産後うつ 体験談

体験シリーズ:パートナーの産後うつ【後編】

「こんなはずじゃなかったのに!」妻の産後うつとワンオペ育児に泣いた夫が、前向きな姿勢に戻れたワケ

金融スタートアップ・Finatextホールディングス代表の林良太さんの奥さんは、第一子の誕生直後から重い「産後うつ」になったという。が、林さんはもちろん、家族みんなでバックアップし、1年3カ月かけて寛解。その後、二人目の出産にチャレンジすることになって……。(この記事は全2回の2回目です→前編はこちら)

今回は大丈夫だと思ったけれど

第一子の誕生から1年3カ月もの間「産後うつ」に苦められた林さんご夫妻。けれども、奥さんが寛解してからは、また元通りに楽しく過ごせていたといいます。

「以前の明るい奥さんが、ようやく戻ってきたという感じでした。天気がよいだけでも笑顔で楽しそうで、これでもう大丈夫だと思い、僕も本当に嬉しかったです」

そして、第一子が2歳になった頃、林さん夫妻は第二子について考え始めたといいます。

「僕は一人っ子なんですが、それもあって結婚前から子どもはたくさんほしいと思っていましたし、妻も同意していました。ただ、『産後うつ』が心配で躊躇していたんですが、妻が『大丈夫だよ』と。それで自然に任せたところ、第二子を授かったんです」

今度は、もっと万全の体制を整えておきたいと思った林さん。産後は奥さんが『産後院』に3週間滞在できるよう早めに手配しておいたそうです。産後院なら、もしも本人が何もできなくても「申し訳ない」と感じることなく、ゆったり過ごせるだろうと考えたのでした。

「2022年7月、第二子が無事に誕生し、妻は少しだけ憂鬱そうな様子はあったものの、元気に過ごすことができました。夫婦で『子どもは二人でいいし、もう出産しないから二度と産後うつになることもないね』と喜び合いました」

ところが、その出産から1年後、林さんの奥さんは再び産後うつになってしまったのです。

「それまでの1年、妻は子どもたちをいろいろなところに連れていったり、たくさん遊んであげたり、本人もバレエをしたり、とても活発に活動していました。産後うつで動けなかったときのぶんを取り戻したいという気持ちもあったんだろうと思います」

最終的なきっかけは、第二子が喉が弱く、よく咳が止まらなくなること。その心配から、奥さんは再びうつ状態に陥ったのです。今度は、短期間ではあったものの入院治療し、退院後はまた福岡の実家に単身帰省して静養することになりました。

産後うつ 体験談
photo: PIXTA

4歳と1歳の「ワンオペ育児」

「妻が静養のため実家に帰省したのは、7月の3連休の初日でした。それから、3日間とも大雨で……。毎朝、子どもたちに早朝5時に起こされ、育児や家事に追われました。泣きたいくらい孤独な気持ちになったのをよく覚えています」

4歳と1歳の子どもを抱え、ワンオペ育児生活のスタートです。一度目の産後うつの際には0歳児が1人だけだったので、林さんのお母さんがかなり面倒をみてくれたそうです。しかし、今回はそうはいかないことに林さんは気づいていました。

「4歳と1歳は、0歳と違って自分の意思があって動きまわるので面倒をみるのが大変です。しかも、子どもが2人もいるわけですから、母に手伝ってもらっても任せてしまうことはできません。今度は、自分が最終責任者にならないといけないと思いました」

多忙な経営者でもある林さん。全面的に保育園とベビーシッターさん、お手伝いさんに頼ろうと思わなかったのかどうかを尋ねると……。

「もちろん、ベビーシッターさんやお手伝いさんを頼んだこともあります。でも、子育てに関しては、僕は古い考え方なのかもしれませんが、なるべく親である自分たちの手でしたいと思っています。遊びも動画を見せっぱなしじゃなくて、一緒に何かをしたいんです」

