
男性産婦人科医・重見大介が伝えたいこと #09
“麻しん(はしか)”にご注意を 〜妊活中から2人で気を付けてほしい感染症〜
麻しんとは? 知っておきたい基本情報
麻しん(はしか)は非常に感染力の強いウイルス感染症で、空気感染(飛沫核感染)により同じ空間にいるだけでうつることがあります。そのため、マスクや手洗いだけでは防ぎきれず、ワクチンによる免疫獲得が唯一の有効な予防手段です。
症状は高熱・咳・鼻汁・全身の発疹などで、成人では約3割で肺炎や脳炎などの合併症を起こすとされていて、妊婦さんではより重症化リスクが高まる可能性があります。また、妊娠中の感染は母体だけでなく、流産や死産につながるおそれもあり、十分な注意が必要な感染症です。
国内では、2015年に麻しんの排除状態にあることが世界保健機関(WHO)により認定され、以降排除状態が維持されていました。しかし、2025年8月現在、麻しんの感染者が東京都内で急増していることが報告されています。今年の感染者数は8月7日時点で28人となり、昨年1年間(10人)を大幅に上回っているとのことで、より一層の注意をしていきたい状況です。
▼参考
2025年も麻しん(はしか)の流行に注意!気をつけてほしい、妊娠・出産にまつわること
妊娠中にかかるとどうなる? 母体と胎児への影響

妊娠中の麻しん感染は、免疫がやや低下している状態であると考えられており、肺炎など合併症の重症化の懸念があります。麻しん感染で死亡する例も報告されていますので、これは妊婦さんであっても例外ではありません。
1988年から1991年の期間にロサンゼルスで発生したアウトブレイクで、麻しんを発症した妊婦58人を非妊婦748人と比較すると、妊婦さんは入院しやすく、肺炎を発症しやすく、死亡しやすかったことがわかっています。また、1993年にサウジアラビアで行われた別の研究では、麻しんに感染した妊婦さんは非妊婦よりも入院しやすかったと報告されています。
一方で、麻しんによる胎児の形態異常リスクは「風しん」ほど高くはないものの、子宮収縮などによる流産・早産のリスク上昇が指摘されています。また肺炎などによって母体の全身症状が重篤化することで、場合によっては胎児死亡に至ることもあります。
サウジアラビアの研究では、麻しんに感染した女性から生まれた新生児は、麻しんのない女性から生まれた新生児よりも早産率が高く、新生児集中治療室(NICU)に入院する可能性が高く、集中治療室での滞在時間も長かったことが報告されています。
他の研究でも、麻しんに罹患した妊婦さんでは、罹患しなかった妊婦さんよりも、自然流産、子宮内胎児死亡、低出生体重児の割合が高かったと報告されています。
したがって、「風しん」と同様に、妊娠前の予防対策が極めて重要な感染症、ということになりますね。
*風しんについては以下の記事をご参照ください。
“風しん”にご注意を 〜妊活中から2人で気を付けてほしい感染症~(重見大介)
男女ともに必要なワクチン接種の重要性
麻しん予防には、麻しん単独または麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)が使われます。これらは生ワクチンであり、妊娠中は接種できませんが、妊活中の女性やそのパートナーは流行状況も踏まえて接種を検討することが推奨されています。
麻しんのワクチンは、2回接種により発症のリスクを最小限に抑えることが期待できます。
また、麻しん含有ワクチンを接種することによって、95%程度の人が麻しんウイルスに対する免疫を獲得することができることがわかっています。
なお、生ワクチンの場合は接種後の妊娠にも注意が必要です。厚生労働省のページには「妊娠されていない場合であっても、接種後2カ月程度の避妊が必要です。これは、おなかの中の赤ちゃんへの影響を出来るだけ避けるためです。」と明記されていますので注意しましょう。ただ、もし接種してから2カ月以内に妊娠が発覚しても赤ちゃんに影響が出る確率は非常に低いと考えられていますので、まずは落ち着いて産科の主治医と相談してくださいね。
重要なのは、妊娠を予定している女性だけでなく、パートナーと2人で協力して感染しにくい状態をつくることです。同居家族がいる場合には、ご家族も一緒に考えていただけると嬉しいです。

抗体検査で“免疫の有無”を確認しよう!
麻しんは、一度感染すると免疫(抗体)が体内にできるため、再度麻しんに感染・発症することは基本的にありません。そのため、麻しんの抗体を持っていれば安心できると考えていいでしょう。過去に麻しんに感染したことがある、ワクチンを接種した記録がある、などであれば、抗体をきちんと持っている可能性が高いです。
抗体検査は医療機関で受けられます。もし抗体がない、または十分でない場合は、妊娠前にワクチンを接種しておくことで、母体だけでなく赤ちゃんも守ることができます。女性だけでなく、男性パートナーも含めて検査・接種を検討することが大事ですね。
男性パートナーも「自分ごと」に
妊娠前の予防対策は「夫婦(カップル)で」行うことが大切です。パートナーも含めた抗体検査とワクチン接種は、2人だけでなく、赤ちゃんや周囲の人々を守るためにもつながります。男性にも、決して「他人ごと」ではなく「自分ごと」と考えていただけると嬉しいです。
もし妊娠後に抗体がないとわかった場合は、ワクチンを接種できませんので、流行時にはなるべく外出を避け、人混みに近づかないようにするなどの注意が必要です。もし発熱や発疹などが出てきたら、かかりつけの産婦人科にまず電話で相談してくださいね。
妊娠前から2人でできる「赤ちゃんの健康を守る行動」として、ぜひ本記事の内容を参考にしていただければ幸いです。
【参考文献】
1. CDC. Clinical Overview of Measles.
2. 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト. 麻しん.
3. Rasmussen SA, et al. Obstet Gynecol. 2015;126(1):163-170.
4. 厚生労働省. 麻しん.