妊娠 出産 病院 産院 選び方

【医師監修】分娩先の選び方完全ガイド 後編|産後育児方針のミスマッチを防ぐには?

前編では、分娩先を選ぶ際に押さえておきたい「施設の種類や医療体制、アクセス、費用」といったハード面のポイントを解説しました。
しかし、実際に出産してみると、産後の母乳育児方針やサポート体制など、事前に想像していなかった部分で施設とのミスマッチを感じることがあります。たとえば「母乳育児を強く勧められたが体調的に続けられなかった」とか、「ミルク育児の選択を否定されてつらかった」など、産後に方針の違いで悩む方も少なくありません。

そこで後編では、こうした方針の違いやサービス内容を事前に把握し、自分に合った施設を選べるようにするための具体的な探し方をご紹介します。
「ここで産みたい」と心から思える場所を見つけるために、チェックしておきたい項目を一緒に確認していきましょう。

医師・助産師の体制や相性も大切

出産は医療行為であると同時に、非常にパーソナルで繊細な時間です。どんな設備が整っていても、担当してくれる医師や助産師との信頼関係が築けなければ、不安が残ってしまいます。施設選びでは「人」の部分にも注目したいところですが、こればっかりは、実際に入ってみないとわからないもの。その中でも、事前にホームページなどで知りうることに絞ってピックアップしてみました。

担当医が固定されるかどうか、希望が通るか(例:女医、主治医制など)

毎回同じ医師に診てもらえると、妊娠中の変化を継続的に把握してもらえる安心感がありますが、大きな病院ではシフト制で担当医が毎回変わることも多いです。
また、プライベートな診察をすることもあるので、主治医に女医を希望する方も。曜日固定で担当医が公開されている施設もあります。希望がある場合は、事前に確認しておきましょう。

医師やスタッフとの相性・口コミ・レビューも参考に

実際に通っている人の声や体験談は、施設の雰囲気やスタッフの対応を知る大きな手がかりになります。口コミサイトやママ友の体験談は、あくまで個人の意見として参考にしつつ、最終的には自分が安心して任せられると感じるかどうかを大切にしましょう。
注意したいのは、病院の口コミは案外あてにならない、ということです。特に⭐︎1をつけている患者さんは、診療方針の違いや受付対応、自分の思い通りの処方や治療にならなかったというクレームを半ば腹いせのような形で書いている人も少なくなく、現場の医師たちが訴訟を起こしていることも有名な話です。最近の司法判断においては事実でないことを認めGoogleに対して削除を命じる判決が出たケースもあり、あくまで参考程度に留めておくことをおすすめします。

crumiiでは今後、分娩施設の方針も取材して、具体的に施設の方針が見えるような記事も制作していく予定です。

病棟見学や説明会をうまく活用する

分娩先の雰囲気やスタッフの対応は、パンフレットやホームページだけでは分かりにくいものです。実際に足を運び、施設の空気感や医療者の人柄を感じられるのが、病棟見学や説明会。一部の病院やクリニックでは、出産を検討されている方を対象に、時間や曜日を絞って定期的に実施されており、オンライン形式で行う施設も増えています。
予約制のことが多く、人気の施設ではかなり早く埋まるケースもあるため、早めに日程をチェックして予約しておきましょう。

見学・説明会で確認しておきたいポイント

参加するときは、前編で解説したような、以下の点を意識して見たり質問したりすると、施設の相性を判断しやすくなります。

・分娩室・病室の広さや設備、清潔感
・医師・助産師・看護師の対応や雰囲気
・面会や立ち会い出産のルール
・無痛分娩やバースプランへの対応
・産後ケアや授乳サポートの体制
・緊急時の対応や搬送ルート

施設側の説明を聞くだけでなく、自分の希望や不安も率直に質問してみましょう。また、最近はSNSや院内ブログなどでスタッフの日常や食事などを情報発信しているクリニックも多く、そういった情報も参考にしてみると良いでしょう。

産後の育児方針・サポート体制は必ずチェックを

出産はゴールではなく、育児のスタートです。産後すぐのサポートや育児方針は施設によって異なり、その内容が退院後の生活の安心感にも直結します。事前に確認しておくことで、産後の戸惑いや不安を減らせます。

