薬局 アフターピル

crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #08

緊急避妊薬(アフターピル)「ノルレボ」を市販薬としての製造販売の承認を申請。承認された場合、全国の薬局で薬剤師と対面して購入可能に

緊急避妊薬(アフターピル)「ノルレボ」製造販売元のあすか製薬が厚労省に市販薬としての製造販売を申請

今回のニュースピックアップはこちら。

 

【緊急避妊薬「ノルレボ」、処方箋なし市販薬の承認申請…あすか製薬(読売新聞オンライン)】
 

望まない妊娠を防ぐ緊急避妊薬(アフターピル)「ノルレボ」について、製造販売元のあすか製薬は15日、医師の処方箋なしに薬局で購入できる市販薬としての製造販売の承認を厚生労働省に申請したとの報道です。アフターピルは現在医師による処方が必要ですが、厚労省の調査事業で、16歳以上を対象に処方箋なしでの試験販売が一部薬局で2023年11月から行われていて、同社は昨年6月、市販薬に切り替える申請を出していたとのことです。
 
ノルレボは、避妊に失敗した場合や避妊を行わなかった性交後に、妊娠を防ぐために使用される緊急避妊薬です。レボノルゲストレルという黄体ホルモンが主成分で、主に排卵を遅らせたり抑えたりすることで受精を防ぎます。性交後72時間以内に1錠を服用することで高い避妊効果が得られますが、服用が早ければ早いほど効果は高く、妊娠を約85~95%の確率で防ぐとされ、あくまで緊急時の選択肢とされています。服用後には吐き気や頭痛、不正出血といった軽度の副作用が見られることもありますが、通常は一時的なもので、怖い副作用は特にありません。ノルレボは日常的な避妊方法ではなく、緊急時のみに使用される薬です。妊娠を希望していない時期には毎日内服するタイプのピル(低用量ピル)やIUS(子宮内黄体ホルモン放出システム)など確実性の高い方法で避妊することが推奨されています。
 
一方で、ピルを飲み忘れたり、コンドームを確実に使用できなかった場合(最初からつけていなかった、射精した後すぐに抜去しなかった、コンドームが膣内に残ってしまった、破損した、など)というのは誰にでも起こり得ることです。前もって行う避妊法のバックアップとして、アクセスを良くすることはSRHR(セクシャルリプロダクティブヘルス/ライツ)の観点から非常に重要です。

 

諸外国では薬局で簡単に買うことができるが、日本で慎重優勢な理由もそれなりに頷ける

ノルレボが国内で承認販売されたのは2011年のことでした。それまで日本では正式に承認された緊急避妊薬は存在せず、中用量ピルを用いた「ヤッペ法」が使われていました。これは避妊率もノルレボより低く、副作用の程度も大きかったので、ノルレボが承認された時は大きなニュースとなりました。一方、承認までに時間を要したこともあり、費用が高いのが難点でした。(約1~2万円、現在はジェネリック薬が出ていてもう少し安いです)そして、医師の処方が必要なため、医療機関を受診しなくてはなりません。すぐに予約できなかったり、近くに婦人科クリニックがない地域があったり、GWや年末年始など長い休みの時は72時間以内にアクセスできなかったり、決してアクセスがいいとは言えません。
 
海外では緊急避妊薬を薬局で売っている国が多く、私が先日JOICFP(ジョイセフ)という国際協力NGOのプロジェクトの視察で訪れたガーナでも薬局で簡単に買うことができました。(発展途上国には支援が入っているので値段も約50円。10代の少女が買える価格とのことでした)また、一昨年訪れたフランスでも薬局で買えました。(約5ユーロで日本円で800円ほどでしたが、日曜日には買えませんでした)

 

【フランス・パリの薬局で「緊急避妊薬(アフターピル)」買ってみた!】
 
日本でも薬局で販売してほしいという世論が高まっていましたが、日本医師会、日本産婦人科医会、日本薬剤師会はいずれも慎重な姿勢でした。悪用や、ピルなどの確実性の高い避妊法から遠ざけてしまうことへの懸念、性教育が不十分であることなどがその理由です。私は個人的に薬局で販売することに賛成の立場を取ってきましたが、慎重な姿勢を示す理由に対してはどれもそれなりに頷ける部分はあると思います。決して緊急避妊薬にアクセスさえできればいいということではなく、低用量ピルやIUSも安全な形で普及させる必要がありますし、そのためには地域の薬局と産婦人科医療機関が連携し、普段からより多くの女性に産婦人科にかかりつけて下さるようにハードルを下げ、男女共に自分や他者のからだの自己決定権を尊重し、計画的な避妊法も知れるように性教育を充実させていく必要があると思います。現状、日本のSRHRにおいては、多面的に改善していく必要がありますし、緊急避妊薬が薬局で買えるようになることはいつかは絶対に必要なので、その一歩として製薬会社が申請してくれたということは非常に喜ばしいことだと思います。


 緊急避妊薬は妊娠が成立するのを防ぐもので、中絶したり流産させたりする薬ではない

アフターピル
photo:PIXTA

 

SNSなどでの反応は概ね良好ですが、中には「緊急避妊薬」と「経口中絶薬」を混同している人もいるようです。これは実は結構よくあることで、数年前まで緊急避妊薬の薬局販売を求める声と経口中絶薬を承認してほしいという声が同時多発的に起こっていたためです。非常に有名な人が公共放送で混同した発言をしたこともあります。読者の皆様にとっては常識と思いますが、緊急避妊薬は妊娠が成立するのを防ぐものなので、中絶したり流産させたりする薬ではありません。
 
今回の申請が承認されるかは分かりませんが、承認された場合、全国の薬局で薬剤師と対面して購入することになります。薬局が空いていても薬剤師が不在の時間帯もあるでしょうし、アクセスが完璧というわけではないかもしれませんが、今よりもだいぶ良くなると思います。
 
もう一つ、費用面がどうなるかも注目のポイントです。私は開業医なので現在の緊急避妊薬の卸値を知っているので、市場価格が海外に比べて非常に高いことも止むを得ないとわかっていますが、今度はまた別の力学で値段が決まるので、今度こそ必要な人が買いやすい価格になるといいなあと思っています。
 
いずれにしても承認申請まで行ったことはとても大きいことです。結果が出たらまたこちらでもお伝えしようとおもいます。 

 

宋美玄

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

 

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