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「出生前診断」という選択肢 前編

【出生前診断の選択】 受ける?受けない? 体験者のリアルな声と専門家が語る、「知る」ことの意味

新しい命を授かることには、喜びや不安が伴います。その中で、「出生前診断」という選択肢を検討する人もいるでしょう。受けるかどうかを考える際、他の人の経験を参考にしたいと思うかもしれません。そこで今回は、出生前診断を「受ける」という選択をされた方に、その経験についてお話を伺いました。(この記事は全2回の第1回目です)

 

そもそも「出生前診断」とは?

アサコさん(仮名)は、不妊治療を経て出産し、現在1歳3カ月になるお子さんを育てる40代後半の女性。出生前診断については、「受けないという選択肢はなかった」と話します。なぜアサコさんがそう思ったのか。選択の経緯を、産婦人科医・宋美玄先生の専門的な視点も交えながら、考えていきましょう。

 

まずは、出生前診断についての基本的な知識をおさらいしましょう。


出生前診断とは、お腹の赤ちゃんの健康状態、染色体の数や構造の変化、形態的な異常などについて調べる検査の総称です。大きく分けて2つの種類があります。

 

1.  非確定的検査(スクリーニング検査)

スクリーニング検査とは、「本格的な検査が必要そうな人を大まかに見つけ出すために、最初に行う検査」のこと。出生前診断では、赤ちゃんに染色体異常など特定の状態がある可能性が、高いか低いかを調べます。
 

検査による赤ちゃんへの直接的なリスクはありませんが、あくまで可能性を示すもので、診断を確定するものではありません。

 

〈検査例〉

・お母さんの血液を採るだけで調べられる「NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査)」
・超音波(エコー)で赤ちゃんの形態や特定の所見(首の後ろのむくみなど)を見る「胎児超音波検査」
・血液中の特定の成分を測定する「母体血清マーカー検査」 など

 

2. 確定的検査

確定的検査は、文字通り、診断を確定するための検査です。該当するのは、主に下記の2種類です。染色体の状態などを詳しく調べることができ、診断精度は非常に高いですが、わずかながら流産などのリスクを伴います。

 

〈検査例〉

・母体のお腹に針を刺して採取した羊水を調べる「羊水検査」
・胎盤の一部である絨毛(じゅうもう)を採取して調べる「絨毛検査」

 

一般的に「出生前診断」という言葉は、これらの検査全体を指して使われることが多いですが、医学的に診断が確定するのは、羊水検査や絨毛検査といった確定的検査の結果です。

 

よく話題になるNIPTは、非常に有用なスクリーニング検査ですが、これだけで診断がつくわけではありません。また、NIPTで調べられるのは一部の染色体異常に限られるため、NIPTだけでなく、赤ちゃんの形を直接見ることができる超音波検査を組み合わせることが、より多くの情報を得るためには理想的といわれています。

 

なぜ検査を受けようと思ったのか ~体験者の決断~

さて、ここからはアサコさんの体験を聞いていきましょう。


アサコさんは、40代半ばで不妊治療(顕微授精)を経て、第一子を妊娠しました。出生前診断を受けることを決めたのは、妊娠がわかってまもなくのこと。その理由の一つが、ご自身の年齢でした。


「40代半ばでの妊娠だったので、子どもにも自分にも、さまざまなリスクがあることは意識していました。そのなかで、もしも子どもに、例えば重い障害があった場合、産むのかどうか、産むとしたらどう育てるのか、本気で考えないといけないなと思ったんです」

 

それは、単に「知りたい」という好奇心だけではなく、起こりうる現実と向き合い、親としての責任をどう果たしていくか、という覚悟に基づいたものでした。


「事前にわかっていれば、心構えも、必要な準備もできるじゃないですか。生まれてきてから『どうしよう!』と慌てふためくよりも、あらかじめわかっていたほうが、たとえ厳しい結果だったとしても、落ち着いて対応できるんじゃないかと思ったんです」

 

アサコさんは、パートナーである夫にも自分の考えを伝え、話し合いました。


「夫には、『私としては、(出生前診断を)受けないという選択肢はないんだけど、どう思う?』と聞きました。すると、『いいね、僕も同じ考えだから受けよう』と、すぐに賛成してくれました」


ただし、検査の前日には再度話し合いを持ち、お互いの考えを確認したそうです。


「『明日、検査を受けて、その結果によっては、妊娠の継続について決断をする可能性があるけれど、その認識で問題はない?』という最終確認をしました。夫も私も、結果を受け入れる準備をしておき、どうするかは結果を聞いてから考えようという共通認識を持っていることがわかったので、落ち着いて検査に臨めました」

 

検査の流れと、リアルな気持ち

出生前診断 超音波検査 
photo:PIXTA

 

アサコさんは、NIPTと胎児超音波検査を組み合わせて受けることにしました。


通常、同一施設で両方の検査を受けることが一般的ですが、アサコさんの場合は、出産予定の産院でNIPTを受け、その後、不妊治療および妊娠相談で関係が深い宋美玄先生のクリニックで胎児超音波検査を実施しました。