母乳育児の支援はあるか、強制されないか?育児方針を尊重されるか

母乳がうまく出ない、赤ちゃんが吸ってくれない、母乳育児は、産後のお母さんが直面する代表的な悩みのひとつです。母乳は栄養面、経済的にも、準備を考えても様々なメリットがあるので、赤ちゃんを母乳で育てたいと考えている方には、産後のサポートをどのくらいしてくれるかも大事なチェックポイントになります。
しかし、産後の母乳の出方やお母さんの体調は人それぞれです。母乳が思うように出ない場合や、体力的に負担が大きい場合もあり、母乳育児の方針に関するミスマッチは、かなり色々なお母さんから聞くぼやきの一つです。
母乳や混合育児、ミルク育児の希望を尊重して柔軟に対応してくれるかどうかは、産後のストレスに大きく関わってくるので、母乳育児に対するスタンスについては、自分がどうしたいかも含めて必ずチェックしておきましょう。

緊急帝王切開は残念なお産ではない。選択を尊重してくれる施設選びを

母乳育児と同じような呪いのひとつに、経腟分娩できなかったことを「残念」に捉える方がいます。これは、お母さんと赤ちゃんの命を最優先に考えた結果、医療的な介入が必要になったというだけのことで、帝王切開はまったく残念なことではありません。「もう少しだったのに」という助産師さんからの一言がトラウマになってしまう方もいます。これは医療従事者側の問題でもあるのですが、お産の方針やコンセプトなどの記載に、偏りのある記述がないかをチェックしておきましょう。

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母乳外来や授乳サポート、育児相談体制の有無

授乳や乳房のトラブルは、退院後に起こるのもよくあることです。母乳外来や授乳指導、助産師による育児相談が受けられる施設なら、産後の悩みを早めに解消できます。
電話相談やオンライン相談に対応しているかどうかも確認しておくと、育児が始まってからも安心できますね。

産後ケア(デイケア・宿泊型ケア・訪問支援)の選択肢と連携先の確認

産後ケアは、出産によって受けた体と心のダメージを回復させ、育児への適応を促すサービスの総称です。日帰りで利用するデイケア、施設に宿泊して休養する宿泊型ケア、助産師が自宅を訪問してくれる訪問型の支援などがあります。
自治体と連携して補助を受けられる場合もあるため、利用条件や費用についても事前に確認しておきましょう。

初産やワンオペ育児が不安な人への支援体制があるかどうか

初めての育児や、パートナーのサポートが得にくいワンオペ育児では、産後の周囲の介入やサポートが特に重要になります。退院後も育児教室や交流の場を提供している施設や、地域の子育て支援センターと連携している施設なら、長期的な育児の支えになってくれます。少しでも不安がある場合は相談しておき、自治体との連携や、支援体制についても分娩先を決める際に参考にしましょう。

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里帰りにする?分娩施設で受ける?セミオープンにする?

分娩先を決めるとき、「どこで産むか」だけでなく、「どこで健診を受けるか」も大切なポイントです。出産を実家に戻って行う「里帰り出産」、現在通っている施設で出産まで一貫して受ける方法、そして健診と分娩を別の施設で行う「セミオープンシステム」という3つの選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、生活環境やサポート体制、移動のタイミングなども含めて検討しましょう。

実家でサポートが受けられるか、パートナーのサポートが受けられるか

里帰り出産は、実家の家族から産後の生活支援を受けられるのが最大の魅力です。初めての育児やパートナーの休暇取得が難しい場合には心強い選択肢となります。ただし、妊娠後期の長距離移動には体調変化や早産のリスクもあるため、移動時期は妊娠30週頃までがひとつの目安です。逆に現住所近くの施設で出産すれば、パートナーが立ち会いやすく、退院後すぐに家族での生活を始められるメリットがあります。

セミオープンシステムとは?

