女性 腹痛

【医師監修】生理痛は当たり前?病気なの?痛みの原因と緩和ケアで辛い日々を乗り切る

生理が始まるたびに辛い痛みに悩まされているけど「仕方がない」「生理なんて誰でもこんなもの」と我慢していませんか?
 

生理痛は多くの女性が経験するものですが、痛みの感じ方には個人差がありますし、なかには病気が原因で強い痛みを引き起こしている可能性もあります。今回は、生理痛が起こるメカニズムや考えられる病気、そして生理痛を和らげる方法について解説します。

生理痛はなぜ起こるのか?

犯人は、「プロスタグランジン」という痛み物質

そもそも生理中に痛みが起こる主な原因は、子宮内の不要になった子宮内膜を体外へ排出するときに分泌される「プロスタグランジン」という物質にあるとされています。プロスタグランジンは子宮を収縮させる働きがあり、経血を体外へ排出するのに一役買ってくれますが、この収縮が強いとおなかの痛みや腰の痛みが生じやすくなります。
 

また、排出の際には骨盤周辺の血流が滞ることで下腹部の痛みや、ズーンとした重苦しい感覚を感じることもあります。痛みの感じ方や強さは人それぞれですが、なかには痛み止めが手放せない人や、寝込んでしまうほど症状が重い人もいます。

 

病気の可能性も

病気が原因で痛みが強くなるケースもあります。代表的なのが「子宮内膜症」「子宮腺筋症」「子宮筋腫」などです。こうした病気による生理痛を「続発性月経困難症」と呼び、痛みが悪化したり、長引いたりしやすい特徴があります。

 

※注釈 子宮内膜とは
子宮の内側を覆う膜のことを指します。もともとは受精卵が着床するための準備を整えるために生理周期の中で厚みを増し、妊娠が成立しなかった場合には経血となって剥がれ落ちます。

 

生理痛の症状はどんなものがある?

生理痛と一言でいっても、人によって症状の現れ方はさまざま。よくみられる症状としては以下のようなものがあります。

 

おなか(下腹部)の痛み

もっとも代表的なのは下腹部の痛みです。プロスタグランジンの増加による子宮の強い収縮が、この腹痛を引き起こすことが多いとされています。温めると和らぐことが多いのが特徴です。チクチクと刺すような痛みや重苦しい鈍痛など、人によって感じ方はさまざまです。痛みの度合いには個人差があり、軽い違和感程度の人もいれば、鎮痛薬がないと生活に支障をきたすほど痛む人もいます。

 

頭痛

生理にともなうホルモンバランスの変動やストレスなどで、頭痛を感じる場合もあります。とくに偏頭痛(片側または両側のこめかみ付近がズキンズキンと脈打つように痛む頭痛)のある方は、生理期間中に頭痛が増すことがあります。寝不足や疲れなども頭痛を悪化させる要因になりやすいとされています。

 

腰の痛み

腰痛は下腹部痛に並ぶ月経痛の典型的な症状の一つで、骨盤部の痛みが腰に響いて腰痛となって現れます。

 

吐き気

生理痛がひどいときに吐き気を感じる方も少なくありません。これは子宮収縮を促すプロスタグランジンの増加や、痛みに伴う自律神経の刺激が原因と考えられています。吐き気の症状が強い場合は、食事のとり方を工夫したり、必要に応じて吐き気どめを活用すると良いでしょう。

 

痛みがツラくなる原因は?

生理痛は、医学的には「月経困難症」というれっきとした病気です。
 

特に病気などの特定の原因はない場合を機能性月経困難症、子宮や骨盤内にある他の病気から生じている場合を器質性月経困難症といい、背景に隠れている病気の有無によって名前が分かれます。
 

生理痛が強くなってしまう背景には、女性特有の子宮や卵巣の病気が隠れている場合があります。以下に代表的な疾患を紹介します。これらは、子宮や卵巣の様子を超音波検査(エコー)で確認することでみつけることができます。多くの場合、治療で痛みは緩和できるので、婦人科で定期的にフォローを受けておきましょう。

 

子宮内膜症

本来は子宮の中にしか存在しないはずの子宮内膜やそれに似た組織が、卵巣や子宮の外側、腹膜など子宮外の場所に発生・増殖する病気です。
 

婦人科疾患の中では頻度の高い病気です。程度や病変の所見により、手術が必要になる場合もありますし、薬で治療することで付き合っていくことができる場合もあります。生理のたびに出血が起こり、周囲の組織に癒着(くっつくこと)を引き起こすため、強い痛みを伴うことが多いです。進行すると不妊の原因になることもありますので、生理痛がある方は、一度婦人科で診察をうけることをおすすめします。

 

子宮内膜症
子宮内膜症 画像:PIXTA

 