 

検査の予約を入れてから当日までは、やはりドキドキしていたそうです。


「検査の日程に他の予定を入れないようカレンダーに大きく記載しました(笑)。ただし、空いた時間に検査のことを考えてしまうので、直前まで仕事に集中するよう努めました」

 

先に結果が判明したのは胎児超音波検査でした。


「モニターに映し出される胎児の姿を見ながら、先生が『両手、両足がありますね』『心臓も元気に動いています』『口もちゃんと開いています』と一つずつ確認しながら説明してくださり、緊張が徐々に解けていくのを感じました。結果がどうであれ、受け入れる覚悟はしていましたが、非常に緊張していたので、先生の説明により少しずつ落ち着きを取り戻していけました」

 

NIPTの結果は約1週間後に判明しました。主要な3つのトリソミー(21、18、13)の検査結果は「陰性(該当なし)」でした。
 

しかし、それらの結果をもって、アサコさんの緊張が完全に解けたわけではありません。
 

「NIPTと胎児超音波検査で出生前にわかる異常については概ね調べられましたが、妊娠期間中に起こり得るリスクや出生後に発見される病気や問題も多数存在します。出産までは、安心しきることなく進んでいこうと考えていました」

 

体験者が語る、胎児の健康を「知る」ことの意味

アサコさんは、出生前診断を受けた経験について「受けてよかった」と振り返ります。

 

なぜ「よかった」と感じたのか、その理由の一つ目は、「準備のため」です。検査によって赤ちゃんの「その時の進捗」を把握することができます。進捗がわかると、今後必要となる準備をすることが可能です。アサコさんにとって出生前診断は、その準備のために必要な検査でした。

 

第二の理由は「不安の解消」です。妊娠初期の胎児はまだ小さく、健康状態への不安が生じやすい時期です。出生前診断によって胎児が元気に育っていることが確認でき、不安が軽減されたことも、受けてよかった理由の一つだと述べています。

 

「出生前診断は私にとって、未知の事象や見えないものへの不安の解消につながりました。お腹の赤ちゃんの健康状態という、実際の目で見るのが難しいものを確認できたのは、非常に有用だったと思います。もしも友人に、出生前診断を受けようかどうしようか迷っていると相談をされたら、まずは迷っている理由を詳しく聞いた上で、理由が『未知の事象や見えないものへの不安』であるならば、不安解消の手段として検査を勧めるかもしれません」と話してくれました。

 

専門家が語る「納得できる選択」のために

出生前診断はしばしば、「異常を見つけるための検査」「中絶と結びつく検査」といわれることがあります。産婦人科医で、出生前診断に詳しい宋美玄先生は、「出生前診断をそのように捉えるべきではない」と述べています。


「検査は、お腹の赤ちゃんの情報を得るためのツールです。この情報は、医療的ケアの準備や親御さんの心の準備に役立ちます。また、検査で問題がないことが確認できれば、妊娠期間中の不安が和らぐこともあります。赤ちゃんについて『知りたい』と思う気持ちは、親として自然な感情です。それを、『後ろめたい』と感じる必要はまったくありません」(宋先生)

 

宋先生は、こう続けます。
 

「重要なのは、検査のメリットだけでなく、結果の意味についても正確かつ十分な情報を得ることです。そして、パートナーとよく話し合い、ご自身が納得して『受ける・受けない』を決定することが求められます」(宋先生)


そのためには、検査前の遺伝カウンセリングや、専門家との十分な相談が重要です。


「検査について理解を深め、自分たちの価値観と照らし合わせて結果をどう受け止めるか話し合う時間を持つことで、後悔のない選択につながります」(宋先生)

 

あなたにとっての「正解」を見つけて

アサコさんは、「私にとっては、出生前診断を受けず、赤ちゃんの健康状態について詳しくわからないまま出産を迎えることのほうがリスクでした」と、きっぱり言い切ります。しかし、全員にとってそれが最善の選択であるとは限りません。


出生前診断は、新しい命と向き合う上で、私たちに多くの情報と、時には難しい問いを投げかけます。受けるか受けないかの決定は簡単ではなく、正解は人それぞれ異なります。


重要なのは、情報を集め、パートナーと話し合い、専門家の意見も参考にして、自分たちにとって何が最も重要かを考え、納得できる答えを見つけることです。この記事が、そのプロセスの一助となれば幸いです。


【参考文献】
・公益社団法人 日本産科婦人科学会, 公益社団法人 日本産婦人科医会「産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2023」

 

山本 尚恵

医療ライター。東京都出身。PR会社、マーケティングリサーチ会社、モバイルコンテンツ制作会社を経て、2009年8月より独立。各種Webメディアや雑誌、書籍にて記事を執筆するうち、医療分野に興味を持ち、医療と医療情報の発信リテラシーを学び、医療ライターに。得意分野はウイメンズヘルス全般と漢方薬。趣味は野球観戦。好きな山田は山田哲人、好きな燕はつば九郎なヤクルトスワローズファン。左投げ左打ち。阿波踊りが特技。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

院長

宋美玄先生

産婦人科

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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