セミオープンシステムは、妊婦健診は自宅や職場近くのクリニックや助産院で行い、分娩は高度な医療体制を備えた総合病院や周産期センターで行う方法です。健診の通いやすさと、分娩時の安全性を両立できるのが利点ですが、提携先や予約枠が限られることもあります。利用を希望する場合は、妊娠初期のうちに健診先と分娩先の両方に相談し、予約や連携方法を確認しておきましょう。
医療機関からの予約が必要な場合もありますので、予約についてのチェックも忘れずに。

そもそも他施設での健診を受けられるか

分娩施設によっては「うちで出産する方は、妊婦健診もすべて当院で受けてください」という方針を設けていることがあります。これは、同じ施設内で一貫して経過を把握し、安全に分娩に臨めるようにするためです。こうした施設を希望する場合は、健診も含めてその方針に従うことが原則です。
一方、セミオープンや里帰り出産のように健診と分娩先が異なるケースでは、母子健康手帳の受診券が他施設で使えるかどうかを自治体に確認しておく必要があります。他県・他市で受診する場合、助成を受けるには一旦自己負担をして全額を支払い、後日自治体へ申請が必要になることもあります。
どちらのパターンでも、健診の受け方や費用の取り扱い、紹介状や検査結果の引き継ぎ方法は、事前に分娩先と健診先の双方に移動のタイミングを伝えたうえで確認しておきましょう。

分娩予約の時期と流れを事前に把握しよう

妊娠7〜10週前後には分娩先を決める必要があるところも

多くの施設では、妊娠10週〜12週前後までに分娩予約が必要です。特に首都圏や人気の産科クリニックでは、初診の時点で予約がいっぱいになっていたり、8週頃までに予約が締め切られていることもあります。妊娠がわかったら、なるべく早めに候補の施設を調べ、健診の早い段階で決めましょう。

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人気の病院はすぐに予約が埋まるため、健診初期で予約の確認を

口コミや評判の良い病院、無痛分娩やホテルのような入院環境を整えている施設は、早期に予約が埋まりやすいです。初診や妊娠確認のタイミングで「分娩予約の空き状況」を必ず確認し、希望日が取れない場合に備えて第2、第3の候補も検討しておくと良いでしょう。
施設によっては、医療機関からの予約や紹介状、指定の週数までの受診を必須にしているところもありますので、分娩先の予約ルールをチェックし、早めに受診することが大切です。

転院希望の際のルールや時期、キャンセルの対応なども確認しておく

妊娠中期以降に転居や里帰り出産などで分娩先を変える場合は、受け入れ時期や必要書類(紹介状など)を確認しておきましょう。また、予約後にキャンセルする場合のルールやキャンセル料の有無も施設によって異なります。トラブルを避けるためにも、事前に契約内容や規約をよく読んでおくことが大切です。

そもそも分娩先、どうやって探せば良いの?

分娩先を選ぶ際、「何を基準に選べばいいのか」の前に、「どんな施設があるのか」を知ることが第一歩です。近年は自治体や病院のホームページ、口コミサイトなど情報源が多く、迷ってしまう方も少なくありません。そんなときに役立つのが、厚生労働省が運営する公式情報サイト「出産なび」です。全国の分娩施設の情報が網羅されており、公的機関が提供しているため信頼性が高いのが特徴です。
税金の無駄遣いだ!と批判された経緯もありましたが、無痛分娩の対応有無や麻酔科医の配置、費用の目安がわかったりと、有益な情報もたくさんあります。うまく活用しましょう。
crumiiでも、お産を行っている施設の解説は、順次行っていく予定です。

地域ごとに検索したり、費用の比較も可能

「出産なび」は、全国の病院・診療所・助産所など、分娩に対応している施設の情報をまとめた検索サイトです。公的データに基づいた情報なので、初めて施設を探す人や、里帰り、転居予定がある人でも安心して利用できます。

出産なびのいいところは、以下のような感じです。

・都道府県や市区町村単位での施設検索が可能
・病院・診療所・助産所など、施設種別で絞り込みができる
・無痛分娩・母乳ケア・NICU有無など、希望条件で検索可能
・分娩件数や医療機能の概要も確認できる

検索方法の例:
1. 「出産なび」のトップページにアクセス
2.「地域から探す」をクリック
3. 都道府県を選び、市区町村まで絞り込む
4. 施設種別や希望条件(例:無痛分娩対応、NICU併設)をチェック
5. 絞り込み結果から気になる施設の詳細ページを開き、所在地・医療体制・連絡先を確認

チェックリストで自分に合う分娩先を比較しよう!

