気になるキーワード 「産後の生理」#4
産後の生理対策③:ジエノゲスト|生理痛・子宮内膜症の治療薬。避妊は併用を。
日々診療をしていると、産後に生理が再開して、「出産前より生理痛がひどくなった」「経血量が増えてつらい」と感じる方もいらっしゃいます。また、妊娠前から子宮内膜症や子宮腺筋症を抱えていた方は、産後に症状が再燃することもあります。
そうした生理の痛みや病気の治療に重点を置いた選択肢として紹介するのが、ジエノゲスト(商品名:ディナゲスト)です。
ジエノゲストってどんな薬?
ジエノゲストは、黄体ホルモン(プロゲスチン)の一種で、子宮内膜症・子宮腺筋症の疼痛(とうつう)改善や月経困難症の治療に使われる薬です。スリンダと同様、エストロゲンを含まない黄体ホルモン単剤のため、血栓症のリスクが低い点はスリンダと共通していますが、治療薬としての位置付けで、保険が適用されます。
「内膜を薄くする+排卵を止める」治療
ジエノゲストの主な作用は、ミレーナと同じく「子宮内膜を薄く保つ」ことです。
子宮内膜が厚くなると、はがれるときの出血量が増えて(過多月経)、同時に内膜から放出される痛み物質(プロスタグランジン)も増えるため、生理痛もひどくなります。ジエノゲストは子宮内膜の増殖を直接抑えることで、この悪循環を断ち切ります。
さらに、卵巣に働きかけて排卵そのものを抑制するため、月経自体を止めてしまう作用もあります。結果として
・生理痛が軽くなる、またはなくなる
・経血量が減る
・子宮内膜症の病巣が縮小する
・月経血の腹腔内への逆流が減り、子宮内膜症の進行予防にもつながる
といった効果が期待できます。なお、ジエノゲストは排卵を抑制する作用がありますが、「避妊薬」としての承認は受けていません。避妊を目的とする場合は、別途避妊法を併用する必要があります。

避妊薬としての承認は受けていないため、コンドームなどの併用が必要。Photo:PIXTA
育児中にジエノゲストがおすすめな理由は?
ジエノゲストが産後のママに向いているケースはいくつかあります。
1)生理痛がつらい人に、痛みの改善効果が期待できる
ジエノゲストは、子宮内膜への直接的な抑制作用に加え、痛み物質であるプロスタグランジンの産生も抑えるため、低用量ピルよりも痛みへの効果が高いとされています。産後に「以前より生理痛がひどくなった」「鎮痛剤が手放せない」という方には、対症療法(痛み止め)から一歩踏み込んだ選択肢になり得ます。
2)治療目的なので保険が使え、経済的な負担が小さい
後ほど費用の項で詳しく触れますが、ジエノゲストは月経困難症や子宮内膜症・子宮腺筋症の治療薬として保険適用されます。育児中は何かとお金がかかる時期ですから、これは大きなメリットです。
3)血栓症のリスクが低い
エストロゲンを含まない黄体ホルモン単剤なので、低用量ピルで懸念される血栓症のリスクが低く、産後の体にもやさしい選択肢です。
4)子宮内膜症・子宮腺筋症を持っている人には治療の再開
妊娠前から内膜症や腺筋症の治療を受けていた方は、妊娠・出産で治療を中断しています。産後に症状が再燃した場合、ジエノゲストで治療を再開できる点は重要です。一度月経フリーの生活を手にした方からは「もう月経のある生活には戻れない」という声もあるほどです。
授乳への影響は?|添付文書では「授乳しないことが望ましい」
ジエノゲストの産後利用における注意点は授乳との関係です。ジエノゲストは動物実験で母乳への移行が確認されており、添付文書上は「授乳中の婦人には投与しないことが望ましい」と記載されています。つまり、授乳中は原則としてやめてね、という薬です。
この表現は「禁忌(絶対に使ってはいけない)」という意味ではありませんが、使う場合には授乳を中断するか、医師と十分に相談したうえでの慎重な判断が必要です。
この点で、授乳中でもOKなミレーナやスリンダとは大きく事情が異なります。産後に授乳を続けながら生理対策をしたい方には、ジエノゲストよりも先にミレーナやスリンダを検討しましょう。逆に、すでに卒乳している方や、もともとミルク育児の方にとっては、この制約は関係ないので、候補になります。