子宮腺筋症

子宮腺筋症(しきゅうせんきんしょう)は、子宮内膜症の一種で、子宮の筋肉の中に子宮内膜組織が入り込んでしまう疾患です。子宮の一部、もしくは全体的に大きくなるケースが多く、生理のたびに進行して、強い痛みや大量の出血をもたらすことがあります。進行すると子宮が硬く大きくなるため、下腹部の不快感が持続することもあります。

 

子宮腺筋症
子宮腺筋症 画像:PIXTA

 

子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)

子宮筋腫は子宮にできる良性の腫瘍(しゅよう:できもの)のことで、発生する部位によっては生理痛を悪化させたり、経血量を増加させたりします。大きくなった子宮筋腫が子宮内膜を刺激することで、痛みを引き起こす場合もあります。良性とはいえ、症状の程度、筋腫の位置や大きさによって治療が必要になる場合があります。

 

子宮筋腫
子宮筋腫 画像:PIXTA

 

生理痛を和らげるために自分でできる対処法はある?

生理痛の対処法として、市販の鎮痛剤を使用したり、温めたり体操をしたりといったセルフケアで済ませている人もたまにいますが、根本的な解決をすることはできません。一度は婦人科にいき、エコーで痛みの原因になる病気がないかどうか、調べてもらいましょう。
 

そうすれば、治療の方法は自分で選べますし、そもそもの生理の回数を減らしたり、全く出血を起こらなくする方法もあります。自分の状態や生活スタイルに合った治療方法を選ぶことが大切です。以下に、症状別の対処法をまとめました。

 

腹部や腰の痛みの場合

鎮痛薬の服用

市販の鎮痛薬(イブプロフェンやロキソプロフェンなどのNSAIDs:エヌセイズ)を生理痛が始まる前や、痛みを感じ始めた段階で服用することで痛みの悪化を予防できます。ただし、用法・用量を守り、持病がある方は医師や薬剤師に相談してください。痛み止めがロキソニンじゃないと効かない、連日内服しないと日常生活が送れないなどの場合は、迷わず婦人科に相談しましょう。

 

温める

下腹部や腰をカイロや湯たんぽで温めると、痛みが和らぎやすくなります。温熱シートや入浴も効果的です。

 

頭痛の場合

偏頭痛の薬や鎮痛薬の使用

生理周期とともに頭痛が起こる方は、頭痛外来や婦人科で相談すると適切な治療法や薬を提案してもらえます。鎮痛薬だけでなく、偏頭痛に特化した薬もありますので、医師にご相談ください。

 

十分な休息をとる

生理期間中は体調の変化も起こりやすいです。睡眠不足やストレスを避け、リラックスできる環境を整えましょう。

 

吐き気がする場合

食事内容の工夫

胃腸に負担をかけにくい食事(お粥やスープなど)を選んだり、こまめに水分を補給したりすることで吐き気を和らげる効果が期待できます。

 

制吐剤(吐き気どめ)の使用

吐き気が強い場合は、制吐剤を処方してもらうのも一つの方法です。市販の吐き気止めを選ぶ際も、薬剤師に相談してから使用しましょう。

 

鎮痛薬を使う時の注意点。「痛くなる前に」早くのむ

早いほど痛みは早くおさまる

頭痛薬などのお薬を、痛いけど限界まで我慢してから飲む、という人は多いのですが、痛みはじめたらできるだけ早く、むしろ「あ、痛みが来そうだな」と思ったらすぐに飲むことが大切です。
 

市販されている鎮痛薬は、用法、容量を守って正しく使えば、クセになったりすることはなく安全に使用できます。

 

医療機関でできる対処法は?

生理痛は決して「我慢するのが当たり前」の症状ではありません。もし痛みが強いようであれば、ぜひ産婦人科で相談し、適切な治療を受けてください。無理せず、自分の体に優しい過ごし方を見つけていきましょう。


生理痛が強い場合や、セルフケアでは改善が難しい場合に「月経困難症」の診断を受けて婦人科で受けられる治療は以下のようなものです。月経困難症の治療薬の多くは保険適用されており、保険で治療をすることも可能です。

 

ミレーナ(子宮内黄体ホルモン放出システム)の挿入

ミレーナは、子宮の中に入れるT字のような形状をした小さな器具で、黄体ホルモンをじわじわと持続的に放出します。生理ではがれ落ちる子宮内膜(子宮の内側の膜)が厚くなりにくくなるため、生理痛や経血量の減少が期待できます。月経困難症や過多月経の治療法として保険適用されています。(自費の場合もあります)


長期間(5年間)効果が持続し、避妊効果もありますが、挿入時に痛みや出血が生じることもあります。医療機関によっては、挿入時に麻酔の対応をしてくれるところもあります。まれに位置がずれて効果が薄れたり、外れてしまったりするおそれがあるので、エコーによる定期的な位置チェックが必要です。

