重見大介 風しん ワクチン 妊活 妊娠 出産

男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #08

“風しん”にご注意を 〜妊活中から2人で気を付けてほしい感染症〜

風しんってどんな病気?

風しん(Rubella)は、主に咳やくしゃみのしぶき(飛まつ)や接触を通じて広がるウイルス性感染症です。発熱・発しん・首や後頭部、耳の後ろのリンパ節の腫れが「三主徴」とされ、感染後2〜3週間の潜伏期間を経て現れますが、大人では関節炎、まれに脳炎や血小板減少性紫斑病などの合併症も報告されています。
ただ、発症しない(無症状)ケースも少なくなく、小児では30~50%、大人ではおよそ15%でははっきりした症状が出ないとされています。
風しんの特徴として、症状が軽いため風邪と間違われやすいこと、しかも症状がない状態でも感染させうることがあるんですね。加えて、特に妊娠初期の女性に感染が及ぶと胎児に重大な影響(先天性風しん症候群)を引き起こす可能性があることをぜひ知っておいてください。

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photo: PIXTA

妊娠と風しん:なぜ注意が必要なの?

妊娠初期(特に妊娠20週までに)に風しんにかかると、胎児が「先天性風しん症候群(CRS)」を発症するリスクがあります。例えば妊娠12週までに感染した場合、約85%の胎児にCRS発症の可能性があります。それより少しあとの妊娠13~16週では約50%とされます。2013〜14年の風しんの大流行では、国内で45人がCRSを発症し、11人が亡くなってしまいました。

代表的な影響・症状としては、以下のようなものがあり、時には複数の影響・症状が併存します。

難聴
先天性心疾患
白内障
精神・身体の発達の遅れ

過去の報告では、以下のようなケースもあったそうです。CRSの予防や早期発見の難しさを実感します。

・妊娠中に発疹と発熱を認め医療機関を受診したが風疹の診断に至らず、出生した児がCRSだった

第1子分娩後に風疹ワクチンを受けたが今回HI 8倍、妊娠中風疹症状なし、出生した児がCRSであった

そうは言っても、できる限り発症リスクを下げておくに越したことはありません。
症状が軽いため感染したという自覚がない場合も多く、妊婦さんご本人だけでなく、パートナーや周囲の人たちも感染予防の意識を持つことがとても重要です。

男女ともに知ってほしいワクチンの重要性

風しんに対する主な予防方法は「麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)」です。これは生ワクチンというタイプのワクチンなので、妊娠中の女性は接種できませんが、妊活中の女性やそのパートナー、同居家族は接種しておくことが推奨されます 。なお、ワクチン接種後は2ヶ月間の避妊が必要です。
風しんのワクチンはとても安全性が高く、妊娠中に風疹ワクチンを接種してしまったことで胎児に障害がでたという報告はこれまで世界的にもありませんが、その可能性が理論的に完全に否定されているわけではありませんので、上記の注意点は必ず覚えておいてくださいね。
風しんへの免疫があるかどうかは、抗体検査(血液検査です)で確認できます。抗体価が一定の値以上あれば安心ですが、それ以下である場合はワクチン接種をぜひ検討しましょう。1回の接種で約95%の人が免疫を獲得できますが、2回接種でさらに確実(約99%)となります。
重要なのは、妊娠を予定している女性だけでなく、パートナーと2人で協力して感染しにくい状態をつくることです。同居家族がいる場合には、ご家族も一緒に考えていただけると嬉しいです。

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抗体検査の費用助成をチェック!

妊娠を希望する段階での抗体検査は、風しんに対する免疫の有無を確認する大切なステップです。妊活中の女性やそのパートナーを対象に、無料または費用助成付きで抗体検査を提供する自治体も多くあります(例:横浜市、千葉県、埼玉県)。
検査の結果、「十分な免疫がない」と判断された場合にはワクチン接種が推奨されます。抗体価が基準値以上であっても、より確実な感染予防を望む場合は追加接種の相談を医師にすることも可能です。
また、厚生労働省のページでは、今まで風しんにかかったことが確実である(検査で風しんの感染が確認された場合)場合は、免疫を持っていると考えられることから予防接種を受ける必要はないと書かれています。ただ、風しんかどうかはっきり覚えていない場合は、医師にぜひご相談ください。
たとえ過去に風しんにかかったことがある人がワクチン接種をしても、副反応は増強しませんのでご安心くださいね。

男性パートナーも「自分ごと」に

妊娠前の予防対策は「夫婦(カップル)で」行うことが大切です。パートナーも含めた抗体検査とワクチン接種は、2人だけでなく、赤ちゃんや周囲の人々を守るためにもつながります。
この通り、男性は決して「他人ごと」ではなく「自分ごと」と考えなければなりません。過去に、日本では公的な風しんワクチンを受ける機会がなかった時期があり、昭和37年4月2日から昭和54年4月1日生まれの男性は、特に抗体保有率が低いことがわかっています。
なお、平成28年度の感染症流行予測調査では、30代後半から50代の男性の5人に1人が、20代から30代前半の男性の10人に1人が、風しんの免疫を持っていませんでした。
妊娠前から2人でできる「赤ちゃんの健康を守る行動」として、ぜひ本記事の内容を参考にしていただければ幸いです。

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【参考文献】
厚生労働省. 風しん.
国立健康危機管理研究機構. 感染症情報提供サイト. 風しん.
横浜市. 横浜市風しん対策事業(妊娠を希望する女性などの風しん予防接種と抗体検査).
埼玉県. 風しん抗体検査事業.
千葉県風しん抗体検査.
国立健康危機管理研究機構. 感染症情報提供サイト. 産婦人科医からみた2012、2013年の風疹流行の課題.

重見大介

この記事の執筆医師

産婦人科オンライン代表

重見大介先生

産婦人科

産婦人科専門医、公衆衛生学修士、医学博士。産婦人科領域の臨床疫学研究に取り組みながら、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」代表を務め、オンラインで女性が専門家へ気軽に相談できる仕組み作りに従事している。他に、HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動や、各種メディア(SNS、ニュースレター、Yahoo!ニュースエキスパート)などで積極的な医療情報の発信をしている。

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