Photo:PIXTA
「1日2回」の内服、育児中に続けられる?
ジエノゲストは1日2回、12時間ごと(たとえば朝と夜)に内服する必要があります。半減期(薬の効き目が半分になるまでの時間)が約7時間と短めのため、服薬間隔がずれると不正出血の原因になりやすいとされています。
スリンダの1日1回でさえ「育児中に毎日同じ時間は大変」というハードルがある中、1日2回はさらに高いハードルになるかもしれません。
ただ、ユーザーの皆さんからは習慣化してしまえば意外と続けられるという声も多く、スマホのアラーム機能などを活用したり、歯磨きなどの毎日のルーティンとセットにしたりしている方が多いようです。
費用は?保険は使える?|治療目的なら保険適用
ジエノゲストの大きなメリットのひとつが、保険適用で使えることです。
月経困難症(0.5mg)や子宮内膜症・子宮腺筋症(1mg)の治療として処方される場合、公的医療保険の対象になります。自己負担(3割負担の場合)は、薬剤の値段だけで見ると月に1,000円程度で済む計算です。(実際には、再診療や定期診察の費用などもかかります)
スリンダが自費で毎月3,000〜4,000円かかるのに対し、ジエノゲストは保険適用で経済的負担が小さいのは、育児中の家計にはありがたいと思います。
ただし、保険適用になるためには「月経困難症」や「子宮内膜症」などの診断が前提となります。特に症状がなく、避妊だけが目的の場合には、そもそもジエノゲストの適応にはなりません。
注意点とリスク|不正出血は「9割」が経験する
ジエノゲストの最大のデメリットは、不正出血の頻度の高さです。添付文書によると、服用開始後、9割近い方、つまり内服されている方のほとんどが不正出血を経験するとされており、最初の半年間は、少量〜中等量の出血が断続的に続くことがあります。
ミレーナやスリンダでも不正出血は起こりますが、ジエノゲストはその頻度が際立って高いお薬です。育児でただでさえ余裕のない中、半年間も不正出血が続く可能性があることは知っておきましょう。
ただし、多くの場合は半年ほどで落ち着き、その後は月経がほとんど来なくなる方も多いので、「最初の半年を乗り越えれば生理がなくなってとても楽になる」というのが、ジエノゲストを長く使っている方からよく聞かれる声です。

Photo:PIXTA
ジエノゲストまとめ|向いている人、いない人
ジエノゲストが特に向いているのは、以下のような方です。
・産後の生理痛がひどく、鎮痛剤では追いつかない
・妊娠前から子宮内膜症や子宮腺筋症の診断がある
・授乳はすでに終了している(またはミルク育児)
・治療目的で保険を使いたい
逆に、以下のような方は他の選択肢を先に検討するほうが良いかもしれません。
・現在授乳中で、授乳を続けたい
・避妊を主な目的としている(ジエノゲストは避妊薬ではない)
・1日2回の服薬を続ける自信がない
産後ママの生理対策、選択のポイントは?
ここまでの連載記事でミレーナ・スリンダ・ジエノゲストの3つの対策を紹介してきましたが、「結局私にはどれがいいの?」と迷う方も多いと思います。
大前提として、産後の体の状態(子宮や卵巣の回復具合、授乳の状況、もともとの婦人科疾患の有無など)は人それぞれですし、授乳の有無によって生理の戻りもケース・バイ・ケース。治療薬の適応を含め、まずは婦人科で相談・精査してもらうところから始めましょう。
そのうえで、おすすめの対策をざっくり分類するとしたら以下のような感じになります。
避妊が最優先で、かつ「毎日同じ時間に飲めそう」なら
→スリンダ(ミニピル)は良い候補。エストロゲンフリーなので、従来のピルが使えなかった方にも選択肢が広がります。ただし自費になります。
飲み忘れが不安で、避妊も生理もまとめてラクにしたいなら
→ミレーナがおすすめ。一度装着すれば最長5年間、自動運転です。治療目的なら保険も使えます。開始後しばらくは不正出血が続くことがあるので、そこは心の準備を。
痛みや病態(内膜症・腺筋症など)の治療が最優先なら
→ジエノゲストが有力候補。保険が適用されるので費用も抑えられます。ただし、授乳中は注意が必要な薬なので、授乳を続けるかどうかも含め、薬剤の選択は医師に相談を。

本文をもとにAIにて生成
どれを選んでも、合わなければ後から変更することもできます。「生理がつらいけど育児中だし仕方ない」と我慢せずに、まずは産婦人科で相談してみてください。
この記事は4回連載の4回目です。
→ 総論 産後の生理が戻ってくるタイミングや注意点とは?(先一昨日の記事)
→【ミレーナ】飲み忘れしにくい・避妊と治療を同時に(一昨日の記事)
→【スリンダ】産後早めに飲める国内初のミニピル(昨日の記事)
→【ジエノゲスト】生理痛・内膜症の治療に特化した保険適用の治療薬(この記事)
<参考文献>
バイエル薬品 ミレーナ使用の手引き
あすか製薬 スリンダ 添付文書
持田製薬 ジエノゲスト 患者向医薬品ガイド
UKMEC 2025(College of Sexual and Reproductive Healthcare)英国の避妊適応基準
















