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湯船に浸かる女性

宋 美玄のニュースピックアップ #43

産後生活、その「禁止」に根拠はあるか? 産後の入浴、セックス、外出…

命懸けで出産した後、出産方法に関わらず体が大きなダメージを受けているので、しばらくはできないこと、しない方がいいことがたくさんあります。

おそらく多くの産院では、バスタブに浸かること、外出、運動、セックスなどについて、1ヶ月健診が終わるまで控えるように指導されることが多いと思います。多くは「何か起こったら困るから」ですが、実際には「どのくらいの根拠があるのか」はっきりしないまま、習慣として定着しているものもあります。

産後すぐの実生活に影響のあるものなので、行動を制限するにあたり、根拠があるのか気になるところです。

 

先日、国立成育医療研究センターは、「産後退院直後から入浴しても子宮内膜炎や会陰創部感染は見られず 産後1ヵ月以内の入浴制限を見直しても良い可能性」というタイトルで、経腟分娩後の入浴について研究結果を発表しました。

プレスリリースのリンクはこちら。

 

経腟分娩後の浴槽入浴を、退院直後から許可した場合の安全性が検討されています。2施設で経腟分娩した577人を対象に、退院直後から浴槽入浴を許可した群(324人)と、産後1か月健診まで浴槽入浴を控えた群(253人)を比較し、産後1か月健診までの子宮内膜炎と会陰創部感染の発生を追跡し、検証したものです。この結果いずれの群でもこれらの感染は確認されませんでした。そして、入浴に対する満足度は許可群で高かったとのことです。

 

 

この研究から、少なくともこの集団と条件では、退院直後の浴槽入浴が感染を増やす方向には働かなかった可能性があるということが言えます。(ランダム化比較試験ではないので言えることは限定的です)これをもって誰にとっても安全と言えるわけではなく、さらに対象は経腟分娩であり、帝王切開の場合や、通常よりも重度な裂傷だった場合など、経過が異なる場合のことは分かりません。ですが、慣習として広く行われている「産後1か月は湯船を避ける」という指導について、盲目的に信じるのではなく見直しを検討する材料になると思われます。

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出産により創傷などのダメージを負い、子宮口がしばらく開いたままになるので、創部や子宮の感染には注意が必要であることは間違いありません。ですが、人の行動を「禁止」という形で強く制限することには鈍感であるべきではありません。今回のような研究結果が発表され、再考されることになるのはとても素晴らしい進歩だと思います。(自分も真冬に出産した後シャワーで耐えていたので、可能なら解禁されてほしい気持ちでいっぱいです)

 

入浴以外にも、産後に禁止されていることは多いです。セックスや外出を控えるようにというのも代表的な産後の禁止事項ではないでしょうか。たとえば性交渉について、アメリカの国立衛生研究所(NIH)系のMedlinePlus(米国国立医学図書館)「Postpartum care」では、医師は一般に産後4〜6週の性交渉の回避を勧める、と記載されています。

 

一方で、同じアメリカのメイヨークリニックは「必須の待機期間はない」としたうえで、一般的に産後の受診で回復状況を確認してから再開するよう勧められる、と説明しています。両方とも一律の禁止ではなく、出血・痛み・創部の治癒などを前提に、現実的なタイミングを選ぶ、という方向性は共通しています。産後は女性ホルモン分泌が低下していることにより腟の乾燥や性交痛が起きやすくなっています。

 

「いつまでは一律禁止」という指導よりも、様子を見て再開してもらい、痛みがある場合は無理をしない、必要に応じて潤滑剤を使う、という具体的なアドバイスの方が大切であると思います。(日本の場合、あまり早く再開したいという方は少数派であると思われますが)

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外出や運動については、前述のMedlinePlusの「Postpartum care」では、階段や歩行といった活動量について医師の指示に従うようにとしています。メイヨークリニックは、合併症のない妊娠・経腟分娩であれば、出産後数日経過して準備ができ次第、運動を始めてよいとしています。帝王切開や大変な分娩、広範囲の腟の傷がある場合は開始時期を医療者に相談するようにとなっています。「外出禁止」「運動禁止」という単純な指導ではなく、運動の程度や、体調、出血、痛みをなどによってカスタマイズするのがよさそうです。

 

入浴についても、MedlinePlusの会陰切開後のケアでは、出産後24時間は座浴(腰湯のようなもの)を行う、といった具体的な方法が記載されています。今回の成育医療研究センターの研究の結果も踏まえると、産後の入浴を一律に禁止することは根拠が乏しいのではないでしょうか、出血量、発熱の有無、悪露の状態、会陰部の状態によっては可能として良いと思います。

 

今回、日本のナショナルセンターから、実生活に即した研究結果が発表されたことは、SNSでもとても好意的に受け止められていました。他にも妊娠、出産、子育てで、盲目的にだめだと思われていることはとても多いと思うので、「根拠はあるのか」という目で見るようにしていきたいと思います。

 

 

https://www.ncchd.go.jp/press/2026/0227.html

 

NIH(NLM)MedlinePlus:Postpartum Care

https://medlineplus.gov/postpartumcare.html

 

NIH(NLM)MedlinePlus:Episiotomy - aftercare

https://medlineplus.gov/ency/patientinstructions/000483.html

 

Mayo Clinic:Sex after pregnancy: Set your own timeline

https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/labor-and-delivery/in-depth/sex-after-pregnancy/art-20045669

 

Mayo Clinic:Exercise after pregnancy: How to get started

https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/labor-and-delivery/in-depth/exercise-after-pregnancy/art-20

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の執筆医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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