それでも、終わらない仕事、子育て、家事に追われる日々。正直、「こんなはずじゃなかったのに」「どうしてこうなったんだろう」と涙を流したこともあったそうです。

「僕は経営者として常にポジティブであろうとしてきたし、仕事でもなんでも自分の努力で変えられる、問題は解決できると思ってきました。だから、思い通りにいかない現実に打ちのめされ、『どうして僕が』という被害妄想に陥ったのだと思います」

ある日、林さんは、自分の幸せを定義できるのは自分だけだと気づきます。それまで、仕事や資産などに価値を置いてきたけど、それが一番ではないと改めてわかったのです。

「結婚も子育ても、自分が望んだこと。妻や子どものことが何より大切だし、子どもたちは本当にかわいい存在です。自分で直接しっかり子育てをしたことで、子どもたちは僕にとても懐いてくれています。つまり、幸せだと気づいたんです」

けれども、日々のワンオペ育児はつらいもの。誰だって早朝から夜まで、1人で子育てや家事をしていると、つらくなります。それに対しての対処法はというと。

「どうにもできないことを嘆いても、プラスにはなりません。だから少し自分を騙して、つらさにフォーカスし過ぎないようにしました。最悪の状況になっても、目の前にある牛丼は美味しい、そう思えたら乗り越えていけるんじゃないでしょうか」

産後うつ 体験談 ワンオペ育児
photo: PIXTA

家族の協力と経済的な余裕

林さんの奥さんは半年弱の実家での静養を経て、東京に戻ってきました。そして、まだ寛解はしていませんが、少しずつ回復に向かっているそうです。

「とにかく一番つらいのは妻本人ですから、順調に回復していることをとても嬉しく思っています。最近は、妻も少しずつ育児や家事をできるようになってきました。朝、妻が子どもの身支度などをしているあいだに、僕は朝食を作っています」

奥さんが不在でワンオペだったときは、朝食はパンだけ、ということもあったそうですが、今では目玉焼きや他のものも出せるようになり、充実しているそうです。林さんは、こうした経験によって「家庭をまわす能力」が上がったのもよかったことだといいます。

「子どもたちを保育園に送っていったあと、妻と2人でゆっくり散歩をすることもあります。きっともう少しで元気になるでしょうが、これからも妻に過度の負担がかからないよう子育てと家事は続けていくつもりです」

家族の産後うつに立ち向かうには、こうした協力と同時に必要なのが、やっぱりある程度の経済的余裕です。林さんは、自身の経験を通して、産後うつや育児うつに対する補償をも対象にした保険「母子保険はぐ」を立ち上げました。

「産後うつは、本人にとっても家族にとっても、非常につらいものです。そこで、せめて経済的に追い詰められることを減らしたい、という思いで母子のための保険を作りました。ぜひご活用いただけたらと思います」

最後に林さんに、今、パートナーまたはご自身の「産後うつ」や「育児うつ」に悩んでいる人へのメッセージをお願いしたところ、こんなふうに答えてくれました。

「今は出口のないトンネルに入ったような気持ちで、産後うつや育児うつが永遠に続くように思えるかもしれません。でも、必ず終わる日が来ます。頑張らなくていいので、時間が解決してくれると思って日々を過ごしてください。言い古された言葉ですが、『明けない夜はありません』から」

 

林 良太(はやし りょうた)

Finatextホールディングス共同創業者 / 代表取締役社長CEO

東京大学経済学部卒業。ドイツ銀行ロンドンのテクノロジー部門に新卒で入社した後、グローバルマーケッツ部門に移り、ロンドン・欧州全域の機関投資家営業に従事。ヘッジファンド勤務を経て、2013年12月に株式会社Finatext(現・株式会社Finatextホールディングス)を創業。

 

大西まお

編集者、ライター。出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な編集担当書は、宋美玄著『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』、森戸やすみ著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、名取宏著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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