妊婦 体重 体型

crumii編集長・宋美玄の炎上ウォッチ #10

妊娠中・産後の「体型いじり」 自分の子を産んでもらうって分かってる?

妊娠中や産後に夫から体型を「いじられる」、あるいは「女として見られない」と言われた、という投稿がSNSで定期的に話題になります。

最近も、産後に「3XLのパンツを買ったら?!」と夫に体型をいじられ、涙が止まらなくなったという女性の投稿が拡散され、大きな共感と怒りを集めていました。

しかし、中には「どんな言い方だったか分からんけど、夫からしたら体型が変わって少しずつ女として見れなくなっていく妻に、オブラートに包みながら『ダイエットしてほしい』と伝えようとした優しさだった可能性あるよな」「夫が何も言わず、コップの水がついに溢れて、レスで会話も少ない夫婦になっても良いんだろうか」と、夫側からすると産後に体型を戻して欲しいという希望は当然であるとする投稿や、医療関係ではない男性と見られるアカウントによる「妊婦さんは自分の体重管理を自覚したほうがいいよ。特に30歳過ぎると、昔みたいに体力や集中力が持たないから」と、とにかく体重管理をしろという投稿も見られました。

こうした投稿に対して、「女性は死ぬ可能性もある出産をして、精神的にも身体的にもダメージ大きいのに、男は『女として見れるかどうか』って四六時中性的なことを考えてるのほんまに頭おかしすぎる。ほんまに人間?」という怒りの声や、「妻の体型が変わるのが嫌なら、子どもを作らない方が良いと思いますね。逆に子どもを作ることに夫が賛成するならば、出産直後の女性の体型につべこべ言うのは、中学生男子をつかまえて『背が伸びた、声変わりした、髭が生えた、筋肉がついた、受け入れられない』と言い出すのと大差ない発言なのでは?」と反発する投稿が多くの共感を集めていました。

人間が一人入っているのだから、増えるのは当たり前

そもそも妊娠中にある程度体重が増えたり、腰回りが太くなることは単に「太った」わけでも「自己管理ができていない」わけでもなく、母体と胎児の両方を守るために必要な生理的変化です。そもそも人間が1人子宮の中に入っているわけです。赤ちゃん自身の体重は臨月になるとおよそ3.0〜3.5kgあり、胎盤はおよそ500〜600g、羊水は約500〜800gになります。(これらはすべて出産時に体外に排出されます)また、妊娠中は子宮そのものが大きくなり、子宮筋の増加分も約1キログラムにのぼります。加えて、母体の血液や体液の循環量も子宮への血流が増えるため、約1.5〜2.0kg分増加します。さらに、女性ホルモン(エストロゲンなど)の影響によって体脂肪も2.0〜3.0キログラムほど蓄えられます。肩や腰回りに多くつきますが、授乳に備えたものとされ、異常なことでは全くないし、「管理ができていない」のとは全然違います。

望ましいとされる体重増加は意外に多い

もちろん、いくら増えてもいいわけではなくて、妊娠中の望ましい体重増加は、妊娠前のBMIによって異なります。これは、10万人のデータを分析し、合併症が最も少なかったと増加幅として示された目安です。

妊娠前のBMIが18.5未満の場合(やせ)は、12〜15キログラムの体重増加が望ましいとされています。BMIが18.5以上25.0未満(標準体型)の人については、10〜13キログラムの体重増加が適正とされています。BMIが25.0以上30.0未満の場合は、7〜10キログラムの増加が推奨されています。BMIが30.0以上の場合は、個別対応が原則となります。

産後もすぐにお腹がひっこむわけではない

産後 体重 体型
photo: PIXTA

出産を終えても、すぐにお腹が平らに戻るわけではありません。赤ちゃんや羊水、胎盤が体外に出た後も、子宮の大きさが元に戻るまでに1〜2ヶ月かかることが多く、また妊娠後期に大きく伸びた腹直筋がもとの位置に戻るには時間がかかります。体型が妊娠前に近づくまでには個人差がありますが、おおよそ3ヶ月から6ヶ月ほどで少しずつ回復していく人が多いようです。ただし、授乳量や体質によっては体重が落ちやすかったり、逆に授乳終了後にリバウンドしたりすることもあります。

さらに、産後の生活は決して楽で暇なものではありません。授乳の間隔は短いし、夜もほとんど眠れないこともめずらしくありません。赤ちゃんがなかなか寝てくれなかったり、ずっと泣いているけど理由が全然わからないというような日々が続きます。その他にも、母乳が思うように出なかったり、乳腺炎になったりと、心身ともに追い詰められることもあります。体型を戻すために「努力」する余裕があったら少しでも寝たいという人が多いのではないでしょうか。

いわゆる腹筋運動は骨盤底筋にダメージ

加えて、(主に経腟の)出産時には骨盤底筋(ペリネ)が傷つきます。産後しばらくは腹圧をかけるような運動を行うことはペリネにダメージを与えるため、推奨されません。腹直筋に力を入れるような運動は、子宮下垂や尿漏れといった症状を悪化させるリスクがあるためできるだけ避けていただきたいです。(腹直筋ではなく腹横筋を鍛えるガスケアプローチのエクササイズもありますがまた別の機会にお伝えしますね)

このような中で、パートナーから「女として見られない」と言われたり、「太ったね」などと体型をいじられたりすれば、「誰の子どもを産んだんでしたっけ?」と思ってしまいますよね。子どもが生まれたばかりのこの時期に、パートナーにルッキズムを押しつけるのは、タイミングとしてあまりにも不適切です。なめてんかって感じです。

令和の父親として求められるのは、何よりも自分の子供の育児にコミットすること。妊娠出産を他人事として、妻の見た目に口を出すことではなく、自分の子供を産んでくれたパートナーを体型も含めてリスペクトすることではないでしょうか。妊娠出産に関係なく人は年齢と共に衰えていくものですし、パートナーの見た目を揶揄すれば、ブーメラン待ったなしです。愛情が減るのも間違いないと思いますし、絶対にやめてくださいね。

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