
【ピンクリボン月間】特別体験談:乳がん(前編)
39歳で乳がん発覚! 治療か仕事か…スタジオを開業したばかりの女性カメラマンが下した決断とは
今年2月、友人で漫画家の小川かりんさんと共作したコミックエッセイ『日々是好日(にちにちこれこうじつ)~39歳フリーランスカメラマン乳がんになる』を発表した、CHOCOさん。乳がんの発見から治療に至るまでの話を詳しくお聞きしました。
(この記事は全2回の1回目です)
左脇の下に小さなしこりを発見
「初めて“あれっ?”っと思ったのは、お風呂で体を洗っていたときでした」
2023年6月下旬、フリーランスカメラマンのCHOCO(ちょこ)さんは、胸の辺りを手で洗っていたとき、手がツルッと滑って左脇のほうへと流れ、小さなしこりのようなものに触れたといいます。けれども、再び触ると見つからず、最初は気のせいだと思ったそうです。
「それから2週間後の7月1日、やはり体を洗っているときに再び左胸のしこりのようなものに触れました。でも、“あれ? これかも?”というくらい。はっきりわかるというほどではなく、しこりがあるような、ないような感じです」

乳がん検診は科学的根拠に基づいて、40歳から2年に1回マンモグラフィー検査をすることが推奨されています。が、当時のCHOCOさんは39歳。まだ、がん検診を受けていませんでした。
CHOCOさんとしては、「もうすぐ自治体のがん検診が受けられるんだから、少し待ってみてもいいかも」と思ったそうです。しかし旦那さんはもちろん、友人や息子さん(当時中1)にも心配され、病院に相談したところ「症状があるときは、検診を待たずに受診してください」と言われて、すぐに検査へ行くことにしました。
「この年の3月、知人から居抜きで譲ってもらった写真スタジオをオープンし、撮影の仕事への意欲に燃えていたところでした。まさか乳がんのはずはないけど、お客さまにご迷惑をおかけしてもいけないし、早めに行っておこうという軽い気持ちで病院を受診したんです」
その翌日、旦那さんに付き添われて病院へ検査に行くと、触診後のマンモグラフィーで黒い影のようなものが見つかり、すぐに追加で乳腺エコー検査、針生検を行うことに。さらには、あらかじめMRIやCTの予約を取っておこうと提案されました。
「医師に乳がんである確率を聞いてみたら、『十分にありえると思ってください』と言われて、とても驚きました。でも、この時点では、私はまだ『何かの間違いだろう』『先生が念のため悪いふうに伝えてくれているだけだろう』と思っていたんです」
CHOCOさんがそう思ったのは、第1に乳がんは40歳以上に多いのに30代だったこと、第2に家族や親族に乳がんや女性特有のがんになった人がいないこと、第3に体のいろいろな部分に吹き出物がでやすい体質なので今回もそうだろうと思ったこと、が理由でした。
初期の乳がんだと告知を受けて
その1週間後の7月14日、検査結果を聞くために病院を受診したCHOCOさん。乳がん(正式には「浸潤性乳管がん」)で、がんのサイズは15mmでステージ1、トリプルネガティブタイプだと告知されました。
乳がんには、がん細胞が乳管内にとどまっている「非浸潤がん」、周囲に広がっている「浸潤がん」があります。さらに、がんの性質によって、ホルモン治療が有効な「ホルモン受容体陽性乳がん」、抗HER2療法が有効な「HER2陽性乳がん」、ホルモン治療も抗HER2治療も効かず抗がん剤治療が有効な「トリプルネガティブ乳がん」の3種類に分けられます。
CHOCOさんは初期だったということにホッとはしたものの、進行が早く、ホルモン剤が効かず抗がん剤を使うことになる『トリプルネガティブタイプ』だと告知され、目の前が真っ暗になったといいます。
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『日々是好日』より引用 ©︎小川かりん |
「カメラマンは、非常に体力を必要とする仕事です。抗がん剤を投与しながら仕事を続けられるだろうか、と思いました。しかも、スタジオを開業したばかり。まだ軌道に乗っておらず、家賃を払いながら治療をすることは困難だと思いました」
さらに悪いことに、CHOCOさんはがん保険に加入していませんでした。高額になるだろう抗がん剤代を含む治療費、これか始まる七五三などの撮影シーズン、そしてスタジオの維持費を考えると、「今すぐ死ぬわけではないだろうし、がん治療は後まわしにしてもいいのでは」と思ってしまったそうです。
「もちろん、理性ではちゃんと、がん治療を後まわしにすることはできないとよくわかっていました。それでも結婚して出産して子育てが一段落して、やっと自分のスタジオを持ち、これから自分の好きな写真の仕事に頑張って打ち込むつもりだったのに……と、どうしても諦めきれない思いがあったんです」
がんと診断されても、その時点では胸に何か目に見える異常があるわけでもなく、どこかに痛みがあるわけでもなく、元気に暮らしているのに、仕事を中断せざるを得ないこと、副作用で体調が悪くなるだろう抗がん剤治療を始めるのがつらかった、とCHOCOさん。
それでもよく考えてスタジオは閉めることにし、前オーナーにご挨拶に行ったそうです。
「せっかく大切なスタジオを譲ってくださったのにすみませんと謝る私に、『私に謝ることはないよ。それにスタジオは一つの手段。CHOCOさんの撮影スキルも機材もなくなるわけではないんだから、いつでも写真は撮れる』と励ましてくださって、『そうだ、終わりじゃないんだ』と少しだけ気持ちが晴れました」
同じ頃、CHOCOさんは高校からの友人で、スタジオのロゴなどを作ってくれていたイラストレーターで漫画家の小川かりんさんにも乳がんのことを伝えました。
「乳がんのことを知りたくて調べても、なかなか欲しい情報がないので、自分で体験記を書こうと思っていると話したら、それをコミカライズしてくれるとのこと。それなら最初からコミックエッセイにしてもらいたいと伝えたところ、快諾してくれました」
気持ちが追いつかずパニックに
7月頭にしこりに気づき、すぐに病院を受診して針生検をし、7月14日に乳がんの告知を受け、MRIやCT検査をし、認定看護師さんと打ち合わせをして「仕事の都合があるので、抗がん剤治療は9月から開始したい」と伝え、7月27日に初めて内科の主治医と治療方針について話すことに。
主治医は、トリプルネガティブタイプは進行が早いので先に抗がん剤治療を行い、その後に手術をして左胸を全摘するのがいいと詳しく説明してくれました。ところが、抗がん剤治療の開始日は、なんと4日後の7月31日にしようと言われてしまったのです。
「認定看護師さんには抗がん剤治療は9月からにしたいと話していたし、8月の仕事はどうしようとパニックになりました。ただ、主治医からは『1か月も待つと、がんの大きさが2倍になるかもしれない』と言われ、即決を求められたので仕方なく同意したんです」
翌日、持病の治療でかかりつけのクリニックに行ったCHOCOさんは、信頼している医師に乳がんであること、A病院で治療を開始することを打ち明けたところ、「どうしてA病院にしたの? 私ならC病院にする」「ずいぶん急だね」などと言われて不安が爆発。
帰宅前に友達に電話をして話を聞いてもらって落ち着いたものの、本当にその病院でいいのか、急いで治療を開始していいのかどうかわからなくなり、看護師をしているいとこのお姉さんに20年ぶりに連絡したそうです。

