crumiiを応援する バナー

ドラマ『ファーストクライ』解説シリーズ #4 症例解説②常位胎盤早期剝離

【医師解説】話題のドラマにも登場する、「常位胎盤早期剥離」とは?

大きいお腹を抱える妊婦さん

こんにちは、産婦人科医やっきーです。

皆様、今月から始まったドラマ『ファーストクライ 母子救命救急班』はご覧になっていますか?
私は観ました。観ましたよ。


 

感想ですか?

『ファーストクライ』の感想ですか?

…えーと、あれだ。記事を寄稿しているという立場上、私の感想をここで申し上げるのは差し控えさせていただきます。大人の事情です。大人になるって悲しいことなの。

私も大人の世界に飲み込まれてしまった悲しい現代人のひとりなのかもしれません。早く君だけでも逃げるんだ…私の自我がまだ残っているうちに…早く……


 

というわけで、本記事はいつもの『産婦人科医やっきーのトンデモ医療観察記』から趣向を変えて、『ファーストクライ』に出てきた疾患の解説をしていきましょう。

今回取り上げるのは「常位胎盤早期剝離(じょういたいばんそうきはくり)」です。

常位胎盤早期剝離とは?

羊水の中に浮かぶ赤ちゃんのイラストイラスト右上の、へその緒とつながった部分が胎盤です Photo:PIXTA

赤ちゃんは胎内で、胎盤を通じて母体から酸素や栄養をもらっています。胎盤とは、言うなれば、赤ちゃんにとっての生命線。完全に胎外に出て自分の力で呼吸ができる状態になるまでの生命維持に必須の存在なのです。

よって、通常の分娩経過としては、
赤ちゃんが産まれる⇒胎盤が剥がれる(はがれる)⇒お産が終了する
というプロセスを経る必要があるわけです。

しかし、全妊娠の約1%の割合で、赤ちゃんが産まれていないのに胎盤が先に剥がれてしまうケースがあるのです。
これが「常位胎盤早期剝離」と呼ばれる疾患です。

胎盤が先に剥がれると何が良くないのか?

黄色いびっくりマーク(注意マーク)Photo:PIXTA

まず、もっともイメージしやすいところとして、赤ちゃんへの酸素供給が妨げられます

いきなり胎盤がすべて剥がれきってしまうケースは稀で、たいていは胎盤の一部が剥がれ始める⇒時間経過とともに剥がれる部分の面積が増えていく…という進行になるのですが、
胎盤の3割が剥がれれば赤ちゃんへの酸素供給能力は単純計算で3割くらい落ちますし、剥がれた面積が5割なら酸素供給能力は5割くらい落ちます。(実際にはもう少し複雑ですが)

胎盤がすべて剥がれれば、赤ちゃんは呼吸ができていないのとほとんど同義です。
一刻も早く赤ちゃんを娩出(べんしゅつ:赤ちゃんを外に出すこと )し、呼吸や循環を助けなければなりません。

そしてこの胎盤剝離の進行ですが、比較的ゆっくり進んでいくケースもあれば、次の瞬間にはほとんど剥がれてしまうこともあり得るため、常に最悪のケースを想定する必要があります。
よって、常位胎盤早期剝離と診断した場合、原則として緊急帝王切開を行う必要があるのです。
(間もなく産まれそう、と見込まれる場合ならば経腟分娩を進めることもあります)


また、危険なのは赤ちゃん側だけではありません。母体にもかなりのリスクがあります。
一番大事なのは、出血が多くなりやすいという点ですね。

pixta_81621900_M.jpgPhoto:PIXTA

胎盤が剝離して生じる出血は、外からは確認できないこともあるため、仮に性器出血が多くなくとも実際には見た目以上の血を失っていることもあります。

そして人間の反応として、出血している時は「血液を固めてこれ以上の出血を防ごう」という作用がはたらくのですが、
胎盤やその周囲には血液凝固を強力に始動させるための「組織因子」が豊富に存在するため、常位胎盤早期剝離では血を固めるのに必要な血液中の物質が使い果たされてしまい、本来なら止まるはずの出血さえ止まらなくなってしまうことがあります。

これが「播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)」と呼ばれる、非常に危険な状態です。
日本語だとあまりにも長くて言いづらい病名なので、現場はもちろん医学の教科書でもたいてい「DIC(ディーアイシー)」と略して呼ばれます。

『ファーストクライ』第1話では、麻酔科医の藤堂が「おそらく出血多量による播種性血管内凝固症候群だ」と緊急事態の最中ですんごい長ったらしい日本語名のほうをわざわざ言っていましたが、大人の事情でこれ以上のコメントは差し控えさせていただきます。

常位胎盤早期剥離では何に気を付けるべきか?

「RISK」という文字のブロック
Photo:PIXTA

常位胎盤早期剝離を起こしやすいリスク因子としては、常位胎盤早期剝離の既往(過去にかかったことがあるか)、妊娠高血圧症候群、腹部への外傷などが挙げられますが、もっとも大事なのは「誰にでも起こり得る」という点です。

何のリスクもなく、順調に経過している妊婦さんにも常位胎盤早期剝離は起こることがあります。
だからこそ、大事なのは常位胎盤早期剝離について知っておくことなのです。

具体的には、「性器出血」「陣痛とは異なる持続的な腹痛」「急に強くなったお腹の張り」「胎動の減少」などといった初発症状を見逃さないことですね。

常位胎盤早期剝離は、医師でさえ診断が難しいケースも珍しくありません。ご自身で「これは早剥かも?」と悩まず、とにかく「何かおかしいな」と思ったときはすぐにかかりつけの産婦人科に連絡してください。


以上、今回は「常位胎盤早期剝離」に関する解説をお届けしました。

 

産婦人科医やっきー

この記事の執筆医師

産婦人科医やっきー先生

産婦人科

日本産科婦人科学会専門医。専門は女性ヘルスケア、産婦人科一般。臨床の傍ら、漫画の描写を通じて産婦人科の知識をわかりやすく発信するスタイルでブログやニュースレターなどの情報発信を行う。SNSにおいても産婦人科医療に関するフォロワーの質問への回答や医学解説を積極的に投稿。代表サイトは、妊婦健診の暇つぶしブログ『産婦人科医が漫画を読む』、雑記帳『医学の話を全くしないnote』、ニュースレター『産婦人科医やっきーの全力解説』など。2025年8月には初の単著を発売予定。

監修チームについて知る
crumiiを応援する バナー

シェアする