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crumii編集長・宋美玄のニュースピックアップ #20

「高齢女性は産めない」発言 否定も肯定も思う壺かも

2025年7月、参政党代表の神谷宗幣氏が街頭演説の中で発言した「高齢の女性は子どもを産めない」という言葉が、大きな波紋を呼んでいます。神谷氏はXで、「女性には適齢期があるから歳を重ねていけば出産ができなくなるのは生物として当然のこと。適齢期に出産できる社会環境を政治の力でつくろうと言ったことを叩く意味がわからない」としています。

「女性には出産適齢期というものがある」それ自体は事実で、すでに散々周知されてきています。しかし、その出産適齢期を何歳くらいだとしているのか、子供を産めない「高齢」という年齢を何歳としているのかを明確にせず、「高齢になると産めない」というふわっとした表現だと(のちに60、70歳を指していると言っていたようです)さまざまな受け止め方をする人がおり、弊害も生じます。国政にも参加する政党が、いつ産むかというSRHRに関することについて、「雑」な発言をする問題点を論じてみたいと思います。

まずは解像度を上げたファクトを押さえましょう

確かに、年齢とともに女性の妊孕性(妊娠できる力)が低下することは医学的な事実です。
年齢別出生率

こちらは各年代における、年齢別出生率ですが(こちらのグラフと次のグラフは共に齊藤英和先生にいただいたものです)、1950年から時代が新しくなるにつれて出産のピーク年齢が遅くなっていることがわかります。そして、注目していただきたいのは1930年の青い線です。この時代は避妊も中絶も不妊治療も実質なかったので、日本人における妊娠しやすさを概ね表していると考えられます。これによるとピークは20代前半で年齢が上がると徐々に下がり始め、30代後半になると下がり方が急になります。ですが、中には40代後半まで産んでいる人は産んでいたということもわかります。(第一子ではない人が多かったと推測されますが、経産婦でも初産婦でも妊孕性は変わらないとされています)

現在、厚生労働省の人口動態統計では出産全体の約3割は35歳以上の女性によるものとなっていて、「高齢妊娠」とされる35歳以上の出産も国全体にとっては大きな存在であることがわかります。

妊活 上限年齢
こちらは「ほしい子どもの数別・達成確率別にみた、妊活を開始すべき上限年齢」の「子供が1人だけ欲しい場合」のグラフです。35歳で妊活を始める場合、体外受精も行えば9割の人が1人子供を授かります。これによると、「是非とも1人は子供が欲しい」という方は、35歳には妊活を開始すべきということが示されています。40歳だと約7割に下がり、その後急速に低下しますが、世間で思われているよりも「高齢」と言われる年齢でも子どもを授かっているという印象です。(グラフの破線は体外受精をしない場合で、それによると32歳ごろには開始すべきと示されています。)

もちろん、誰でも希望すればその年齢で産めるわけではありませんし、不妊治療は体にも経済的にも時間的にも負担であり、簡単なものではありません。生物学的な妊娠適齢期を知り、パートナーがいて共に子どもを望み、子育ての環境がある程度整えば、先延ばしにするのは医学的におすすめしないということは大前提です。

「女性には出産適齢期というものがあるということを知らせたかった」というのが真意であれば、年齢を明示せずただ「高齢女性は産めない」という、ハレーションばかりが大きい発言ではなく、このくらいのファクトをもって伝えるべきだと思います。

「とにかく若いうちに子どもを産むべき」という価値観の危うさ

SNSなどではさまざまな反応がありました。「産む産まないは女性が決める」「人権侵害だ」という意見が多いですが、「これは事実を言っただけでしょ」という意見も多くみられました。

卵子が老化する、生殖可能年齢には限界があるということはこの10年余りで広く知られてきています。これは、知らないことで産み時を逃す人が減るという好ましい面もありますが、「35歳になるともう産めない」と思っていたり、アラサーくらいでもう焦っている人も多く見受けられ、過度に「年齢が上がると産めなくなる」ということが広まると、若いうちからプレッシャーを感じながら生きていかないといけなかったり、まだ産める年齢なのに諦める人が出てきてしまい、デメリットも大きいと思います。安易に「事実だ」と肯定する人が多いことには危機感も覚えます。

また、「男性だって年齢とともに妊孕性が下がることも言うべき」という意見も多くみられました。これも確かに事実です。ただし、女性に加えて男性側にも「早く産め」とプレッシャーをかける方向へ議論を持っていくと、結局は「とにかく若いうちに子どもを産むべき」価値観に近づいてしまい、結局参政党にとって好ましいことになってしまうのではないでしょうか。

炎上狙いのメッセージにはご注意を

参政党による発言が物議を醸したことはこれが初めてではありません。むしろ、ワクチンを否定する言動や、ジェンダーについての差別的な発言など多数あり、今回の発言はマシな部類ではと思えるほどです。今回の発言だけを取り上げて「一理ある」と済ませてしまえば、むしろ参政党にとって都合の良い宣伝になってしまいかねません。

今回の発言は炎上することを前提に語られた可能性もあります。メディアに取り上げられ、SNSで拡散されることで、大多数から批判されたとしても、「女性は社会進出せずに早く子どもを産むべき」と考える参政党に親和性の高い層に強くリーチできるという戦略です。だからこそ、取り上げ方や批判の仕方には注意が必要だと思います。(と言っても難しいですよね。今回私はファクトは伝えた上で、乗っかったり乗せられたりするリスクも伝えようという方針にしました。)

 

私たちcrumiiは特定の政党や思想に肩入れする立場ではありません。しかし、SRHR(性と生殖に関する健康と権利)に関わるテーマについては、社会的な影響が大きいため、引き続き丁寧に取り上げていきたいと考えています。

参議院選挙が間近に迫っています。今こそ、誰がどんなことを言っているのか、自分が何を大切にしたいのかを見極める機会です。一人ひとりが情報を正しく受け取り、自分の判断で未来を選べるように、これからも発信を続けていきます。

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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