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出産 分娩 帝王切開

気になるキーワード「帝王切開」#03

帝王切開の費用と保険制度、次の妊娠の考え方

前回の記事では、帝王切開の基本的な仕組みや当日の流れ、術後の回復について見てきました。
今回は、多くの方が気になりながらも、意外と情報が出回っていない、帝王切開のお金事情と次の妊娠について取り上げてみます。もしかすると「お産は自費診療だけど、帝王切開は保険がきく」というのは聞いたことがあるかもしれません。自治体の助成金でまかなえるかどうかは地域差もありますが、ここではざっくりとした相場をふまえてお伝えします。

帝王切開の費用と保険制度

出産にかかる費用も妊婦さんにとっては大きな関心事のひとつだと思います。とくに帝王切開は手術という医療行為を伴うため、経腟分娩に比べると入院も長くなります。ただし、健康保険が適用されること、そして高額療養費制度や出産育児一時金といった公的制度が利用できることから、実際の自己負担額は想像よりも少ないケースも。

費用の目安はどれくらい?

保険適用の場合、手術の金額自体は決まっている

手術単体で20万円くらいの費用がかかり、そこに麻酔などの処置費用、薬剤費、部屋代や入院費などが加算されます。施設や地域によって幅がありますが、だいたい50〜70万円程度が目安です。(個室など部屋のグレードや施設、地域によって差があります)

自己負担額のイメージ

帝王切開には健康保険が適用されるため、原則3割負担です。
さらに出産育児一時金(原則50万円)が支給されるため、うまく活用すれば実質的な自己負担は大きく減らせるでしょう。高額療養費制度を併用すると、最終的な自己負担は10〜25万円前後に収まることも多いです。
また、民間の医療保険に妊娠前から加入している場合、帝王切開が手術に含まれることがあるため、手術給付金や入院給付金の対象になるケースもあるので、契約している保険会社にも事前に確認を。
この場合は、給付申請に必要になる書類(診断書、領収書や診断書など)はしっかり原本をとっておくことを忘れずに!

帝王切開との向き合い方

「普通に産めなかった」と感じる必要はまったくない

帝王切開を経験した方の中には、経腟分娩で「産めなかった」という感情を抱いてしまう人もいます。特に、経腟分娩で赤ちゃんに出会うバースプランを思い描いていた方にとっては、確かに予定通りではなかったかもしれません。
しかしこれは誤解であると断言できます。
帝王切開は「お母さんと赤ちゃんの両方の命を守るための最良の選択」であり、選んだからこそ、赤ちゃんが元気にここにいられるのです。
赤ちゃんを迎えるという事実は、方法の違いに関係なく尊いものだということを忘れないでください。

「産後うつ」にも注意を

もし赤ちゃんのお世話をしていて、「涙が止まらない」「赤ちゃんを可愛いと思えない」といった状態が長引く場合は、産後うつの可能性もあります。早めにかかりつけ医や心療内科に相談してください。とにかく周りのサポートを受けることが回復のカギになります。
産後うつについては、こちらの記事もどうぞ。

帝王切開後の妊娠・出産を考える

2人目、3人目のお子さんを考えている場合、次の妊娠への影響も気になりますよね。昔は1人目が帝王切開なら次の出産も当たり前に帝王切開でしたが、帝王切開後でも経腟分娩を選ぶ選択肢が知られるようになってきました。ここでは、それぞれの選択肢について解説します。

セックスや次の妊娠までの期間はあけた方が良い?

術後は、子宮内感染の危険がありますので医師の許可が得られるまでセックスは控えましょう。次の妊娠については、子宮の傷がしっかり回復するまで、半年〜1年程度の間隔を空けるように言われることがあります。これは子宮破裂などのリスクを減らすためなので、必ず主治医と相談を。
また、帝王切開でできた傷は内膜が薄くなっているため、着床する場所によっては、前置胎盤、癒着胎盤といった合併症の増加につながるとも言われています。いずれにせよ妊娠中から慎重な観察が必要です。

帝王切開の経験があっても2人目の経腟分娩は可能なの?

帝王切開の経験がある女性が、その次の妊娠で経腟分娩を行うことを、VBAC(ブイバック:Vaginal Birth After Caesarean)といいます。正確には、「帝王切開後に経腟分娩を試みること」をTOLAC(トーラック:Trial of Labor After Caesarean)といい、成功することがVBACです。
つまり、TOLACを試みて、最終的に経腟分娩できればVBAC成功、帝王切開になった場合はVBACは成立しなかった、ということになります。
TOLACはあくまで「挑戦」で、途中で経過が思わしくなければすぐに帝王切開へ移行します。このため、緊急帝王切開が対応可能な病院に限られます。

誰でも望めばできるという訳ではない

前回の子宮切開が「横切開」で、帝王切開の経験が1回であることや、妊娠経過が順調であること、VBACに対応できる病院(緊急帝王切開がすぐ可能な手厚い体制)があることなど、ガイドライン上でもさまざまな条件が定義されています。

「子宮破裂」という重大なリスクがある

VBACで一番注意しなければならないのは「子宮破裂」です。前回の帝王切開の傷あとが裂けることで、大出血や胎児仮死につながる可能性があるため、赤ちゃんだけでなく、お母さんの命も危険にさらされます。発生率は0.2〜0.7%程度と報告されています。
VBACは選択肢のひとつではありますが、必ず緊急手術に対応できる病院で行う必要があります。

予定帝王切開という選択

VBACは自然分娩のメリットを得られる可能性がありますが、子宮破裂という重大なリスクも伴います。そのため、必ず緊急帝王切開に対応できる施設で行う必要があり、日本では実施できる医療施設自体もとても少ないです。
一方で、帝王切開を選ぶことにも確かなメリットがあります。予定帝王切開は帝王切開後の出産方法としては一般的で(外科手術としてのリスクはありますが)、計画的に出産を迎えられるという利点があります。どちらを選ぶにしても大切なのは、「自分と赤ちゃんにとって最も安全な方法」を考えることです。

メリット

・子宮破裂などの急な合併症を避けられる
・日程を計画できるため、精神的・体力的な準備が整いやすい
・医療スタッフが事前に手術体制を整えられる

デメリット

・再度の手術で癒着や出血のリスクが高まる
・術後の回復に時間がかかる

まとめ|帝王切開は立派な「お産」

ここまで、帝王切開の基本から手術の流れ、メリットとリスク、術後の生活、費用、術後のケアや次の妊娠までを順に見てきました。
出産や手術を前にして「怖い」「痛そう」と不安になるのは当然のことです。
帝王切開であれ経腟分娩であれ、それぞれにメリット、デメリットがあり、それぞれの痛みやつらさがありますが、出産に違いはありません。お母さんと赤ちゃんの命を守るために必要な医療の力を借りるのは当然のことだからです。
帝王切開は、母子の安全を守るために選ばれる医学的に確立された出産方法です。経腟分娩と比べると数は少ないものの、特別なものではなく、必要なときに命を守るための貴重な手段なのです。
出産は人それぞれ違うドラマを持っています。どんな形であっても、あなたのお産は「あなたと赤ちゃん」だけの大切な経験になります。
これから迎える方も、終えて育児に突入している方にとっても、この記事が今抱える不安をなくすための力になれたら幸いです。

 

【参考・出典】
日本産科麻酔学会HP 「帝王切開の麻酔Q&A」
産婦人科診療ガイドライン2023、日本産婦人科医会、日本産科婦人科学会
病気がみえる 産科 第10版 メディックメディア、2021

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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