
crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #23
くり返される未成年の女性の「孤立出産からの死体遺棄」で逮捕 その罪に問うのは妥当か?
今回取り上げたいのはこちらのニュースです。
「誰かに見つけてほしくて」赤ちゃんをゴミ袋に入れて玄関付近に“放置” 17歳の少女を逮捕 妊娠・出産を周囲に相談せず 福岡
17歳の少女が自宅で出産し、赤ちゃんが動かなかったため、ブランケットに包んで玄関付近に置いたと供述しています。少女がNPOのサイトに「子どもを自宅で産んだ。息をしていない。どうにかしてあげたい」と書き込んだのをきっかけに警察が捜査して遺体を発見したといいうニュースです。警察の調べに対し、少女は「出産時から、赤ちゃんは動かなかった」と話し「誰かに見つけてほしくて供養したかった」と言っているとのことです。
なぜ、悲しい事件が繰り返されるのか
未成年の女性が一人で出産し、どういう経緯か赤ちゃんが亡くなってしまって、産んだ女性が死体遺棄の罪に問われるという事件は、本当に何度も繰り返し報じられています。
今年の4月にもそのような事件があり、ニュースピックアップで取り上げた記事がこちらです。
16歳少女が赤ちゃんを遺棄。起こってしまった結果のすべてを、一人の未成年の女性に背負わせてしまっていいのか?
このような事件が起こるたびに、亡くなってしまった赤ちゃんと、妊娠を誰にも相談できずに一人で抱えてしまった結果、誰も頼れず孤独出産し、結果的に逮捕された女性に共感して胸を痛めます。避妊の普及、思いがけず妊娠してしまった時に相談できる窓口の周知、妊娠させた男性側の責任をどう問うか、などの議論が起こっています。それらの議論が行政や制度、インフラなどを変容させ、再発防止に早くつながることを願います。
混乱の中「孤立出産」した女性への死体遺棄罪適用は適切か否か
今回は、死体遺棄罪が適用されていることについて一石投じたいと思います。誰にも相談できずに孤独に出産したとはいえ、赤ちゃんの命が守られないという点については、産んだ側に責任が生じるのではと考えられる方も多いのではないかと思います。それぞれの事件の報道からは、どの時点まで赤ちゃんの命があったのか、どうして亡くなってしまったのか、詳細は分かりません。ただ、死体遺棄という罪で逮捕というのは、「ある日、体からもう一人の人間が出てくる」という体に生まれついた人にとって、妥当なのかと思ってしまいます。
(以下は、私の知人で法律にとても詳しい人の論考で、うなずく点が多かったため、了承を得てこちらに同様の内容を書かせていただきます。)
捜査当局が「孤立出産」のケースに死体遺棄罪(刑法190条)を適用するのは、女性にとってあまりにも厳しく、不適切なのではないかということを問題提起したいです。こうした問題は刑事罰で裁くべきではなく、むしろ社会福祉の面から支援して解決すべきだということは、再発防止の観点からも今まで繰り返し言われてきたことです。
そもそも、死体遺棄罪という法律は、本来は亡くなった人を山に埋めたり、湖に沈めたりといった「適切な葬儀や供養ができない状態」にする行為を想定しています。しかし、孤立出産の前後で赤ちゃんが何らかの原因で亡くなってしまい、遺体の扱いに困ってしまうというケースはそれらとは性質が異なり、同じように扱うことに無理があるのではないでしょうか。

妊娠したことに気づきながらも誰にも打ち明けられなかったり、そもそも妊娠に気づいていない状態で、自宅で流産や死産が起こってしまうというケースでは、当事者の女性は混乱と深い絶望や喪失感が混ざった状態になると考えられます。そういった状態になると、ますます誰にも相談できずに、「一人でその状況をなんとかしなくては」と孤立することが少なくないと想像します。その結果、「どうしていいかわからない」という状況に追い込まれ、結果的に遺体をそのままにしてしまうこともあります。こうした女性を、すぐに逮捕・勾留する必要が本当にあるのか、疑問を感じる人も多いと思います。
妊娠すること自体、体にも心にも大きな負担となることですし、ホルモン変動の影響で精神的に不安定になる人も多いものです。孤立出産に至るケースでは、妊娠の経緯も「信頼しあったパートナーと前向きに妊活した」というものではなく、赤ちゃんの生物学的な父親とはもう連絡が取れていなかったり、そもそもが性暴力や搾取による性交だったり、環境が深刻なことが多く、さらなる精神的な負担も大きく加わります。経済的にも不自由な立場の人も多いでしょう。そこに自己責任だとして厳しく刑罰を科すのは、あまりに冷酷に感じますし、近視眼的とも思えます。
死産や流産で混乱し、疲れ果て、どうすればいいのか分からない状況で、遺体をすぐに適切に処理できなかったからといって、「死体を放置した」「隠した」と処罰するのは、死体遺棄罪の本来の趣旨から外れた乱用のように思います。
今回の福岡の事件でも、17歳の少女は「誰かに見つけて供養してほしかった」と話していると報道されています。これは、むしろ遺体を粗末に扱う意図はなかったことを示しているのではないでしょうか。こうした状況で死体遺棄罪を適用することに、疑問を唱えてもいいのではないでしょうか。
防止策や対応について、さまざまな議論が必要
妊娠した女性が誰にも相談できず、医療機関に頼ることもままならないまま孤独出産をしてしまう。その前後(お腹の中ですでに死産となっている場合も考えられます)で赤ちゃんの命が失われてしまう。これはとても悲しいことです。もちろん、ケースによっては妊娠した女性自身が責任を問われるべき場面もあるだろうとは思います。でもそれは、年齢や供述などの断片的な報道からは判断できません。それぞれの事件に、背景があるからです。
先にも書いた、避妊法へのアクセス改善、予期せず妊娠した人の相談窓口の周知、妊娠させた男性側の責任をどう問うか(こちらもケースによって様々だと思います)、などの議論に加え、この罪状が適しているのかどうか、死体遺棄の罪に問われた女性が「供養したかった」と述べているケースから、問題提起したいと思います。
もうこのような悲しいケースが起こりませんように、多くの人に考えていただくきっかけとなれば幸いです。