crumiiを応援する バナー

山田ノジルのドラマレビュー #5 『ファーストクライ』第5話

ドラマ「ファーストクライ」第5話が突いた“セックスワーカーへの偏見”と医療アクセスの壁

警告のマークが付けられた赤い積み木

今回のキーワードは、「セックスワーカー(性労働者)の妊婦」と、彼女に向けられる「院内感染源」という強烈な偏見・スティグマでした。ドラマの舞台は、1泊53万円もする(しつこく言う)超高級セレブ産院。ですから、富裕層である利用者たちは安心安全、超優良かつ豪華なサービスを金で買っています。

そのラグジュアリー空間を、「風俗で働く妊婦」が利用、しかも秘密裏に進められるプロジェクト内ルートで、となると、静かに、しかし決定的に「拒絶の空気」が発生します。画面越しにも、偏見の込められた冷たい視線が伝わってきて、胸が苦しくなった視聴者も多そうです。

偏見が奪う、適切な医療アクセス

ドラマでセックスワーカーを危険視したその背景も、容易に想像ができます。妊娠期というのは、心身ともにとてもデリケートな時期。言わずもがな、母親にはお腹の子どもの命に責任がのしかかり、単なる「体調を崩した患者」とはわけが違うからです。

免疫が下がって感染症にかかりやすいうえ、自分が感染すれば胎盤や産道をとおして赤ちゃんに障害や後遺症が残るリスク(母子感染)もあるでしょう。しかも、母体を治すための薬すら、胎児への影響を考慮すると安易には使えないことも少なくありません。

医療的にも打てる手が限られると思われる、繊細な状況に置かれています。些細(ささい)な体調変化や感染症ひとつで、万が一のことがあったら……⁉ そんな恐怖に支配され、あらゆる行動に制限をかけられているのが妊婦という立場です。過敏になっても仕方ない部分はあるでしょう。

マスクをしてお腹を抱える妊婦さん
Photo:PIXTA

ドラマでは、そこへ降って湧いたように院内感染が発生。病院スタッフからも外部調査機関からも、“正規”の利用者である妊婦たちからも、“場違い”な利用者であるセックスワーカーに疑いの目が注がれるわけです。

たしかに、ほかの職業と比べれば、感染症リスクへの注意が必要といえるでしょう。しかしドラマでも展開されていたように、はなから感染源と疑うのは、明らかに偏見です。

ここで危険視すべきは、その人が感染源候補だからではなく、偏見や差別によって適切な医療アクセスから遠ざけられることです。医療機関での差別的な対応が当たり前になったらどうなるか。それこそ、未受診妊婦になるひとつのルートとなるでしょう。

本来なら早期に発見・治療・予防できるはずの感染症や母子感染リスクが、「偏見という壁」によって疎外され、本当に命の危険へと発展してしまう。社会が生み出す「二次被害」になりかねません。

価値観の違い、ですまされないもの

第5話をきっかけに我がことを振り返ってみると、「自分には一切の偏見がない」とは到底言えません(むしろあるほうです)。 特に子どもが絡む感染症のこととなると、どうしても過敏になります

たとえば、発熱した我が子にキャベツ帽子をかぶせたりレメディを飲ませたりするような自然派志向の方に対して、私自身、少し距離を置いてしまっているのが現実です。 もちろんコミュニティから排除したいわけではありません。しかし、あきらかな発熱や咳があるのに集まりに連れてこられたりすると、マジか……と引いてしまいます。

「感染症を甘く見ている」と感じる態度には、恐怖しか抱けないのです。コロナ禍を経て、「感染症に対するスタンス」は、価値観や信頼感を測る大きな要素になりました。

※主に「ホメオパシー」と呼ばれる民間療法で使われる、小さな砂糖玉や水溶液のこと。物質的には「ただの砂糖玉」であり、現代医学・科学においては、プラセボ(思い込み)以上の治療効果は証明されておらず、医学的な薬効は否定されている。

新鮮なキャベツPhoto:PIXTA

「人に差別するなと言っておいてそれ?」と突っ込まれるかもしれません。 ですが、これは「相手の属性(職業や背景)」で排除する差別ではなく、「健康や医療(科学)に対する態度」、ひいては「周囲へのリスク管理という行動」に対する警戒や違和感ではないでしょうか。 

属性による偏見を自戒しつつも、実害やリスクへの警戒とはしっかり切り分けて考えていきたい――そんなことを深く考えさせられた回でした。

ドラマでは、事実関係すらねじ曲げて、セックスワーカーは危険であるという話に持っていこうとする圧力さえ登場していました。支援と医療にアクセスしていたのに、偏見によってそこから立ち去ろうとする姿は、社会のゆがみの現れでしょう。

個人の職業や属性を理由に医療から遠ざける「偏見」と、感染を軽視する価値観。果たしてどちらが罪深いでしょうか。「どっちもリスクがあるから同罪」と一括りにすること自体が、すでに偏見の罠にはまっていると言わざるを得ません。

医療は「道徳の裁判所」ではない

第5話で特に胸を打たれたのは、葛藤しながらも「目の前にある命」に誠実に向けられる医療スタッフたちの眼差しでした。秘密裏に進められるプロジェクトの中で、医療チームのメンバーたちもまた、無意識の偏見や戸惑いと無縁ではありませんでした。

命の前では誰もが平等であるべきだという医療者としての使命感を持ちながらも、周囲の視線や自分の中にある心理的抵抗との間でもがく姿が描かれます。

pixta_136681905_M.jpg
Photo:PIXTA

しかし、医療は患者の生き方や道徳観を裁く「裁判所」ではありません。どのような職種で、どのような背景を抱えていようと、助けを求めてやってきた患者に対して差別なく最善の医療を提供する――ヒポクラテスの誓いにも通じるこのシンプルな原則が、富裕層のクレームや無意識の偏見によって試される展開は、非常に重厚なドラマを生み出していました。

「清潔で安全な空間」を守るために誰かを排除しようとする人々の姿は、一見すると我が子を守る親心のように思えます。しかし、自分たちの「安心感」のために特定の人々の尊厳や命へのアクセス権を奪う権利は、誰にもないのです。

第5話が私たちに突きつけたのは、ウイルスや細菌以上に恐ろしい、人々の心に深く根を張る「偏見と排外主義」という感染症の姿でした。「あの人は感染源だから関わりたくない」「関わるとこちらまで汚れる」といわんばかりの身勝手な恐怖心こそが、生きづらさを抱える女性たちをさらに追い詰め、社会の陰へと押しやっていくしくみがよくわかります。

セレブ病院という「格差の象徴」のような舞台で、もっとも人間としての尊厳が試された第5話。画面の中の冷ややかな視線に「うわ……」と引いてしまった私たち自身もまた、日常生活の中で無意識に誰かにそんな視線を向けていないか。赤ちゃんのファーストクライ(産声)を聞きながら、自らの日常にも思いをはせる回となりました。

次回の視聴リンクはこちら

山田ノジル
フリーライター。女性誌のライターとして美容健康情報を長年取材してきたなかで出会った、科学的根拠のない怪しげな言説に注目。怪しげなものにハマった体験談を中心に、取材・連載を続けている。著書『呪われ女子に、なっていませんか? 本当は恐ろしい子宮系スピリチュアル』(KKベストセラーズ)ほか、マンガ原作や編集協力など多数の作品がある。 X:@YamadaNojiru

重見大介

この記事の監修医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

監修チームについて知る
crumiiを応援する バナー

シェアする