「いとこは早期発見・早期治療できることを喜んでくれ、主治医の判断は正しいと思うと教えてくれました。ただ、急展開すぎて気持ちがついていかないだろうし、納得できないまま治療を開始するのもよくないので、再び認定看護師に相談することを勧められたんです」
そこで認定看護師に電話し、急すぎて気持ちがついていかず、病院に対して不信感を持ってしまったことを素直に伝えたCHOCOさん。
すると看護師さんは、CHOCOさんのためによかれと思って急いで予定を組んだこと、一方で、気持ちに寄り添えていなくて申し訳なかったと言ってくださったそう。さらに、抗がん剤治療を開始する7月31日の朝に再び主治医と一緒に話して、納得できたら治療を開始するということになったのです。
「今、冷静に考えると、検査から診断、治療まで驚くほどスムーズに進み、本当にありがたいことでした。でも、だからこそ、あまりに急すぎて気持ちがついていかなかったんです。でも、認定看護師さんが気持ちを受けとめてくれたおかげで少し前向きになれました」
今の病院で抗がん剤治療をすぐ始めるのか、治療開始を遅らせてでも他院へ転院するのか、または他院にセカンドオピニオンのみを求めるのかーー迷いに迷ったというCHOCOさん。
7月31日の朝は、ほとんど眠れないまま病院へ向かったそうです。そこで、主治医にさまざまな疑問を投げかけたところ、思いがけないほど丁寧にしっかり答えてくれたとのこと。例えば、抗がん剤をその病院で行って手術は他の病院で受けることが可能なのか、抗がん剤治療後はどのくらいの日数で回復するかなど。
「最初の面談時は圧迫面接のように感じましたが、思い込みもあったんだと思います。きちんと目を合わせて主治医と話したら、私の疑問に丁寧に答えてくれて信頼できると思えました。それで納得して、抗がん剤治療を受けようと決意したんです」
もともと、CHOCOさんは「抗がん剤は毒」「抗がん剤は効かない」といった不正確なウワサを信じたことはなく、現代の医療を信頼していたとのこと。それでも治療開始を躊躇してしまったのはどうしてかというと……。
「この段階でも、まだ自分が本当にがんになったなんて信じられなかったんですよね。あと、当時はすごく体調もよく元気だったから、一時的にでも確実に体調が悪くなる抗がん剤を始める勇気が出なかったんです」
がんの診断を受けてからまだたった半月で、無理もないことでした。が、CHOCOさんは気持ちを切り替えて、すぐに治療を開始することに決めたのです。
(次回に続く)

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<Instagramもぜひチェック!>
CHOCOさん https://www.instagram.com/choco_phototime/
小川かりんさん https://www.instagram.com/ogawacarin/
小西孝明【監修者】
外科専門医、乳腺認定医、医学博士。千葉大学を卒業後、日本赤十字社医療センターの外科で臨床経験を積み、東京大学大学院では医療ビッグデータを用いたがんや外科治療に関する臨床疫学研究により博士号を取得。より良い医療を患者さんに届けるため、現場の視点を重視した研究によるエビデンス創出、さらに患者さん・医療従事者に向けた正確で分かりやすい医療情報の発信に力を入れている。趣味は鉄道旅行。
大西まお
編集者、ライター。出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な編集担当書は、宋美玄著『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』、森戸やすみ著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、名取宏著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。