があることをインストールしていく必要があります。こちらについて、多くの方が多方面から尽力されていますが、まだまだ世論の後押しが必要です。

緊急避妊薬の市販化については、市民活動をされた方々、医療の専門家、政治家、行政の方達がそれぞれの立場で尽力してくださり実現した。そして何よりも、国民のみなさん一人一人が声を上げてくださったことが大きいです。

一人一人の声はSRHRを前進させられる。これからも声を上げ続けることをcrumiiでは応援していきたいです。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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