まずは希望条件(分娩方法・距離・費用・育児方針など)を整理する

まずは自分や家族が優先したい条件を書き出してみましょう。例えば、「無痛分娩ができるか」「自宅から30分以内」「個室希望」「母乳育児サポートがあるか」などです。すべてを満たす施設が見つからないこともあるため、譲れない条件と優先度の低い条件を分けておくと選びやすくなります。

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条件別比較表や施設見学の活用でミスマッチを防ぐ

複数の候補がある場合は、条件ごとに比較表を作ると違いが一目でわかります。
また、可能であれば施設見学や説明会に参加し、病室や分娩室の雰囲気、スタッフの対応などを自分の目で確かめましょう。写真やパンフレットだけでは分からない部分を知る良い機会になります。

ママ友や先輩の体験談も参考にして、実際の声をヒントにする

実際にその施設で出産した人の話は、リアルな情報源です。良かった点だけでなく、不便に感じた点も聞いておくことで、より現実的な判断ができます。ただし、体験談はあくまで個人の感想。自分の条件や価値観に照らして参考にするようにしましょう。

よくある質問とトラブル時の対処法

妊娠中期以降でも分娩先を変えられる?

妊娠中期以降でも分娩先を変更できることはありますが、施設によっては受け入れ時期や条件があり、妊娠後期になると新規受け入れが難しい場合もあります。転院を希望する場合は、できるだけ早めに候補施設へ問い合わせ、紹介状や検査データを準備しておきましょう。特に都市圏の分娩施設は早めに予約を締め切られることが多いため、必ず妊娠初期に分娩先を確保しておいてください。

分娩予定日の変更や緊急時の対応体制も事前に確認しておく

妊娠の経過によっては、医師の判断で分娩予定日を早めたり、逆に予定日を過ぎても経過観察になることがあります。予定日変更や誘発分娩の可能性、緊急帝王切開が必要になった場合の流れは事前に知っておくことで、いざという時の不安を減らせます。
また、夜間や休日でも連絡できる連絡先があるか、急変時の搬送体制が整っているかもチェックポイントです。

急なトラブルがあった場合の連絡・受診の目安

出血、破水、激しいお腹の張りや痛みなど、異常を感じたときは迷わず医療機関へ連絡しましょう。「どのくらいの症状で連絡すべきか」「夜間や休日はどうすればよいか」などを、事前に施設スタッフに確認しておくと安心です。

まとめ|納得のいく分娩先選びで、安心して出産を迎えよう

分娩先を選ぶことは、出産準備の中でもかなり初期に訪れる重要な意思決定です。医療体制や設備、アクセス、費用、出産方法の選択肢、産後の育児体制まで、見るべきポイントは多岐にわたり、誰のサポートのもとで、どんなお産を望むのか、あまりイメージがわかないままに決めなくてはなりません。
今回は、そんな分娩先の決め方を解説してみました。
この記事でご紹介したチェックポイントを参考に、まずは自分や家族の希望条件を書き出し、複数の施設を比較してみましょう。そして、不安や疑問は遠慮せずに相談し、納得のいく形で出産の日を迎えてください。
出産は、生涯思い出となる大切なイベントです。あなたにとって最も安心できる場所と支えてくれる人たちとともに、笑顔でその日を迎えられることを、crumiiは心から願っています。

 

【参考文献】
出産なび

宋美玄 産婦人科医 crumii編集長

この記事の監修医師

丸の内の森レディースクリニック

院長

宋美玄先生

産婦人科専門医

丸の内の森レディースクリニック院長、ウィメンズヘルスリテラシー協会代表理事産婦人科専門医。臨床の現場に身を置きながら情報番組でコメンテーターをつとめるなど数々のメディアにも出演し、セックスや月経など女性のヘルスケアに関する情報発信を行う。著書に『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』など多数。

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