出生前検査 出生前診断 NIPT 無認証NIPT

crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #13

無認証NIPT施設の広告が炎上 認証施設の広告はがんじがらめなのに無認証施設は無法地帯の実態

今回の炎上ウォッチは無認証NIPT施設の問題のある広告についてです。
問題となった広告は「生まれる前に知るという選択 未来のために 知的障がい検査」というもので、非常に積極的に広告活動を行なっている、ある無認証NIPT施設によるものです。
この広告だけをみると、あたかも知的障害があるかどうか調べられる検査があるというふうに受け取ってしまうのですが、この表現は非常にミスリーディングです。まず事実を言ってしまえば、NIPT検査では認証施設だろうと無認証施設だろうと「知的障害があるかどうか」を知ることはできません。NIPTで分かる病気の中に知的障害を伴う可能性のある疾患があるというだけです。

これについて臨床遺伝専門医の先生が解説されています。
 

知的障害の原因は多岐にわたります。染色体疾患や遺伝子疾患など、生まれつきのものもあれば、出産時や出産後の環境によるものもあります。さらに、原因が不明のケースも多く存在します。そのため、NIPTを受けても「知的障害の有無」を知ることはできません。
無認証施設では認証施設との差別化を図ろうとして、あまり検査する意義がなく精度の低い検査項目を提供している場合もありますが、それらを受けたとしても、知ることができる知的障害の割合はほとんど変わらないと考えられます。
「知的障がい検査」という表現は、医学的事実を正しく伝えておらず、妊婦や家族に誤解を与える誇大広告と言って差し支えありません。

出生前検査 出生前診断 NIPT 無認証NIPT 血液検査
photo: PIXTA

虚偽広告は医療法で禁じられている

医療広告ガイドラインによると、医療法の規定により、内容が虚偽に渡る広告(虚偽広告)は、患者等に著しく事実に相違する情報を与えること等により、適切な受診機会を喪失したり、不適切な医療を受けるおそれがあることから、罰則付きで禁じられています。

また、次のような広告も禁止されています。
(i) 比較優良広告
(ii) 誇大広告
(iii) 公序良俗に反する内容の広告
(iv) 患者その他の者の主観又は伝聞に基づく、治療等の内容又は効果に関する体験談の広告
(v) 治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等 の広告

さらに、品位を損ねる内容の広告等、医療広告としてふさわしくないものについても、厳に慎むべきとされています。

認証施設には厳格なガイドライン遵守が課されている

認証施設は、これらの法律を遵守するにあたり、日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会が示す、さまざまな細かい表現の規定を守ることになっています。

医療広告 ガイドライン 規制
photo: PIXTA

例えば、
・重篤な先天異常を見逃しません。
・これまでに分かっている遺伝子異常とされるすべてを検出します。
・すべての常染色体領域の部分欠失・重複を検出します。
・染色体異常の 99%を検出します。
など医学上ありえないと考える内容や、
・当医療機関の NIPT は、一般的な出生前検査と比べて精度が高い。
・当医療機関の NIPT は、他の医療機関よりも安く設定しています。
など、他の医療機関と比較する内容や、
・ 〇〇〇〇さん(著名人)が訪問されました
・ 〇〇〇〇さん(著名人)が当医療機関を推薦しています
・ 〇〇雑誌に当医療機関の医師が紹介されました
など、著名人との関連性など、他の医療機関より著しく強調するものもだめですし、
・別の病院で NIPT を受けたら判定保留となり、そこから先どうしたらいいかの説明がなく困っていた時、友達から紹介されたこの病院を受診したら、丁寧な説明で安心できた。
のように、患者さんの主観に基づく体験談もいけません。

また、
・羊水検査費用は全額負担します。
・NIPT で陽性の場合、無料カウンセリングを何度でも受けられます。
・検査前の不安な気持ちの解消や、陽性の結果が出た時も無料にてご相談。
のように、「無料」など費用の負担について強調することも品位を損なうとされています。結構厳しいですよね。

さらに、
NIPTの遺伝カウンセリングについては、検査前後で行われていることが当たり前であるにもかかわらず、あたかも特別な医療体制であるかのような誤認を与える表現をする
と、誇大広告に関連すると考えられるとのことです。

認証施設には、このように細かい表現についてお知らせが日本医学会出生前検査認証制度等運営委員会から届いて、結構がんじがらめの状態なのに、無認証NIPTについては無法地帯のため、一般の方や妊婦さんたちにとっては、無認証施設のNIPT検査の方が魅力的に映ってしまうだろうことがなんとも歯がゆいです。

正直者がバカを見る現状

NIPTだけでなく、自費診療の分野では「がんが消える」とうたう根拠のない治療法や、「ワクチン接種のせいで◯◯という病気が増える」といった反ワクチン的な記載が珍しくありません。これらは患者さんの健康や命に関わりますが、平然と存在します。
真面目に医療を行う施設は、法律ややガイドラインに従って極力正確な情報提供をしています。しかし、誇大な広告を出す施設の方が有利に集客し、結果的に「正直者がバカを見る」状況が生まれています。これは真面目な医療機関だけでなく、国民にとって大きな不利益です。

厚労省?消費者庁?厳しい措置をお願いしたいです

医療広告は単なる宣伝ではなく、国民の命と健康に関わる重大な情報です。誤解を招く広告が放置されれば、社会全体の医療リテラシーを損ない、健全な医療提供体制を壊しかねません。厚生労働省には、医療広告に対する規制と監視を一層強化し、国民が安心して正しい情報に基づき選択できる環境を整えてほしいと強く思います。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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