 

ピル(経口避妊薬)の使用

ピルは、女性ホルモンを含む飲み薬です。現在は日本でも様々な薬剤が承認されていますが、大まかに避妊薬は自費診療、治療薬は保険適用になります。


内服のお薬でホルモンバランスを整え、子宮内膜が過度に厚くなるのを抑制し、生理痛や経血量を軽減します。毎日1回、同じ時間帯に飲む薬剤で、薬剤によって休薬期間(薬を飲まない日)を4〜7日はさみます。この休薬期間に生理のような出血があります。


休薬のタイミングを調整することで、月経の時期をコントロールできるようになったり、連続して服用することで、年間に起こる生理の回数を減らすことができる薬もあります。


避妊効果も期待できますが、年齢の高い方や喫煙者、持病のある方など一部の方は血栓症などのリスクがあるため服用できないケースがあります。他の方法も含めて医師と相談しましょう。
 

黄体ホルモン製剤の使用

黄体ホルモン製剤は、ピルと同様に子宮内膜を厚くしすぎないようコントロールします。生理痛の元となるプロスタグランジンの産生を抑えるため、痛みが緩和されやすくなります。
 

前述のピルはエストロゲンとプロゲステロンの両方を配合しているのに対し、黄体ホルモン剤はプロゲステロンのみを配合していることが異なります。子宮内膜症の治療にも用いられており、健康保険が適用されます。

 

GnRHアナログ製剤の使用(子宮筋腫、子宮内膜症の場合のみ適用)

GnRHアナログ製剤は、脳から分泌される「性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)」の作用を強くしてホルモンの分泌を抑え、一時的に卵巣の機能を抑える薬です。卵巣からの女性ホルモン分泌を下げ、子宮内膜が厚くなるのを抑制します。

 

どの治療方法が向いているかは、個人によって異なります。ピルは毎日同じ時間帯に薬を飲まなくてはいけません。このため、夜勤がある、海外出張が多く時差があるなど、日によって不規則な就業体系の人などは、ミレーナなど時間に左右されない治療方法の方が向いているかもしれません。


このように、生活スタイルにあっているかどうかに加えて、薬剤自身に合う合わないもあります。保険がきく薬剤も選択肢が多くなり、副作用が気になるようなら、別の薬剤をためしてみることもできます。


プランBも提案して、落ち着くまで伴走してくれる医師を見つけて、自分にあった治療方法を見つけていきましょう。

 

受診するかしないかの判断はどこですべきなの?

自己判断は避けて一度は受診を

受診する必要あるかな?と疑問に思う人も、生理痛についてはあまり自己判断はせず、医師に相談してみることをおすすめします。というのは、痛みに慣れてしまっていて、このくらいは普通なのでは?と思い込んでいる人が案外多いからです。


昔、「職場で痛みのあまり倒れてしまい、救急車で運ばれた。今はそこまでではないので大丈夫。」と話してくれた患者さんがいましたが、痛みのあまり卒倒するようなケースを10としたら、7や8でも十分「大丈夫ではない」レベルです。


こんな感じで、痛みのセンサー感度がバグってしまっている人もいます。生理痛の判断は、できれば医師にエコーなどで子宮の状態を見てもらってから、客観的な視点で判断してもらうことが大切です。


今や国民病とも言われる花粉症も、程度がまちまちで経験のない人にはその辛さはわかりませんよね。それと同じで、生理痛の場合も、痛みにも個人差があるし、その感じ方にも個人差があるのです。


生理痛が日常生活に支障をきたすほど強く、痛み止めを飲まないと普通のことができない状態だったり、年々痛みが増していると感じたりする場合には、迷わず産婦人科を受診しましょう。


「少しくらいの痛みは当たり前」「忙しいから我慢するしかない」と思われがちですが、なかには病気が隠れている可能性もあります。生理痛に限らず、気になる症状があるときは早めに婦人科で相談し、適切な検査を受けることで、もし病気が見つかった場合も早期に対処できます。

 

人生のパーティーに産婦人科医を加えよう

適切な治療や対処法を若い頃から見つけておくことで、生理に左右されない生活を長く続けられるうえ、将来妊娠を考えた時にも、自分の子宮の特性を理解した相談相手がいることは心強いです。ぜひ、生理の相談から始めて、「産婦人科のかかりつけ医」を持っておくことがおすすめです。


生理のたびに不安や辛さを抱えるのではなく、医療の力を借りて、より快適な毎日を過ごしていきましょう。

 

 

【参考文献】

MSDマニュアルプロフェッショナル版 月経困難症

今日の臨床サポート 「月経困難症」

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

院長

宋美玄先生

産婦人科

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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