
産婦人科医やっきーのトンデモ医療インスタグラマー観察記①
乳児(1歳未満)にヤギミルクを飲ませてはいけません
こんにちは、産婦人科医やっきーです。
普段はブログやニュースレターで産婦人科を中心とした医療情報を発信しています。
本記事を執筆させられ…執筆させて頂くことになったきっかけは、2025年5月に岡山県で行われた日本産科婦人科学会で宋美玄先生と会食をしたことでした。
お昼すぎに企業ブースで薬の説明をしていた宋先生がその足で香川県丸亀市に向かい、うどんを堪能したのちに渋滞に巻き込まれて会食に30分遅れて登場したとき、私はフリーザかラオウを相手にしているかのような感覚を覚えたのですが、
皆様もご存知の通り、私と宋先生の権力差は沢北栄治と陵南三年の池上(ディフェンスに定評がある)くらい違うので文句など言えようはずもありません。
そんな宋先生の肝入りで始めたcrumiiですから、御多分に漏れず私も積極的に勧誘を受けました。
『やっきー先生、crumiiの協力医師として登録しといて~』
🐻❄️「(わし匿名で活動してるんだけど、実名で登録するしかないのかこれ…)かしこまりました!」
『やっきー先生、crumiiに寄稿して~』
🐻❄️「(えっ今度出版する書籍の締め切り迫ってるんスけど)かしこまりました!」
といった感じで平和的に寄稿が決定しました。わぁい嬉しいな。
ちなみにその後、キッチリ割り勘をした宋先生は颯爽と居酒屋を後にしていきました。その後ろ姿には後光が差しているかのようでした。
この人には逆らうまい。
そう心に決めた私は、こうしてチクチクと宋先生の人気度を下げることでささやかな抵抗としたいと考え、筆を執っている次第です。
新タイプの「アンチ粉ミルク」を観測
さて、今回は「産婦人科医やっきーのトンデモ医療インスタグラマー観察記」と題しまして、Instagramに跋扈するトンデモ医療発信者を観察していきましょう。
(私自身、XやInstagramなどいくつかのSNSを運用していますが、トンデモ医療との相性度に関して言うとInstagramがブッチギリです)
ある時、某自然派助産師がインスタやスレッズで粉ミルクのネガキャンをして暴れ回り、自社サイトで乳児へのヤギミルクを勧めている、との情報が寄せられました。
(以下、全て同じ助産師による発言)
「赤ちゃんにはとにかく母乳が一番!日本の粉ミルク、正直嫌です!」
「粉ミルクは自然界に存在しない成分を合成して作られています」
「ヤギミルクは消化しやすくアレルギーが出にくいのでおすすめです」
「牛乳は超高温で殺菌するので死んだ牛乳と言われます」
「日本は過度な検診で病気を作り出しているのです」
「予防接種を打ちたくない場合、『検討中です!』と言ってやり過ごすのがおすすめです」
「母乳より粉ミルクを選ぶなんてありえない。かけがえのない我が子なんて大嘘よね」
すごいです。見事なまでに反医療。
アンチ検診、アンチ予防接種、アンチ粉ミルク、そして乳児へのヤギミルク推奨。メンチン一気通貫に裏ドラも乗って数え役満です。
妊娠・出産症例を一定数経験し、専門の養成課程や試験を突破してようやくなれる助産師という資格を有していながら、ここまで母児にとって害のある発信をするのは見過ごせません。

赤ちゃんの栄養摂取の観点から、本当のところはどうなの?
さて、この自然派助産師の発言がどう間違っているのか見ていきましょう。なお、アンチ検診やアンチ予防接種について解説するとキリが無いので今回は割愛します。
(万が一、宋先生が死ぬほど多忙になり「またやっきーに頼んでみるか」と前後不覚な判断をした場合は再度書かせて頂くこともあるかもしれません。よろしくお願いします。)
まず最も大事なことを言いましょう。
乳児(1歳未満)にヤギミルクを飲ませてはいけません。
乳児が人間仕様ではない乳を飲むと栄養バランスは狂いまくります。
この問題は今から50年以上前にすでに指摘されており、1968年にはヤギ乳には乳児の栄養に必要なビタミンB6、ビタミンB12、葉酸が足りていないとの注意喚起が行われていますし(https://sciencedirect.com/science/article/pii/S0022030217310500)、
これらの栄養素は赤血球を作るのに欠かせないため、1977年にはヤギ乳で育った乳児が病的な貧血を起こしたという症例も報告されています。(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/557084/)
その後、アメリカ農務省によって、前述のビタミンB6、ビタミンB12、葉酸だけでなく、ビタミンB1・ビタミンC・ビタミンD・ナイアシン・パントテン酸・鉄分が全て不足していると発表されています。(https://web.archive.org/web/20131231045400/https://www.nal.usda.gov/wicworks/Topics/FG/Chapter4_InfantFormulaFeeding.pdf)
加えて、タンパク質が母乳の3倍と多すぎるため乳児の腎臓にも強い負担をかけますし、ナトリウム・カリウム・カルシウム・リンも過剰です。(https://www.health.state.mn.us/docs/people/wic/localagency/wedupdate/2022/topic/0608goat.pdf)
以上のことから、アメリカ小児科学会、イギリスNHS、カナダ政府機関らは揃って「1歳未満の乳児にヤギ乳をあげるのは禁止」と明言しています。
母乳が出ないなら人工乳一択
また、ヤギミルクは牛乳に比べて「アレルギーが出にくい」「消化にいい」「乳糖が少ない」「脂肪球が小さい」など色々な宣伝文句がありますが、ほぼ全部がデタラメor過大評価です。
ヤギ乳と牛乳はアレルギー的にはきわめて近い性質があるため、牛乳アレルギーの回避としてはヤギ乳は何の役にも立ちません。
消化の良さも特に実証された実験はありませんし、乳糖の量も大して変わりません。
(牛乳の乳糖は8オンス当たり12グラム、ヤギミルクは8オンス当たり9グラム)
脂肪球の大きさに関しては、そもそも一般に流通している牛乳は脂肪球を分割して小さくする「ホモジナイズ」という加工をしており、ホモジナイズした牛乳と普通のヤギミルクの脂肪球のサイズはどちらもほぼ同じか、むしろヤギミルクの脂肪球の方がちょっと大きいくらいです。(ノンホモ牛乳:10μm以下、ホモジナイズ牛乳:2μm以下、ヤギミルク:平均2.76μm)
まあ、どうしても飲ませたければ、離乳食にごく少量使う程度ならまあアリですが(材料として大さじ1~2杯程度混ぜるなど)、哺乳瓶でグビグビ飲ませるような与え方は全くおすすめしません。
母乳が人間の乳児にとって素晴らしいことは否定しませんが、母乳が出なけりゃ人工乳でまったく問題ないのです。少なくともヤギミルクを乳児に与えるよりは1兆倍マシです。

というわけでミルク育児の皆様は、このようなインスタグラマーのトンデモ医療に惑わされることの無きようお気をつけください。
なお、本記事は私のニュースレター『産婦人科医やっきーの全力解説』からの抜粋を含みます。大部分は無料でお読み頂けますので、よろしければご登録を頂けますと幸いです。
